第38話 課題曲Ⅰ「ざんげとまよいのうた」
新しく開いた穴の中には、ぺしゃんこに潰れた砂神龍の亡骸がギリギリあるのが分かった。
そして元の穴の中にも入る。
アルスが生きている様子はなく、亡骸もない。
落ちているのは、アルスの血と服だけだった。
骨もない。身体の肉片も落ちてない。
砂神龍に喰われたか、ボロボロすぎて認識できないのか…。
アルスは死んだ。
砂神龍の討伐は成功したが、喜びの潮風よりも、懺悔の波の方がとてつもなく勝っていた。
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私達はメッツォスッスへと戻ってきた。
アルスのローブと、砂神龍の骨を持ち帰った。
村では、私達の帰りを待っている村人が大勢いた。
しかし、村人たちは、いつもは3人で帰ってくるのに、その光景が見られないことから察知して、気まずそうにそれぞれの家へと戻っていった。
私達は、初めて村に来たときに手当てをしてくれた魔族の家に戻った。
何か様子がおかしい。
その魔族はいつもニヤニヤしているが、甲高い声をあげて笑っていた。
「あの…、何がおかしいんですか…。」
「ふふっ。君たちの仲間の…、アルス・フラット。死んだんだろう??」
「……何が言いたい!!」
「ハッハッハッ!!それは良かったねぇ!!これでアルディート様の計画がまた進んだねぇ!!!」
「アルディートの……、お前は誰だ!!!」
「私は『リゾルート』。アルディート5凶配下の一人、奇術のリゾルートだよぉ。」
「なんでここにいる!なぜアルスが死んだことを笑うんだ!!」
「まぁまぁ落ち着きなよ。ゆっくり説明してあげるからねぇ…。」
私は、ウベティが斬りかかろうとしたのを慌てて止めた。
スピリトーソは怪しいけど、正直悪いやつじゃなかった。
アルディート配下であることに変わりはないけど、話くらいは聞くべきだろう。
「私がここにいる理由はねぇ……、言えないねぇ。」
「なぜ?」
「……。言えないねぇ。」
「くっ!ふざけているのか!!この野郎!!!」
「ちょっ、ウベティ…。落ち着いてください!」
「離せユウ!こいつを殺す!!」
「おやおや…、いいのかいウベティ。私とやりあったら……、君が負けるよ??」
「……くそっ。」
ウベティは扉をこじ開けて外へ飛び出た。
ウベティの目には、怒りと殺意のこもった涙が浮かんでいた。
彼の様子も気になるが、今はリゾルートから色々聞き出すのが先だ。
と思っていると、リゾルートから話始めた。
奴の口調が変わる。
「そういえば…、君はスピリトーソと1ヶ月くらい冒険してた、ユウ・シャープだったな?」
「そうだ。」
「……、スピリトーソから聞いたと思うが、あのアルスという男は、嘘をついている。」
「君は、フラット一族の企みを知ってるか?」
「いや、初耳だ。教えてくれ。」
「まず、奴らは5年以内に、全世界の生物をピアニッシモ化させる。すなわち、身体と魔力を最小化させるんだ。」
「そして、そこから1ヶ月の間に全ヒトと魔族を殺害。世界侵略を完遂させるということだ。」
「なんと…、でも魔族は、生命を蘇らせる魔法を使えるって聞いたが…。」
「力を失った奴が、そんな大魔法を使えると思うのか??」
「……。」
「…。正直、アルスがこんなことで死んだとは考えられない。だが、今回の戦いで、奴らに大打撃を与えられたのは確かさ。」
アルスが生きている…。
まあ、あり得る話だろう。
「俺は…、これから何をすればいい。アルディート側についた方がいいのか?」
「それはダメだ。アルディート様はお前を嫌っておられる。」
「寛大なお方な為、配下との接触は許可してくださっているが、直接となると、お前の命が危ないぞ。」
「……。」
「そうだなぁ…。じゃあ君はまず、ソプラノ陛下と会ってみたらどうかなぁ?」
「陛下と?何のために??」
「あの陛下はアルディート様と少し繋がりがある。会えば何か力を貸してくれるかもねぇ。」
「……、分かった。都市に帰ったらウベティと行くことにする。」
「いや、一人で行くんだ。」
「なぜだ?」
「言えない。」
「…そうかよ。」
「とにかくね…、アルスが致命傷を負った今が好機だ!君にも是非頑張ってほしいんだよねぇ。」
「……、努力はする。スピリトーソによろしく言っておいてくれ。」
「それでこそだ!じゃあまた会おうねぇ……。」
リゾルートを背に向け、外へ出た。
ウベティを探さなきゃ。
アルスの死…。
さっきまでは懺悔の波が襲っていた。
だが、その波の中には、安堵という小魚が紛れ込んでいるのを音で感じ始めていた。
次回第39話 自由曲「ウンベシュ・レクイエム」




