帰郷への開拓路 29話 「残酷な選択肢という運命」
ギークは祭りの屋台を早足で駆け抜ける。何故か?嫌な予感がしたからだ。ユミは気づいていないが、エゼル王国の兵士を見れば気付くと賭けて家に戻る。怪しい。
嬉しそうなユミを少し見てから、ユミに流し目でウィンクをしておいた。
ギーク(ダインアーツを取りに行かなければ…祭事に離席する王なんて…あり得ない。)
エゼル王国の兵士がいる。ネフィルの分かりづらい奇行?トートがいない。起こることはほぼ間違いない。大きな魔物の登場に近い雰囲気だ。王と魔物は必ずと言って良いほど遭遇しない。何故なら…傾向がそうなっており、完璧だからだ。しかし、気掛かりなのは、ヤシェル王国の兵士が見当たらないことだ。
ギーク「すまない。急いでる。通してくれ。」
人だかりを家の帰路まで集中して避けながら、歩くのが疲れたギークは路地裏に入る。しかし、ギークは良くない存在と会ってしまう。
エゼル王国の兵士だ。伏兵?なのか?
エゼルの兵士1「お!有名人じゃん!」
エゼルの兵士2「よせ…接触は避けろと言われてるだろ?」
2人の兵士は明らかにエゼル王国の鎧を纏っている。この世界では他の国の兵士を見かけるのは不思議ではない。交換留学的な扱いで魔物を討伐する為、普通だ。しかし、ギークは兵士の態度が気に食わない。理由は相変わらず勘だ。
ギーク「エゼル王国から派兵とは、峠や山が辛かったでしょ?。ご苦労さん。俺は有名人だが、握手をしてる暇はない。よろしくな。」
エゼルの兵士である1人が何故か背中に手を回すが、1人が首を振って手で静止した。
ギークはそれを記憶して忘れないことを決める。そして、その身体中を鉄の装備に身に包んだ短髪の好青年と若干長い橙の髪の同じ装備の兵士を凝視する。そして、飛び上がり、宿屋か、何かの建物の屋根に乗る。
短髪の兵士1「よぉ!有名人やるじゃねーか!俺も名乗るぜ!リュウベイ!俺の名はリュウベイだ!剣じゃなくて槍で舞おうぜ!じゃあな!」
ギークはその大声に手を見せて挨拶をする。もう1人の兵士は怪訝な表情をする。
家に駆け足で屋根を使ったのは正解で、家の花壇で囲まれた玄関に降りる。そして、家の中に急いで入り、ダインアーツが無事だったことが確認できた。
ギーク「とりあえずは大丈夫か…」
ギークは夜が珍しく賑やかな窓の外に流星を見る。
ギーク「あれは?やはりか…」
祭りの屋台や神様に対して敬意を払う儀式として、既に重要なイベントは全て終了している。踊りを踊っているヨウハ王国からわざわざ来ている女性もいる。何故なら、何も剣で戦うだけが祭事の催しではないからだ。単純な踊りでさえも、“肉料理”を食べることができる資格を得る種目なのだ。
その舞闘会は観客が勝敗の多くに関わる。何故なら、歓声の大きさが大きいほど勝ちなのだ。それを錬金術師が最終的に評価して決まる。
その種目に移ったのはユミだ。ユミはさっきのギークのウィンクの意味が珍しく伝わらなかったが、誤解して伝わってはいた。ギークは“あっちの方が面白そうだし、ジェミと離れたいから踊りを見よう!”と言ったようなウィンクだと勘違いした。
ジェミに“旦那は冗談が得意だ。子供扱いはジョーク!”と無理やり言い訳をして、エゼル王国の兵士も目に留まったが、ユミはギークの褒め言葉に浮かれて、踊りの順番が誰か誰かと待つのと、ギークの為に同じ席に座りたくて、立って観戦していた。
錬金術師「続いて、ニーナ デフォルチェン の舞です!」
錬金術師は白いカーテンを開けると壇上に手を広げて読者の世界で言う、ヨーロッパの貴族のお辞儀のような姿勢で丁寧に幕を開ける。空色の綺麗な髪は長く川のようになびく。ニーナ デフォルチェンは美しく、川のせせらぎの様な舞を披露して、周囲の目をうっとりさせる。歓声は口笛のような感覚だった。
ユミ「綺麗…私もこんな種類の踊り踊ったら、ギークは喜んでくれるかな?」
ニーナは続いて、後ろで流す音楽隊にお辞儀をすると、曲調が荘厳さを増して激しく回転する様に踊る。その様に、人々は拍手を送り、ニーナは更に一定のリズムでシンメトリーな美しい手拍子をする。これに観客は釣られて手拍子をして、太鼓のリズムが速くなり、盛り上がりが集まる!
ユミ「おぉ!前衛的!すごい!何あの弦弾きの扱い方は?すごい!すごいよ!」
弦弾き、つまり、バイオリンのような弾き方が緩やかではなく、打楽器のハーモニーを生み出して観客は盛り上がる。通常は打楽器の様な扱いはしない。と言っても、打っているのは音色だ。
取り残されたジェミは剣武闘会で、隣に座った商人の用心棒が登壇すると聞いて、ユミがいなくなった後も楽しんでいた。その商人は覚えのある顔で話が弾んだ。酒場で一回目にした顔というだけだが、商人に顔を覚える記憶力など必須の要素だ。彼女は聡い。
マーチェ「でね?うちのデザンはさっき君の隣に座ってた妻の夫に負けた大工のライって奴とずっと練習しててさー」
ジェミ「かなりストイックですねーあの巨漢と練習してる体格には見えませんけど…それだけ技があるってことですね?」
マーチェ「まだまだ…かな?私が尊敬してる魔術師には程遠いかも。」
2人は祭りの賑やかさの中、語る。
そのデザンとの対戦相手の名前に少し、マーチェは心配していた。
マーチェ「そのぉ…デザンの、うちの用心棒の対戦相手の名前なんだけどね?“エスメラルダ”って書いてありましてーこれは別人だと良いですけど…」
ジェミ「へぇ…!ん?ってことはあのマジの罪人の?」
2人は一気に怪訝な顔になる。しかし、後ろの男が唐突にその訳を壇上の中央を指を刺して語る。
男「罪人にも身分があればチャンスだとよ」
男の指を刺す方向に、魔術師がボロ布を着せたあのエスメラルダを運び、木の手錠で足と手を縛られて登壇する。
祭りで他人が話しかけてくることは皆一様に確かな共感か共通認識が足並みをそろえた時だ。起こりやすい出来事である。




