第30話 あるミライを
スピリトーソとの旅の期限がきた。
私は明日早朝、アルス達の待つソプラノ第2都市へと帰ることにした。
そして今夜、3つの式典がある。
ーー
1.ユウ・シャープ旅立ちの式
2.カエスーラオーケストラ+ユウによる演奏
3.ユウ16歳の誕生祝い
ーー
私はこの世界に来たとき、年齢はちょうど10歳ということにした。
あの日を誕生日として、もう6年が経過したのだ。
時間の流れは早いもんだ。
スピリトーソに言われて、カンラに演奏会を開きたいと言ったのが今回の式典の始まりだ。
さらに私の誕生日と、明日旅立つことを同時に祝いたいと言ってくれたのだ。
本当に、カンラ達には感謝しかない…。
式典までの時間は、道場で過ごすことにした。
「ユウさん。本当に明日旅立たれるのですか??」
「はいブルージーさん。我が家に帰ろうと思います。」
「そうですか…、短い間でしたけど楽しかったですよ!」
「私もです。さぁ、最後に夜まで存分に手合わせしましょう!皆さんもよかったら!!」
『是非!!!』
式典の前までしっかりと修行を行った。
私の存在が認められ、皆から慕われていたことを改めて実感し、少し目頭が熱くなった。
◆◆◆
式典の時間となった。
私は会議の時よりもさらに格好良い正装に着替えた。
式典は大講義堂の大広間で行われる。
現世の東京ドーム並みの広さがある場所だ。
そして今日の主役は私だ。
盛大に楽しんでいこう。
私の隣の席にはスピリトーソ、カンラ、フリオーゾ、フォコーゾ……。
お世話になった人たち全員を招待した。
式典の司会は、カンラが務めてくれる。
「先日、街の近くに魔物裂目が出現し、皆様も不安に成っている頃だと思います。」
「しかし、今日はユウさんのこれからのご献身を願う大切な式典です!盛大に祝いましょう!!」
「さぁユウさん。乾杯の音頭をお願いします。」
「…皆さん。今日は私のためにありがとうございます。思いっきり楽しんでください!乾杯!!」
『かんぱーい!!!』
「うぉぉぉ!!!」
「ユウさん万歳!!!」
各所からありえないくらいの歓声が飛び交い、ジョッキの交わる音が響いた。
私も少し鼻の下を伸ばして、誇らしく酒を飲んだ。
もちろん、カンラ達とも乾杯した。
食事が始まり少し身体があったまってきた頃、次のプログラムへと移る。
「さて皆さん。今日のメインイベントを始めていきます。」
「カエスーラオーケストラとユウさんによる、演奏会の開演です!!どうぞ!!!」
ステージの幕が上がり、皆の前に立った。
オーケストラで吹くのは初めてかもしれない。
しかも今回主役と言うことで、終盤にソロがある。
緊張するけど、しっかりとやり遂げよう。
◆◆◆
指揮者が構え、私達も一斉に構える。
指揮棒を振った途端に、演奏が始まった。
〜弦楽器の美しいハーモニー、支える管楽器の素晴らしい音色、指揮者の狂いのない指揮〜
カエスーラに住む全ての人々に想いを込めた演奏を奏でてゆく。
私はこの演奏の中で、これまでの事を振り返る。
カエスーラでの出来事、色々なヒトとの出会い、スピリトーソの謎判明…。
様々な事を思い出しながら、今、この時間に更けていく。
これから、アルスにつくかスピリトーソにつくかなんて決められない。
だが私の本当の目的は、『音楽で世界を救う』こと。
この世界全てのヒトや魔族のために、音楽で救って行く。
そう心に強く決め、自分のやるべき事をゆっくりとやっていこう。
そう決意したのだ。
そして、私のソロがやってきた。
今の私に迷いはない。
1音1音に思いを込め、丁寧に演奏した。
ふと会場を見たとき、皆が口を半開きにして聞き入ってくれていた。
演奏者…プレイヤーにとって、何よりも嬉しいことだ。
ソロが終わり拍手に包まれたと同時に、曲は終盤へと突入する。
全ての力を注ぎ、最後まで出し切った。
◆◆◆
演奏が終わり指揮者の手が下がると、会場から盛大な拍手が送られた。
特別席のカンラ達は、涙を流してくれていた。
指揮者が私を指して皆の目線が集まり、私は感謝を込めて深く…長くお辞儀をして、演奏会は終わりを迎えた。
私にとっても皆にとっても良い演奏会が出来たと、身を持って感じることが出来た。
きっかけを作ってくれたスピリトーソには感謝しよう。
式典が終わった後、私達は打ち上げを行った。
「ユウさん、素晴らしい演奏でした。本当に心が浄化されました…。」
「それは良かったです。私も本当に有意義な時間でした。」
「あれ?そういえばアルスはどこですか??」
「あぁ…ミューズ様ね……。さっきまでここにいたのだけど……。」
「ちょっと探してきますね。」
さっきまでいたらしいスピリトーソを探しに行く。
つい先ほど、最後に話したいことがあるって言われたからだ。
町外れの丘上に行くと、スピリトーソが一人こじんまりと街の風景を見ていた。
「…来たねユウくん。わざわざごめんね。」
「どうしたんだ。また隠し事があるなんて言わないよな。」
「…もうしないよ。……ちょっとこっちに来てほしいな。」
「……、どうしたんだよ……っ!!」
スピリトーソは私に抱きついてきた。
彼の目には大粒の涙が浮かんでいる。
「ユウくんっ!…僕ね…君と過ごすのが凄く楽しかったんだ……でも、明日からいなくなっちゃうなんて……さみしくて……。」
「……スピリトーソ……。」
「よしよし、本当に…。じゃあこうしよう。また1年後に一緒に旅をする。それでいいか??」
「……っ!!本当に!?約束だからねっ!!」
この瞬間、初めて私は彼の純粋な心を知れた。
彼へ抱いていた不信感はかなり消え去っている。
私も離れるのが少しさみしいと感じていた…。
◆◆◆
翌朝、私は皆が起きる前にこの街を旅立つ。
皆の待つあの都市へ。
これから待ち受ける事は過酷な事ばかりかもしれない。
でも私はもう諦めることはない。
自分の目指す目的に向かって進み続ける。
その先にあるミライへと……。
次回第4章 出世編
第31話 帰ってきた我が家 投稿日未定
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