第29話 スピリトーソの謎
修行に打ち込んでいたある日、私は久しぶりにスピリトーソに会った。
人のいない所で少し話がしたいと言われ、ミラノさんが出かけている時間帯に家へ戻った。
家に入ると、リビングにスピリトーソが座っていて、少し難しい顔をしていた。
「…改めて久しぶりだねユウくん。剣士の修行、ちゃんとやってくれてるんだね。」
「あぁ…、久しぶりだな。お前は今まで何してたんだ?いつもなら毎日一番に顔を見せてくるのに。」
「ちょっとね…アルディート様に呼ばれてたんだよ…。」
「アルディートに…?何を話したんだ??」
「…それは言えないよ。でも、君に2つだけ話さなければいけないことがあるんだ。」
スピリトーソはここ数日、一度も私の前に姿を現さなかった。
カンラにきいても、フリオーゾに聞いても濁されるだけで、口止めされていることがすぐに分かった。
まさかアルディートと会っていたとは思わなかった…。
「まず一つはね……僕がユウくんと行動していることを、アルディート様は知ってる。」
「…っ。なんで今まで隠してたんだよ…。」
「だって、最初に言ったら君は絶対ついてこなかったんじゃないの?それに、アルディート様も許してくださってるんだよ??」
「……。」
因縁の相手であるアルディートの配下だから警戒してはいたが、まさか本人にまで知られているとは…。
私がまだこうして生きている事は、アルディートが許している証拠になるわけだ。
正直今すぐにでもスピリトーソをぶん殴りたいけど、やめておこう。
「…そして2つ目はね……僕は元々ヒトだったんだよ。」
「なんだと……?」
「驚くのも無理ないよね。僕はもう1000年以上生きているけど、そこら辺で生まれた正真正銘ただのヒトさ。」
「…それもアルディートの力か??」
「そう。ユウくんは、特級禁術『調律』を知ってるかい??」
「……初耳だ。」
「まあそうだよね……。」
聞いたこともない魔法だ。
私が知っている特級禁術で言えば、アルディートの得意技、相殺しか知らない。
「この魔法はね…『魔族がある対象を蘇らせたい』と強く願った時に発動することが出来るんだ。」
「…ん?ちょっとまてよ……。て言う事は……!」
「そう。この世界の魔族なら誰でも使えるんだ。」
衝撃の事実が判明した。
この時点で、私がアルディートら魔族に挑むのがどれだけ無謀なのかが分かった。
もしかしたらあの時……アルスが師匠の呪いを断ち切ったと言うのも嘘で、単純に蘇らせたという可能性が出てきた。
アルスへの信頼度がだんだんと下がってきた。
「…でもね、もちろん簡単に使えるものじゃないさ。僕だって2回しか使えたことないし…。」
「2回もあるのかよ…。一体誰に使ったんだ?」
「それは内緒。僕にもプライバシーはあるからね。」
「…まあ仕方ない。話を戻すが、その禁術とお前がヒトだったことと何の関係があるんだ??」
「そうだったね…。この禁術によって蘇らされた者は、永遠の命を得る。」
「そして……蘇った瞬間に、僕はアルディート様から力を預かった。」
「…それは……どういう………。」
「僕は……。」
『音楽の神、音神だ。』
「っ…!!!」
スピリトーソがミューズだと言う事はこの前の会議でよく焼き付いている。
やはり本人が自覚していたか……。
この瞬間、自分の存在意義が変わりそうだ…。
いろいろな常識が覆った。
ほぼ不死身の魔族…スピリトーソの力の秘密。
誰も信じれなくなりそうだ。
「隠しててごめんね。でも、君なら分かってくれると思ったよ。この前会議でやっちゃったし……。」
「……。」
「え…あぁ……うぅん、その…、なんかごめんね?」
「……、ねえ、なにか言ってよぉ…。」
「……ふぅ。俺からも一ついいか??」
「なに?なんでも聞くよ。」
「これから俺は何をすればいいんだ…?誰を信じて、何を目的に生きていけばいいんだよ。」
スピリトーソの肩を強く掴んだ。
私の手は震えている。
怒りと迷いだ。
スピリトーソはとっさに私の手を押さえたが、決して力はこもっていなかった。
スピリトーソはどう思っているのだろうか。
奴は私の顔を両手で挟んできて、話を始めた。
「そんな顔しないでよ…ユウくんらしくないよ。」
「……君は、音楽で世界を救うんだろう?」
「…そうだけど……。」
「最近楽器は吹いてるの?しばらく音楽から離れてないかい??」
「…確かに。最近は自分の力を高めることばっかりだったかもしれない…。」
「そうだよね。じゃあさ、今度カンラに頼んで、皆の前で演奏しようよ!きっと心が安らぐよ!!」
「それにさ、君のやるべき事は今すぐに決める必要はないよ。ゆっくりと決めればいいさ…。」
「…っ。スピリトーソ…。ありがとう。」
「ははっ。弱ってるユウくんが見えるなんてラッキーだねぇ。よしよし…。僕も悪かったよ。」
その日は夕方まで、スピリトーソの小さな身体に身を預け、いつまでも泣いていた。
◆◆◆
その日の夜、私はまた道場へと向かった。
少し身体を動かして気分転換しようと思ったのだ。
道場へつくと、部屋の隅だけ明かりがついていた。
ふと覗くと、私と同じくらいの身長だが、ひ弱そうな女の子がいた。
私に気づいたその子は、慌てて稽古をやめて私の方へお辞儀してきた。
「わわっ!!すぐに気づかないですみません!!すぐに片付けますからっ!!!」
「えっ、ちょっと。私ですよ、ユウです。」
「あ、あぁなんだユウさんか。びっくりさせないでよ……。フォコーゾ師匠がお怒りなのかと思いましたよ〜!!」
「それはそれは、失礼しましたお嬢様。」
そう、この子はカンラの娘さん。
名前はまだないんだとか。
なんでもコラール一族は、成熟した剣士になるまで名をもらえないという決まりがあるらしい。
決してカンラが見捨ててるわけじゃないらしい。
安心した。
この子とは、昨日の朝あったばかりだ。
その時は部屋の隅ですやすや眠ってたもんだから、布団をかけてあげたんだ。
そしたらそのまま夕方まで眠ってたから、流石に声をかけた。
それが最初の会話。
彼女は熱心で、やるべき事にすぐ打ち込んでいく。
でも頑張りすぎる事も多いらしく、こうやって一日中眠る事もあるんだとか。
今日も一人残って修行してる。
すごいけどしっかり休憩もしてほしい。
「…で、ユウさんは何しに来たの?いつもならこの時間は師匠と仲良く飲んでるんじゃなかったっけ?」
「今日はね、君に話したいことがあって。」
「私に…?一体何の相談ですか??」
「もし君が、2人の真逆のことを言っている人どちらかについていかないといけないことになったら…どうする?」
少し前にウベティに聞いたことを聞いてみた。
責任感の強い彼女の意見は参考になりそうだ。
「…そうですね……私は一人で行きますね!」
「…ほほぉ??」
「だって嫌じゃないですか。どちらかの敵になるなんて。だったら自分の道を歩みますよ。」
「なるほど、参考になりました!!」
「役に立てたなら良かったです。そうだ!ユウさん!少し手合わせしませんか??」
「おっ、いいですよ!やりましょうか!!」
そうして、夜遅くまで修行をした。
やはり、自分で決めるべきなんだろう。
アルスとスピリトーソ、どちらにつくのか……。
次回第30話 あるミライを 8/24 20:00




