第7話 変装
ここにくるまで、マフィーの様子がおかしかった。
確かに協力してくれたけど、謎の沈黙があったり、言動に荒さが垣間見えたり……。
今この瞬間、その意味が今わかった。
「マフィーさん?じゃないですよね…。」
「……お前は誰だ!正体をあかせ!!」
その茂みから後ずさりしながら、そこにいるであろう怪物に呼びかける。
そこから出てきたのは、この世の者でないような、おぞましい怪物のような魔物だった。
かなり大きい。
私の5倍ほどの身長と体つきの良さだ。
「あぁ、ばれてしまいましたか……。」
そいつは、ドスドスと私にゆっくりと近づいてくる。
私は恐怖でその場に崩れて立てなくなった。
『我が名は、アルディート・フィナーレ!この地を支配する魔王である!!』
「っ……!!アルディートだと…?」
この怪物の正体はアルディートだった。
震えが止まらない。
冷汗が止まらない。
一度動かなくなった足は言うことを聞かない。
私は瞬時に音でなくても感じた。
こいつはやばいと……。
そんな中、アルディートは私のすぐ目の前まで近づいていた。
「お前は、アトラの弟子だと言ったな。」
「それがどうした……アルディート…。」
「アトラ。奴は憎き存在だ。奴の弟子はほとんど全員殺した。」
「……マフィーも殺したのか?」
「そうだな。こいつは確か…20年前の……。」
アルディートは変装ができるらしい。
確かにぎこちない部分もあったが、それを踏まえても、普通の人なら認知できないほど、驚異の変身技術だ。
マフィー。本物に会ってみたかったな…。
「……アルディート。お前は何で生きている?
師匠が倒したのではなかったのか??」
「私は死なない。永遠にな…。」
不老不死ってことか?
いや、そんなはずはない…。
「そういえば、お前は楽器を使っているんだな。アトラはいつまでたっても古臭いやつだ。」
「どういう意味だ?魔法は楽器がないと放てないのではないのか?」
「そんなもの、90年以上前に塗り替えられたさ。今はこうやって手に魔力を込めれば魔法などいくらでも出せる……。こんな風にな!!」
私の数ミリ横にアルディートの空太刀が通過した。
後ろを振り返ると、森林の奥にある川が剥き出しになっていた……。
なんて魔力だ。
恐ろしい。
「とにかく、憎たらしいアトラの弟子は全員殺す!お前もな!!」
アルディートはそう言い放つと、私に明らかな殺意を向けてくる。
さっきとは比べ物にならない威圧感だ。
(やるしかないのか?この化け物との戦いを…、)
(いや、やらなければ!ここで師匠の敵を取るんだ!!)
そう思い、クラリネットを取り出す……あれ、取り出せない。
右のほうから違和感を感じて、右手を見る……。
「は……?」
「……あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
右手というか、右腕が肩から削がれていた。
痛みが後からきた。
想像を絶する痛みだ。
痛みを感じるよりもさらに早く、アルディートの攻撃が私を襲っていたのだ。
(傷口を抑えなければ……っ!!)
と思ったとき、抑えたはずの左腕もなかった。
一瞬のまばたきの間に、左腕も削がれていたのだ。
その瞬間悟った。
こいつは次元が違いすぎる。
私はバランスを失い、前に倒れた。
痛み、悔しさ、怒りが一気にこみ上げてくる。
(このまま何もできないまま、前世のようにみじめに死ぬのか?)
心の中には、かつての光景が蘇る。
あの日私は自分の責任だと、アルコールによる自殺で命を落とした。
本当は2度とない人生……『第二の人生』を送るこの世界に来て、初めてやりたいことができた。
アルディートを倒すこと、そして師匠の敵を取ること。
それらを達成するまで死ぬことはできない。
(最後まであがいてやる!!)
私は足だけで立ち上がり、クラリネットめがけて走る。
器用な足さばきによって、口にマウスピースを運び、とにかく音を出した。
この何もキーを押さえない音の時、私の得意魔法の空太刀を放てるのだ。
(師匠、見ていてください!!)
「はぁぁぁぁ!!空太刀!」
「……ぉぉ。」
アルディートが若干よろめき、アルディートの腕に傷口が開いた。
チャンスだと思い、決死の覚悟で空太刀を連発する。
「はぁぁぁぁ!アルディート…どうだ!!」
「………ふっ…。」
『………相殺。』
そう言った途端、空気が揺らぐ。
アルディートには、連発した空太刀が一発も届いていなかった。
それどころか、後ろの木にすら当たっていなかった。
まるで私の魔法が、アルディートの間合いに入った途端に消えたようだった……。
「この魔法、『相殺』はこの世の全てを拒絶する。何も通用しない。」
「…くっ…くっそぉぉぉ!!」
ホントに腹が立つ。
アルディートは最後の最後に奥の手を出してきた。
不老不死に加えて、最強の防御まで兼ね備えているなんて……。
その瞬間、私の脳裏には、この世界での走馬灯がよぎる。
私の心に思い浮かぶのは……
「死」
(師匠、私はここまでのようです。約束を果たせなくてすみません…。)
「哀れなアトラの弟子よ、本当はもっと痛めつけて殺したいのだが……気が変わった。」
「お前は私の身体を傷つけた。今すぐ殺してやる!」
そう言ったアルディートは見覚えのある構えをとる。
「その構えはまさか……!」
「恋しい師匠の技であの世に逝け!!」
「……死嵐!!」
一瞬、私も放って相殺しようとしたが、アルディートの死嵐は師匠の100倍以上の魔力だ。
音で分かった。
(これは終わった。)
私は目をぎゅっとつぶり、死を覚悟した…その瞬間!!
「……ユウ!あきらめるな!!」
死嵐が目の前で止まった。
その声は懐かしいような…よく聞いた声のようだ。
私はふと声のしたほうを見た。
そこには、見覚えのあるローブに身をつつみ、細身の白髪のおじいさんが立っていた。
私はその瞬間、一瞬で誰かを悟った。
「あ……アトラ師匠!!」
マフィー・シャープは20年前、アトラからのおつかいの際、帰り道にアルディートから襲撃にあう。
奮闘したが、特級魔法の連発による魔力切れによって死亡する。
一番弟子は今だ消息不明。もう死んだとも言われている。
特級禁術「相殺」特級魔法の中でも強すぎて、使うと犯罪とされる魔法の1つ。世界の物質、魔法などの根本をすべて無効化する。人に当てると、廃人状態になる。
次回第8話 アトラVSアルディート 最後の猛攻




