帰郷への開拓路 31話「戦へ、大地よ」
ネフィルの長々とした演説が、上がった旗とデザンとエスメラルダの剣のぶつかり合いのおかげで幕を閉じ、本番が始まった。
デザン「悪く思わないでな?すまん!」
デザンは大振りな剣術をライに教わり、それを実践しようとしていたが、ギークの妻であるユミの剣技に感化されて、“大振りしている最中のフェイント”をコンパクトに繰り出すことができて、エスメラルダを圧倒する。
エスメラルダ「んん!!!うぐぅうあう!!」
何を言ってるか分からないが、この世の声とは思えない罪人の哀れな叫びに周囲は混沌とした雰囲気で盛り上がる。罪な空気感だ。
エスメラルダはかなり早くで打ち出されるフェイントを剣で直接上手く受けるが、手を使ってしまい、左手が植物と成り果てて、再生する隙が出てくるが、上手く転がりながらもデザンの剣を回避する。
観客「願う!」
観客「お願い!ソラ様!どうか、お慈悲を…!」
もはや、何を言ってるのかすら怪しい観客の声だ。
デザンの攻撃を回避するエスメラルダも相当な熟練者だが、それもあの、大戦で生き残りかけた腕前だ。
デザン「やるじゃねーか。でも、罪人に慈悲を向けられて、同情してられるほど、商人の用心棒は余裕がなくてな?。はぁ…」
デザンも息を切らす。しかし、エスメラルダも眼を血走らせるように、その隙に刃を絶妙な角度で横に投げつけて、デザンの足を切り裂き、エスメラルダの剣が地面に刺さる。それを取りに行くエスメラルダは、デザンの体勢が崩れたのを見計らい、足の方向に滑り込むが、デザンが治りかけの筋肉繊維が剥き出しの足をエスメラルダの顔にぶつけて、たいせいを整えて、エスメラルダの首を上から振り下ろした剣で切る。
観客席は大いにざわめき、混沌と化す。
観客「よし!これで罪人と暮らす生活に怯えなくて済むぜ!」
観客「また、あの海産物のような怪物を運んで来ないか心配だったのよぉ」
と、人々は歓喜する者もいれば、黙って下を向いて、ネフィルの演説をきちんと聞いていた聡い者達は反応が薄かった。
マモン「皆、有難きこと!!この祭事に盛り上がりが益々年々良くなっておられる!!」
突然大声で話す白髪の黒いローブを被った存在、模様が二つあればそれはマモンだ。その場の全員が沈黙する。
元の席に戻ったユミはマーチェとジェミが一緒に隣で座っているのを見て、そのマーチェの隣の空席に何気なく座る。ジェミとマーチェはそれに気づくも、マモンに目線を合わせて話を聞くのに真剣だ。
ユミ(絶対何かまたマモンは変なこと考えてんだろうなぁ。あの宿屋のこと。忘れてないわよ?)
マモンは語り出す。
マモン「今宵の宴は華やかであった。エゼルの使者も多く見受けられます。我らが三国の一つヤシェル王国はここに、またとない調和が訪れる日を待ち侘び、日々この地での働きに労いを行いたい。しかし、毎度、王が皆を癒していたが、今回はこの大戦での代償が大きい故に、王は嘆いている。トートはここにいる戦の経験者全てにコクーンの贈与で労いたくと申し出ている次第だ。
皆様方の良き生活に錬金術師より、コクーンをこの水の聖域の峠と谷、沼地を進んだ先のスモクで生成を行う。その罪人エスメラルダもそのコクーンの一部だ。皆の者。これから生成するコクーンはあの、ケモノならず者で有名なスティッラ夫妻の戦果である霧で人を惑わす名持ち“エニグマ”や、ネフィル一向が打ち取りし名前を持つ魔物による生成である。
戦の経験者で、戦果を労いたくば、明日より、コクーンの配布をする。輸送屋は明日ここにつく手筈だ。
皆様方。今日はこれをもって祭りを閉幕致します。」
マモンはそそくさと王が座っていた簡易的な玉座の前から語るのをやめ、何処かへ行った。
マーチェ「あら、あなたはユミさん!ギークさんの奥さん!」
ユミ「あ!油屋さん!旦那が世話になりました。」
ジェミ「あら?お知り合い?ところで、ユミさん。ギークさんは何処に行ったんですか?」
ユミ「うーん…何してるのかなぁ…近くにはいる。何か心配事があるらしくて、ほら、前みたいに大きな魔物が降ってくるとか?」
マーチェ「そんなことないでしょ〜流石にこんな賑やかな緊張感は久しぶりだな〜大丈夫だよ!ユミさん。」
ユミ「でも、私は心配事がギークからあるって言われたから、きっと正しいと思ってる。」
マーチェ「ユミさんは本当に依存症だなぁ〜羨ましい依存症だよ。」
ユミは少ししょんぼりとして言葉が崩れるくらいの答えにマーチェがさらにからかう。
ジェミ「私は祭りも終わったことだし、家に戻るね?」
マーチェ「ジェミさんもゆっくりね〜。ユミさんも、ごゆるりと、というか、ギークさんは?また心配して何処かに行ったのかなぁ?」
ギーク「っと、その話題に俺が入るっと」
ギークは空からユミの隣に降りてきて、ユミを抱き寄せる。背中にはダインアーツを抱えて、重装備で戻ってくる。
ユミ「ギークゥ!楽しかったけど、マーチェさんが心配性すぎるって今お説教代わりに聞いてあげてたのよ?」
マーチェ「まぁ…!スティッラ夫妻は仲がよろして、私もそうなりたいです。」
ユミ「あれ?マーチェさんは契りを交わしたい人でもいますの?」
口に手を当ててイタズラっぽく問いかける。すると、意外にもマーチェは赤面して動揺する。
マーチェ「まぁ、まぁ、ささ、もう帰りましょ!私は宿に行ってデザンたちと会わなくちゃ!」
急いですたこらさっさとマーチェは宿へ戻って行った。
2人だけでユミはニコニコになり、周りの人達が帰路に着く中、ギークを見つめる。
ギーク「しかし、不安の種は取れてないと思うけどなぁ…せっかく家まで戻って重装備をしたが、家の前でエゼル王国の兵士がいて、少し痛めた。」
ユミは驚いた表情でギークの全身を撫でて確認するが、それで逆に安心する。
ユミ「大丈夫そうで良かった!それより、エゼル王国って、兵士がそんなに危険なの?兵士が危険なら一緒にマーチェとデザンがどうなるか…見に行こうよ?」
ギーク「そうだな。」
ギークは思わず表情が緩む。少し気にし過ぎなこともあるような勘違いだったのでは?という安心感が宿へ2人の足を運ばせた。
ーーー翌日ーーー
大きな広場は水の聖域でしっかりと肉が大衆の前で食べるられるように用意されて、壇上に食卓が並んでいた。
ギークとユミ、そして、デザン。勝者が表彰式のように席へと並ぶ。
そして、エスメラルダと、エニグマの残骸は一緒の檻に入れられて、運ばれていくのが広場の端で見える。
エスメラルダ「んー!…んぅん!!!」
猿轡にボロ布、乱れた髪と恋人と一緒にエスメラルダは檻に入れられてもがいている。その様を見たギークはフォークの持ち手を片手で少し折ってしまう。
ギーク「やばっ!…ユミごめん。何でもないよ」
ユミ「大丈夫…」
そして、ユミは隣側に座るニーナという踊り子に手を振る。笑顔で返されてユミもニコニコだった。
エゼル王国の兵士の姿は見えるが、交戦する様子は無さそうだ。




