帰郷への開拓路 34話 「脱出場所はない、ならば…」
デザンとライは力を合わせて、窓を蹴破る。ガラスは貴重だが、この非常事態に対してそんなこと気にもしていられなかった。
デザン「気配がする…マーチェ殿はやはり、自室のクローゼットの中に隠れている。」
ライ「流石、傭兵や戦うやつの感覚は鋭いと聞くが本当に毎回驚かさせられる。感覚が違う相手と自分の差はこれほどか。」
デザン「ライさん。ここはグダグダお喋りする余裕はねーみたいだ。」
ライ「俺の弟子もあの巨大な黒い人にやられた。踏みつけられた…」
2人は足音が聞こえて、その2階のどこかの部屋のドアの陰に身を潜める。
足音の硬さからデザンは例の蟹人間だと察しがついた。
蟹人間「じゅぼぼぼ…じゅぼぼぼ…」
蟹人間は廊下をただ彷徨っているだけだった。2人は先程の惨劇を目の当たりにしたおかげで、蟹人間の恐ろしさが分かっていた。そこへ、2人はマーチェの部屋に行く為に小さな声で、合図をしながら2階の廊下へ行く。
ライ「あっちなんだよな?」
デザン「そうだ。俺の感覚だと違いはない」
小声で息を殺して2人はマーチェの元へ駆け抜ける。そして、忍足でそこへ、やっと辿り着く。その後、2人が一安心した直後に突然、蟹人間の足音がカチカチ音を立てて下の階に歩く音がした。
ライ「奴等一体?」
デザン「一先ず助かった。マーチェ殿、俺たちです。デザンだ。」
マーチェは出てこない。
デザン「おい!マーチェ殿!ここは危ない!早く!」
その声でやっとマーチェは外に出た。顔は青ざめて真っ青であり、唇は震えていた。
ライ「おいおい。大丈夫か?デザンに世話になったライだ。」
落ち着かせるような口調でマーチェに手を差し伸べる。マーチェは手を取る。
マーチェ「さっきから、デザンの声を真似した奴が何度も通りかかるから…切迫した状況なのに、抑揚のない声で話す何かが…」
デザン「マーチェ殿…外を見れますか?あれは私どもでも把握しきれていませんが、街や森を薙ぎ倒して、エゼル王国方面へ向かっています…人の気配も持ち合わせた魔物か人かわからない感覚の怪物です。逃げましょう。」
マーチェ「ねぇ!!火の聖域の人達は無事!?早く戻らないと…彼が…うっ。」
ライ「とりあえず、ここを出るか。」
デザン「そういえば、グレッグドは?」
マーチェ「もう…彼は彼ではない…」
デザン「!?」
ライ「どういうことだ?」
マーチェはとても涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、言った。
マーチェ「彼は下の階で暴れている。もう人ではないような怪物になってしまった。」
この会話の最中に止まらず音が鳴る轟音や物が壊れる音の原因が3人には分かった。外の景色は地獄絵図そのもので、蟹人間に成り行く人々と巨大な黒い巨人と壊れていく風景が3人を静寂に包んだ。




