微かな熱
それからはリビングで雑談が始まり、場うての様子で親父と優香の話を聞いていると、偶に優香は何が好きなのかや普段何をして過ごしているのかを新太に聞いた。だが新太は簡単に答えるだけで間が持たない、なのでまた親父と話を始めてその会話を静かに聞いているばかりである。するとまたインターホンが鳴り、今度は親父が出る様子もなく、優香は何が来たのだろうと首を回して見つめるばかり。新太がいつも通りに出て玄関に向かう。出てみると出前をとっていたらしく、桶を受け取り料金を支払わなければならないと考えていると、親父が後ろにいて財布から金を出した。どうせ来るならば自分で受け取ればいいと思いながら見ていると、新太から桶を取って自分でリビングに運んで行った。呆然としていると優香から呼ぶ声がしてリビングに行くと、桶を開け寿司が並んでいる。
「良かったね。新太君お寿司は好き?」
と優香から聞いてくるので、はいとだけ答えた。
寿司を食いながらも優香は話を止めなかった。こうも沈黙の続かない食事はこの家では珍しい、そして話しかけてくれるのだが自分の事をどう思うかや母親にして欲しい事はあるかなど、これには狼狽して答えに窮した。食い終わると新太が桶を玄関に運ぼうとするのを半ば強引に優香が引き取り「どこに置くの?」と聞くのでもぞもぞと「玄関に」とだけ言った。優香が玄関へ向かうとその後を親父が追う。どうやら今日はこれで帰るようで、優香は靴を履き終わると腰をかがめて。
「明日また来るから」
と言い、親父にも何か一言いって帰った。玄関が閉まると、
「明日は引っ越し業者が来るから」
と言い、それから新太に物置になっていた部屋を何もない状態にしておくように言って冷蔵庫から何か出して食い始めた。いつもなら何もしないのかと憎悪を向けるところだが、今や優香の為に何かしてやりたいという思いが強く、新太は一層掃除に励んだ。箪笥に置き去りにされていたもう着ない洋服、押入れの埃にまみれながら引っ張り出した敷布団等々、使わない物や壊れて置きっぱなしになっていた物を部屋の外まで運び出して袋に詰めた。このゴミをどうしたものかと考えていると、親父からは「ごみ捨て場に置いて来い」との事、明日は燃えないゴミの日だから困っているのだが、親父にゴミの分別なんて意識は無い、何でもごみはごみ捨て場に置いて置けばいつか回収されるものとでも思っているのだろう。明日捨てられる物は玄関に置き、捨てられない物は手間だが新太の部屋まで運んでいくしかない、その辺にでも置いておくとまた掃除をしていないと言われかねない。捨てられそうな曜日にでも持って行く事にした。ゴミを新太の部屋まで運び終えると窓の外は月夜である。ぐったりしてベッドに寝ころんだ、すると力や疲れなどといったものが染み出してベッドに沈み込む様な感じがした。この時間に親父がまだ家に残っているとは、優香という者は偉大であるなどと変わった事を考えた。それから優香がこの家に来てどのような生活になるだろうかと考えると活力が涌いてくるようであり、頬に微かな熱を感じた。立ち上がると一階の風呂場に行った。その夜は風呂を上がって夜食を済ませると、課題を進めて眠りについた。




