第二話 夢の話
2―夢の話
譲が目を覚ますとそこはゲストハウスの干し草のベットではなく、譲の部屋のいつものベットでした。譲は天井を見渡しアルベルトがいないことを知ると
「アールー!」
と泣き叫んでしまいました。するとすぐに隣の部屋からアルベルトではなく譲の両親が飛び込んできました。
「どうしたの?怖い夢でもみたの?」と母親の智美は譲を抱きかかえながら尋ねました。譲は必死にアルベルトと干し草のベット、そして源がいなくなったことを説明しましたが、智美は「怖い夢だったのね」と言うばかりです。父親の和也は譲の額に手を当てたあと「大丈夫だ、熱はない」と小さな声でつぶやき、「怖い夢をみて小便ちびったか?」と意地悪く言うと、わははと笑いました。
譲は夢でもないし、怖くもなかったと反論しましたが、二人ともそんな反論は聞き入れないで「さあ、朝ご飯だ」と譲は父親に抱きかかえられてリビングへ運ばれていきました。
無理やりリビングに連れてこられてきた譲でしたが、食卓につくといつもより少し豪華な朝食がならんでいました。
それを見て、今日は日曜日なのだと思い出し嬉しくなりました。
譲は日曜の朝食の時間が好きなのです。いつもは慌ただしい朝食の時間ですが日曜日は父親の和也ものんびりといるです。そして、決まって両親は譲の話をききたがります。日曜日の朝食は、そんな譲の主役になれる時間なのです。
今日はアルベルトや源について話そう!と決め、なにから話そうか?と悩んでいましたが、残念ながら今日の食卓にあがった話題の主役は、譲ではありませんでした。
話題にあがったのは昨夜に続き「じゅく」のことでした。
智美は譲に出来るだけやさしく「譲、塾へ行きたい?」と初めて直接譲に聞きました。
譲は正直に「どちらでもいい」と答えます。すると智美と和也は「どっちでもいいってことは、行ってもいいってことよ」とか「行きたくないってことだ」と勝手に二人で話はじめてしまいました。
譲はたった一言の台詞しか与えられず、主役どころか舞台の端っこで寂しくパンをかじってるしかありませんでした。
両親の口論を聞きながら、譲はアルベルトや源について考え始めました。もう起きているのか?とか自分を探してないか?そしてもう会えないのか?
譲はそこまで考えたところで不意に涙がにじんできてしまいました。さらに、涙が出たことでよりもう二度と会えないような気分がしてしまい、とうとう譲は、声をあげて泣きだしてしまいました。
その泣き声を聞いた両親はあわてて振り返り、席を立ち譲の横へ駆け寄りました。
「どうした譲、大丈夫か?」
と和也は譲の頭をなでました。その横から智美は両手で譲のほっぺを挟みキスをしながら「ママ達は喧嘩してたんじゃないのよ、ごめんね。寂しかったのね?」と謝りました。
譲は「違う、そうじゃない」と言うのですが、二人とも「もう大丈夫」というばかりで、全く聞き入れようとしません。そして、最後には「遊園地につれてってあげるからね」と見当違いなことを言いだします。
まったく大人というのはずるい。
でも遊園地の魅力に負けた譲は「うん、もう大丈夫」と最後には泣き止むのでした。
遊園地という響きには何か特別な暗示でもあるかのように楽しい場所を想像してしまうのですが、譲の友人達の間でも評判のつまらない場所の一つ、ファミリーパークに和也の運転する車が着いたとき、譲は暗示というものの恐ろしさと、どこの遊園地か確認しなかった自分の甘さを悔やむのでした。
ここファミリーパークは遊園地なのに、乗り物が4つしかない小学生の譲たちから見ても子どもだましな遊園地なのです。でも、大人たちはこのリーズナブルな遊園地を自然がたくさんあって素敵な場所だと、嬉しそうにいうのです。
ファミリーパークの入場ゲートをくぐり、不満足でいっぱいの譲でしたが、親たちの満足そうな顔をみると、仕方ない、親孝行だと諦めてファミリパークで妥協することにしました。
そんな譲の考えなんて知らない和也は「連れて来てやったぞ」と言わんばかりに譲の頭を何度もなでて「うれしそうだな」と連発しました。
そして何の相談もなく和也がお気に入りのお金を入れると動くパンダの乗り物にまたがり「譲はパンダが好きだものな」と譲を無理矢理、自分の後ろに座らせます。
譲は運転したいとつぶやくのですが、和也が運転を代わってくれるわけもなく、いつも最後は諦めて和也の運転するパンダにしがみついているのです。
パンダが動かなくなると次は決まって智美とメリーゴーランドに乗ります。
智美は昔から子どもが出来たら母子でメリーゴーランドに乗るのが夢で、子どもが恥ずかしがるまで無理にでも乗ってやると決めているようなのです。
一方、譲は物心ついた頃からメリーゴーランドなんてものは女の子が乗るものだと思っています。
譲は「乗りたくない」「恥ずかしいよ」と言いたいのです。だけど、智美のうれしそうな顔を前にすると言い出せなくなり、さっきのパンダと同様に親孝行と諦めて乗り込むのです。
そんなこととは知らない智美はメリーゴーランドから降りると夢心地で「また次、来た時も乗ろうね。」と優しく次回の死刑宣告を告げるのです。
なんとか知り合いに見られることなくメリーゴーランドが終了した譲は、急いで二人の手を引き次の乗り物へと走りだしました。
次はついに譲の好きな空飛ぶゾウの乗り物に乗る番なのです。
和也と二人でゾウに乗りこむとき譲はふいに源のことを思い出して聞いてみました。
「パパ、魚も頑張れば空を飛べるかな?」
「うん?」
と和也は首をひねります。そこに、譲は続けます。
「鳥も頑張れば海を泳げるかな?」
和也が答えるより前にゾウは大きな螺旋円を描きながら上空へ昇っていきます。譲は、ゾウがガコンと大きな機会音を上げて動き始めてから頂上に行くまで地上で見送ってくれる智美を見ています。譲は智美が旅立つ自分を見送るのをみて気分を盛り立てるのです。それから和也とともに外に引っ張られながらくるくると空を旋回します。前を見たり、地上の智美を見ながらくるくると空を散歩します。今日は和也が両手を横に広げ、手を翼のようにして空を飛ぶ真似をするようにジェスチャーしたので譲は左の翼、和也は右の翼の役をして親子で飛行機の真似をして空をまわりました。
ゾウが譲たちを地上に下ろしてから和也は言いました。
「空飛ぶ魚に海を泳ぐ鳥?パパは知らないな。でもいないとは思わないな?だってパパ達も今空飛んだもんな~。だから頑張れば、魚も空を飛べるかもしれないし、鳥も海を泳げるかもしれないね。ただ空を飛びたい魚や海を泳ぎたい鳥ってのはあまり聞かないけどね」
それを聞いた譲が「よかった」と喜んでいると、智美がそろそろお弁当にしましょうと、やはりこれもお決まりの台詞を口にしながら走りよってきました。
青い空に真っ白な雲が浮かぶ、真夏の空の下、三人はファミリーパークの中央にある芝の小高い丘の指定席である木陰にビニールシートを広げました。
急ごしらえの日のお弁当はおにぎりか、サンドウイッチと決まっており、今日はサンドウイッチの日でした。
急ごしらえとはいえ料理上手が自慢の智美が作ったサンドウイッチは味も確かで、種類も豊富、卵焼きサンドに、ハム、トマト、きゅうりサンド、キャベツやウインナーをサンドしたものもあり、いつも家族の絶賛をあびます。
さっそく和也が「さすがママ」と言いながら卵焼きサンドをくわえました。譲は今日もどれから食べるか悩んでいます。譲が卵焼きサンドかキャベツ&ウインナーサンドかの二つにまでやっと絞り込んだ時、和也が三つめであるサンドウイッチに手を伸ばしながら聞いてきました。
「譲の夢はなんだい?」
唐突の質問に譲が戸惑っていると、智美が「将来なにになりたい?」と付け加えて聞いてきました。
譲はやっと決心をして卵焼きサンドを手に取りながら「ウルトラライダー」と答えました。
ウルトラライダーは、譲の仲間内で今一番人気のある変身ヒーローなのです。
しかし、ウルトラライダーは和也達の聞きたかった回答ではなかったようでした。二人の質問はさらに続きます。
「う~ん、将来は何がしたい?、」
「つまり、これから何がしたいかな?」
譲は卵焼きサンドを飲み込みながら「ソフトクリームが食べたい!」と答えを返しました。
結局、その日一日、家族3人ともファミリーパークを楽しみました。譲は遊び疲れたのかいつもより早めに眠ってしまいました。
譲が眠ったあと、和也と智美はリビングで晩酌をしながらまた塾について話あっています。
結局、「将来の夢がウルトラライダーである子どもに、いくら周りが行っているからと言っても、塾は早いのではないか」と言う結論になり、譲の塾は延期となったようです。
それから二人の話題は自分の子どものころの夢に移りました。和也の夢は譲と同じで変身ヒーローでした。
「小さいころはふろしきでマントを、木の枝で剣を作り戦ったもんだ」と話した。すると少女時代お転婆だった智美が、「岩場で秘密基地とか作って遊ばなかった?」と返し、話ははずみ、酒もすすみます。
「子どもの時は毎日休みで楽しかったな」と和也がもらすと、
「そう?私は早く大人になりたっかったわ、大人は勉強しないですむっていつも思っていたわ」
「あと夜更かししても怒られないし、お酒も飲めるってな」
子どもの時は大人がよく見えていた。人生でも隣の芝は青く映るんだなそんなことを話しました。
それから和也が思いついたように「でも子どもの時は夢がいっぱいあったよな」と言いいました。
智美は「私はその夢がかなって、今ここにあなたといるから幸せよ」と和也に寄りかかってきました。
結婚して9年目、まだまだ新婚気分の抜けない砂原家の幸せの時間です。そんな幸せに浸りながらも、和也は大人の夢ってのは何なのかな?となにともなく考えるのでした。




