↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/10

8.終わったんじゃ


  8.終わったんじゃ



終わったと思っていたいじめ復讐事件には、まだ続きがあった。


二日後、姚子の帰宅を待つように、またもや侠兎と杼弥が共に玄関前で立ち話を

している光景が目に飛び込んできた。

(あれ?、またあの子がいる、なんでだろう)


「おう、帰ったか姚子」

「こんにちわ、姚子さん」

姚子の顔を見て気さくに挨拶する二人。

緊張感はなく、特に込み入った話をしている雰囲気には見えない。

「何やってんの?、二人で」

「こいつが何だか新しい情報があるって言ってな、訪ねて来たんだ」

「新しい情報って何?、終わったんじゃないの?」


杼弥は、いつもながらの子供声で、滑舌よく新たな問題を提起した。

「ちょっと腑に落ちない点があったから、ボクなりに調べてみたんだ。

 一美はどうやって妖怪の存在を知ったのかをね」


(ああそうか、そこは盲点だったな)

確かに、言われてみれば、重機一美と妖怪の接点がはっきりしていない。

そこに妖怪がいると知っていなければ、行ってみようなどとは思わないはずだし、

そもそもその妖怪が願いを叶えてくれるのかどうかという事すらも、事前に知識

がなければ願掛けなど行う気にもならない。


「だから、笠栗山へ行って会ってきたんだ、炭猴に。

 でも、それについて炭猴は知らぬと言った。

 一美というヒトとは願掛けに来た時に初めて会っただけで、それも何十年かぶ

 りの事だったので、かなりの違和感を覚えたって言ってたよ」

「山猿は人間の中じゃ既に忘れられた存在だったって、松子も言ってたもんな」

「そういう事だね。

 山の麓で出会った近所に住む老人にも聞いてみたよ。

 笠栗山は、昔は山仕事の人、樵や狩人がよく入っていたんだそうだよ。

 その時使ってた細い山道はまだ残ってるけど、登山や山歩きに入る人はまずい

 ない。

 今は、もっぱら近所の老人達が山菜採りに入る程度なんだって。

 その途中に地蔵堂があるのは知ってるけど、山菜採りの時に手を合わせる程度

 だから、日頃から特に信仰されてるとかもないし、何かの謂れがあったり言い

 伝えがあるような話も聞かないってさ。

 ましてや、そこに妖怪が棲んでるなんて、地元の人でさえ誰も知らないんだ。

 炭猴がいつからあの祠に棲むようになったかは本人も憶えてなかったけど、ほ

 とんどヒトと関わりは持ってないと言ってたよ」

「じゃあ、その女はどこで山猿の情報を得たんだ?」

「そこだよ。

 ネットで検索しても何も出てこないし、両親の出身地は別の地方だから知る由

 もない。

 でも、誰かが教えたはずなのは確かだよ。

 地元の老人でも知らないような古い情報なんだ、そうでもなかったら普通は辿

 り着けっこないよ」


既に人々の記憶の彼方へ消え去ってしまって久しい、その存在さえ疑われる妖怪

の棲息を知る者は誰なのか。

よほどの事情通か、或いは関係者でもなければ知り得ない激レア情報を、一体誰

が一美に教えたのか。


「そこで、一美が不登校になってから、家族以外で誰か接触した人はいないか調

 べてみたんだ。

 そして、一人だけ見つけた」

「誰だそれは」

「カウンセラーと称する職業の人だよ」

「クインシーだと?」

「それわざとだよね、ボクはつっ込み入れないよ」

「おみゃあが俺の知らにゃあ単語使うからだ」


(え?、なにそれ、それもマンガネタ?)


「順を追って話すよ。

 まず、一美が不登校になった事で、学校側がようやくいじめらしきものがあっ

 たのではと認識する。

 たぶん、親の方から相談か申告があったんだろうね。

 で、担任教師が家庭訪問やクラスの聞き取りなどをしたりして、当事者4名を

 絞り込んだ。

 ただね、その時点では少なくとも学校内での目に余るいじめ行為はほぼなくな

 ってたものだから、教師はちょっといたずら半分でからかう程度だったんだと

 判断してしまった。

 当然、その報告を聞いた学校側もそれほど深刻視はせず、いじめていた3人の

 生徒に対して簡単なカウンセリングというか指導というか、要するに注意した

 だけで済ませちゃったんだ。

 残すは不登校の一美の方だけど、こっちはすぐには解決しないと思った校長は、

 教育委員会に報告して指示を仰ぐ事にした。

 委員会側は、これまた専門家に相談しようという事になり、教育問題に詳しい

 とある大学教授に相談するんだ。

 教授の方からは、いじめそのものが既に解決済みであるならばと、ある教育コ

 ンサルタント会社へ依頼するように推薦があったんだって。

 教育委員会を通してコンサルタント会社から一美の元へカウンセラーの派遣を

 打診された学校側は、ちょうどその時は期末試験の最中だったので、対応を委

 員会に一任した。

 それで、会社からカウンセラーが派遣されたんだ」


「どうやって調べたんだおみゃあ」

「教育委員会のメンバーの一人を突き止めたんだよ。

 後は瞳術で知りたい事を聞き出すだけさ」


(すごい・・、瞳術って便利だな)


「教育委員会に提出した報告書では、カウンセラーが活動を始めた頃には、既に

 一人目のいじめっ子が死亡していた。

 つまり、夏休みに入ってた事になる」

「それがどうした」

「ここが重要なんだよ、ものすごくね。

 要するに、一美はカウンセラーに出会う前に炭猴に願掛けしてたという事を意

 味してる。

 これがずっと引っかかっててね・・・。

 カウンセラーが一美に炭猴の居場所を教えたというボクの推理は間違ってた事

 になってしまう。

 確認しようにも、炭猴に人間の暦が分かる訳もなし、願掛けに来た正確な日付

 なんか知る術さえないからね」

「じゃあおみゃあの推理は間違いだって事だ」


「でも、その後の調べでカウンセラーの嘘が分かったよ。

 報告書には一美とは3回面談したとあるんだけど、実際は2回しか会ってない

 事が判明したんだ。

 四六時中一美と一緒にいた母親が証言したんだから間違いない。

 そして、カウンセラーは大人達の都合のいい内容だけを報告したのさ。

 たった2回の面談でいじめの全容を理解し、受けた心理的打撃を解きほぐすの

 は不可能だよ。

 その結果、学校と教育委員会は、いじめはあったが関係者の死亡とは無関係だ

 という結論に至る。

 一美の不登校も、その後発症する病気の初期症状が原因であるとして、学校側

 の対応に過失はないとした。

 と、報告書では、つまり建前ではこうなってる。

 でも本当の時系列は違っていて、実は、カウンセラーが一美に接触したのは夏

 休みに入る前だった事が分かったんだ。

 夏休み前に1回と入ってから1回、あとは入院後に2回病室を訪問してるけど、

 2度とも就寝中で会わずに帰ってる。

 もうこれだけで、報告書の信憑性は失墜したと言っていいね」


「なんで嘘ついたよ」

「自分は無関係だと証明するためのアリバイ工作だと思うよ。

 それだけ隠したい事情があるって事だよね」

「そいつは何者なんだ」

「カウンセラーの名前は右佐井(うざい)楽馬(がくま)。

 現代教育問題研究所っていうコンサルタント会社から派遣された事になってる

 んだけど、この会社の社員なのかは分からない」

「それも隠したい事なのか?」

「会社自体に実体がないんだ。

 住所へ行ってみたら古い一軒家だったけど、見た目に空き家で無人なのがすぐ

 に分かったよ。

 電気メーターも止まったままだったし。

 社長というか、代表が田分屋(たわけや)って名前だって事までは分かった。

 でも、どんな人物なのかは分からなかった。

 所詮はペーパーカンパニーだからね、胡散臭いのだけは確かだろうけど」


「つまり、おみゃあはそのなんとかってクインシーが山猿の情報を教えたって考

 えてんだな」

「他に該当者はいないよ。

 一美が家族以外で接触したのはそいつだけなんだ」

「じゃあなんでそんな事をしたんだよ。

 奴には何の得があるって言うんだ、山猿と結託してる訳でもにゃいんだろ」

「炭猴は何も知らないらしいからね。

 だから、それはまだこれから調べてみないと分からないよ」


話がややこしくなってきた。

いじめの復讐劇に妖怪が介在していたという事実もなかなかに信じ難いものだが、

更に新たな関係者が浮上し、しかもそれらが何某かの動機を持って動いていた事

を知るにつけ、益々そこに焦臭さを感じずにはいられなくなる。

彼等の目的はなんなのか。

何の為に裏で暗躍する必要があるのか。

学校、教育委員会側と、不審なコンサルタント会社、カウンセラー側を結び付け

たのは大学教授だったはず。

その大学教授が鍵を握っているのではないか。

姚子の考える事は、侠兎も杼弥も同様に考えていた。


「大学の教授とかいう奴が怪しいな」

「そっちは冲駘に調べてもらってるよ」

「大丈夫なんか、あのジジイ」

「さあ、どうだかね。

 本人も最初は遠出を渋ってたけど、女子大生がいっぱいいるよって言ったら掌

 返して喜んで出かけて行ったよ」

「完全に当てにならんな、目的変わってんぞきっと」

「一応、聞きだす内容はメモして渡しておいたけど、そのうち幾つかでも分かれ

 ば御の字かな」



その麻辣斎冲駘がもたらした情報は、コンサルタント会社の怪しさを際立たせる

ものになった。

大学教授については、特に不審な点は何も見られなかった。

彼はただの教育学の教授で、学問を学問として普通に研究し教鞭を執っているだ

けで、履修している学生の相談には乗るが、時折外部から寄せられる学校問題の

相談等には積極的に意見したりはしないという。

現実の学校で起こっている個々別々の事案に対しては、あまり深入りしないスタ

ンスを取っているようなのだ。


コンサルタント会社の社長の田分屋とはただの知り合いで、職業上のつき合いで

面識を得、酒の席で少し親しくなり、以降しばしば研究室を訪ねて来ては世間話

をする程度の仲だと言われている。

実際は、共通の趣味である麻雀で負けが込み、その代償で今回のような相談を受

けた時などに仕事を紹介しているという事のようだ。


教授は、教育委員会から受けた相談をそのまま田分屋に振っただけで、以降この

件には全く関与していない。

紹介料を請求したりもしていないようなので、たいして関心もないのだろう。

いじめられっ子の心理カウンセリングが本職という訳ではないので、それも無理

からぬ事なのか。

したがって、田分屋と教育委員会側の遣り取りの詳細も知らなければ、どういう

カウンセリングを行うのかも知らない。


(とうとう、おじいさんの台詞がナレーションに置き換えられてしまった・・・)


「よく調べやがったな、ジジイのくせに」

「ふぉっふぉっふぉ、ワシにかかればこの程度お茶の子さいさいですぢゃ」

「偉そうに言うんじゃにゃあ、また犯罪に手を染めとらんだろうな」

「犯罪とは人聞きの悪い、ワシは善良な一市民ですぞ」

「前科者が言うなアホ。

 おみゃあはバギー船長より信用出来んのだぞ」


麻辣斎の説明を聞いていた杼弥が総括した。

「要するに、教授はただの仲介者で妖怪とは関係ないって事なんだね」


果たしてそうなのか。

教授が妖怪に関する情報を田分屋に教えたと考えられはしないのだろうか。

姚子は、杼弥の言葉を不思議に思った。

もう少し違う観点からの考察が必要な気がするのだが。

なのに、その場の他の者達は何の疑問も抱いていないようだった。

その理由は、ごく普通の人間が妖怪に接触して何かを教唆する、ましてや意のま

まに操るなどは、およそ不可能な事だと知っているからだ。

教授がなにかしらの特殊能力でも体得しているなら話は別だが、もしそうならば、

接近した際に麻辣斎が雰囲気から違和感めいたものを感じ取っているはずで、そ

の言及がないのは何も感じなかったからなのであろう。


現時点では、妖怪に関する情報を持っていたのはカウンセラーの右佐井である可

能性が一番高いと言っていいだろう。

それを事実として前提としても、彼等が何を企図しているのかは全く分からない。

妖怪との関係性も不明だし、なぜそれを一美に教えたのか。

復讐の方法を指南するのがカウンセリングだとでも言うのだろうか。

しかも、妖怪に頼むという有り得ないくらいに不確実な方法を。


そもそも、一美は妖怪の姿を見る事が出来たのか。

杼弥によれば、炭猴は一美には姿を見せたりはしていないそうで、直接面会せず

とも声だけ、音だけで意思の疎通は十分可能だと語ったという。

もちろん、相手が怯えず拒否反応を示さないというのが条件にはなるが。


その炭猴と右佐井の間の面識も、現時点では確認が取れていない。

妖怪の存在を知り、更にそれを利用して何かを企てている男達は一体何者なのか。

そして、そこへ好奇心を向け踏み込んで、被害を被る危険はないのか。


「おみゃあはまだそのクインシーを調べるつもりなのか?」

「そうだね、ボクが納得するまではやってみたいと思ってるんだけど」

「そんなに面白いか、なんか怪しげな臭いでも感じてんのか?」

「かも知れないね」

「まぁ、好きにやればいいさ。

 だが、ここからはいくらやってもギャラは発生しにゃあぞ」

「構わないよ、元々それ目当てで始めたんじゃないからね」


(こっちもまんざら興味がない訳でもないけどね)


彼等の調査がどういう結果をもたらすのか、予見出来る者はいない。


                                 <続>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。