帰郷への開拓路 17話 「強敵か?」
マーチェ「早く!状況の説明を!」
マーチェはギークの腕を揺らして、明らかな焦りを見せる。
デザン「マーチェさん。奴は噂のエニグマです。黒い霧を放っています。しかし、奴は黒い霧が光るような感覚で、何かをしているようです。」
マーチェとグレッグドは怯える。そして、ギークとデザンは奮起する。デザンは2人を宥めるような仕草する。そして、
デザン「マーチェ殿、大丈夫です。ギークさんが何とかしてくれます。グレッグドも大丈夫。俺がいる。ギークさん、あんたに言いたいことがあるが、その感覚ならきっとできると思って言う。“伝わって欲しい。”」
ギーク「伝わった」
ギークは1人で、油の入ったタンクの中から少し拝借して、油で満タンにした小型の携帯タンクを、腰につける。
ギーク「ありがとう。デザン。2人を頼む。小型は任せた。」
デザン「勿論!任せてもらった。」
ギークはデザンから例の小さなランプの入れ物が入った袋を投げて渡される。
デザン「ギークさん忘れ物でっせ」
ギーク「重ね重ね助かる。だが、これは君が持ってた方が良い」
ギークはデザンにそれをまた返す。デザンは受け取り、その行動から、彼が何をするのか察しがついてしまった。
デザン「ギークさん!頼むから戻ってきてくれ!連れ戻すのにどれだけかかるかは見積もらないですぞ!」
ギークは遠くで、手を振った。彼は既に足を動かして、素早く岩と岩の上を駆けていく。湿地帯と森が入り乱れるマングローブに近い地形だが、盆地とも言える。点在する木を駆け抜けて、ギークはユミのいる方角を遠回りで、黒い霧を迂回しながら進む。
ギークは酒を飲む。銀の槍のダインアーツを片手に持ち、もう片方で酒瓶を持ちながら、重い荷物のずしりという音を立てながらぴょんぴょん跳ねて、霧を迂回した。
「ユミ…」
周りの木々を掻い潜りながら、先へと進むが、その木々が可笑しなざわめきを起こす。
ギーク「なんだこりゃ?ふっ!」
ギークは間一髪で木からの攻撃を槍で弾く。
ギーク「ユミ!まだ無事なんだろ?」
ギークは周囲がかなりの異質さを放つのをお構いなしに、槍で攻撃を防ぎながら、進み続ける。
周りの木々、生き物が全て敵対してくる。そして、その生き物たちの中心に、背中に人間が生えた蛙の頭の昆虫に近い足の数の大魔物“エニグマが目を見開き、こちらを覗く。
ユミ「ギークぅ…たすけてぇ…」
ユミは周囲の生物に取り押さえられて、腕を彼等の爪や牙で刺されて血が出ているのをギークは感じる。目の前に、エニグマがいて何か喋る。
エニグマ「かよう?どこよう?なによう?は?…」
そう何かを言い終わる頃に、ダインアーツを変形させたギークが奴の首に一本の槍を射出し、切り裂き、ユミを囲っていた魔物を蹴散らして、抱えて走る。
ユミ「ギーク!!来てくれたのね!もう遅過ぎて、気分がたかいたかいされた後にビンタされた気分。」
そのまま、ユミは目の色が白くなり、嘔吐してしまう。目隠しを彼等に取られたようだった。ギークはその吐瀉物をまともに受けてしまうが、気にせず走る。
エニグマは頭を切られ、頭が大きく腫れ上がり、腫れが変形して、さらに顔が3つに分かれた。顔は人間の顔をしており、3つとも気持ちの悪い笑顔で笑っている。
そして、その3つの顔がこちらを向いたと思ったら、ギークの腕へ長い舌を発射して、ギークを拘束する。
ユミ「終わりかぁ…ギーク…ひっく。かっこよくなったね。元からだけど…ギーク…あはは。飲み込まれるのね。私達。」
ギーク「いいや、博打は負けたと思わせたら勝ちなんだよ。俺に惚れてるのは、ずっと変わらない。俺にはそっちで敵わない。そうだろ?ユミ」
ギークは思い切ってランプに付いた火を咄嗟に地面に置いたのだ。
ユミ「はへ…?ひっく…」
ギークの3本の槍の内、1本の槍が天からエニグマへと突き刺さる。
エニグマ「ふぎゃああ!!!」
エニグマは醜悪に叫ぶが、ユミも驚く。
ギーク「この槍、意外と使えるな。遠くまで飛ばしても使えるらしい。周囲の動物から力をかき集めて奴に刺したのさ。これで唐突な再会になると思うが、ユミ、愛してるから許してくれ。」
ユミ「うひゃ!…あぁん…うぐぉぉあ!!」
ギークはユミの両手両足とお腹を思いっきり、ダインアーツの槍で刺して、体内から、良くない何かを取り出す。黒い塊で、粒が数個付いている何かだ。ユミは再生するが、痛みは伴う。そして、すぐにユミはギークにぺちぺちビンタをする。
ユミ「やめなさいよ!と言わせたのでこれで帳消しね?お互い様だよ?助けてくれてあんがと。これ、毒でしょ?」
ギーク「そうだ。そのぽかぽかくらいは許そう。さて…こいつらをどうする?余った敵はエニグマの何かなのか。そこで、ほれ。これだよ。最初からこれを使えば良かったが、あいにく、“勝手がわからない”から控えていた。この杖だよ。」
ユミ「そういえば、ギーク何か後ろに鏡あるのかっこいいね?何これ?何の道具?」
ギーク「後で話すよ。今は俺の手にある杖が猛威を振るぜ」
そして、ギークは杖で次々と魔物と化した獣を通常の獣へと戻していった。というより、何故かそうなった。このような代物が何故一般に流通しないか気になったが、便利すぎて、魔物でギークは遊んでいるように殴る。
ユミ「すごーい!何それ?魔物が花びらになるじゃん!」
ギーク「すごいでしょ?でいや!」
ギークは一体のとある魔物にそれをぶつけるが、何故かあまり効果がない。ギークはダインアーツで、咄嗟に防御をする構えを取るが、跳ね飛ばされる。
ギーク「何だよ?こいつ?ぐはっ」
ギークは口から吐瀉物を吐いてしまう。ダインアーツの副作用をユミとの出会いでの歓喜で忘れていた。
?「ここの文明の言語と器は掌握した。貴様達はエニグマとやらに踊らされたな?」
謎の魔物はまさに、醜悪な獣だった。翼の生えた鱗のある爬虫類のような人間である。そして、何故か、ケリュケイオンが紫色に光る。そして、中心の宝玉に亀裂が入る。
?「今回は…見逃そう。ハズレを引いたみたいだ。」
エニグマを倒されたのがよほど恐ろしかったのか?何だか理由はわからないが、そもそもこいつがエニグマなのかすらわからなかった。
魔物達は何処かへとその人型についていき、去る。
ギーク「待て!」
ギークはダインアーツで槍を射出する。そして、その魔物はその攻撃をまともに喰らって悶絶する。その隙にギークはすかさず、駆け寄り、魔物に馬乗りになって、槍で串刺しにする。
?「うがぁ…ぐあがぁ」
ギーク「話せ!お前は何者だ!」
ギークは問う。
?「名を名乗れば見逃してくれるか?なぁ?うぎゃぁ!やめてくれ!」
周囲の魔物をユミが構えて牽制する。
ギーク「お偉いさんから貰った杖が光を失ったぞ?どういう事だ?」
?「うるさい!…黙れ!」
ギークは直感的に杖を敵へ投げた。すると、見事に何の効果も無かった。その反応か?周囲の魔物と化した様々が襲いかかるが、ユミが受け止める。槍の使い方はアクロバティックにキレがあり、流石の腕前でギークに近寄らせない。
そして、話ができないと思ったギークはそいつを思い切り刺した。すると、女性に先程の獣は姿を変えて、目を閉じる。が、ギークは冷静に腹の中を弄るように槍で刺して、ユミから取り出した何かとは違う木の根っこ?よく分からない物体を取り出す。
ギーク「こいつが原因か?なるほどな。ちょっと、待て!逃げるなてい!…マジか…」
意外とあっさりと、敵なのか?それを切り裂き、ジュウと音を立ててその場で逃げようとする。それは機能を停止した。
ギーク「やれやれ…代償はでかいな。」
ユミ「ギーク!やったね!でも一発抱きついて置かないと!こっち向いて!」
ギーク「え?」
ギークはユミに抱きつかれる。思い切り、骨が折れそうになるくらいになるまで…
ギーク「いででで…何するだよ…」
ユミ「レディの裸を見ちゃダメ!私のだけで十分でしょ?」
どうやら、それで怒ったらしい。けど、久しぶりのユミの肌と触れ合い、気が緩んだのか、ギークはその場で疲れがどっと、現れて力が抜けてしまう。意識が朦朧としてきたので、ギークは逆に酒を手に取り、飲み干す。
ユミ「あ!酒だ!私にも頂戴!」
ユミはギークから酒瓶をとって一緒に飲む。
ギーク「お酒は薬みたいなものだからな!はっは!」
?「私は一体ここで、何を?」
ユミは素早く、ギークからコートを奪い、先程の彼女にかける。
ギーク「あんた一体何者なんだ?」
青い髪の彼女は答える。
「私はエスメラルダ…兵士をやっていたが、何者かに捕らえられた…それっきり、何も記憶がない。」
例の大戦で使った最強の杖が、ただの杖となってしまった。1番大きな損失だった。
ギーク「ユミ…この杖はもう使用できないらしい。」
エスメラルダ「う…うぐ…」
ユミ「何故だろうね…あ、ゆっくりしてて大丈夫だよ?」
ユミはエスメラルダを携帯式の薬草などを口に含ませて看病する。
ケリュケイオンは粉々に先端が朽ちてしまった。
そこへ、マーチェとデザン、グレッグド、そして、何故か結構な人数の黒いローブの集団、錬金術師が姿を現す。
ギーク「うわ、ちょっとそこまで大事件なんですかね?」
マモン「嗚呼、そうなんですよ。私も他の用事があるのにすっ飛んで来ました。で、そのこの前の夜にギークを奇襲した罪人、それはあなたエスメラルダ、それとその仲間である、エッソと他数名がこちらに来ているとのことらしくて、急いで向かった次第です。」
マーチェ「やぁ」
ギーク「最近会ったばかりなのにまた会うとは、マモン。よく会うなって?こいつがその罪人だと?ま、マーチェさん達も?大丈夫でしたのね。」
ユミ「え…じゃあ、この子?」
マモン「そうだ。すまないが、身柄は拘束させてもらう。」
にわかには信じがたいが、このエスメラルダという女性は記憶を失っている。そして、昨日の夜、ギークを襲ったらしい。
周囲を見て、錬金術師達が唸っているのはやはり、ケリュケイオンがおかしな破損の仕方をしているからだった。すぐに翼を持つ守護者が錬金と共に解析に入る。
そして、エスメラルダは何処かへと連れ去られるが、一貫して「何もしていない!」と叫んでおり、ギークとユミは目を背けた。
グレッグド「ギークさん…そのすみませんでした。助けて貰っていただいてたんですね。」
ギーク「あー気にすんなよ。俺はやるべことをやったまでだ。」
ナチュラルにそれを返せるギークにユミは目を輝かせるが、ギークはユミの顎を持ち上げてデコピンをする。そのいちゃつきを見て、デザンは気まずい顔をする。グレッグドはこの惨状をみて、英雄としてのギークを優しい目で見つめる。
ギークに肩を撫でられ、グレッグドは耳元で
ギーク「さっきは急に目隠して悪かったな。」
と言われて、グレッグドはハッとする。もう少し世界は広いのだと、それをこの錬金術師達の異様な様がそう思わせる。




