第25話 国境都市の危機
この会議では、私とスピリトーソは傍観者として参加することになった。
場所は街の中央、石塀付近にある『カエスーラ大講堂』だ。
ソプラノ第2都市の大きな建物を見てきた私には、かなり小さく感じた。
会議の始まる1時間前。
かなり速くついた私達は建物に入り、お偉いさんを探すことにした。
ミラノさん曰く、『こっち』側の町と、『あっち』側の町には、それぞれ里長がいるらしい。
とりあえずその人達に挨拶しようと思った。
◆◆◆
講堂内を探していると、護衛隊らしき人に止められた。
「おい、そこにいる子供達。こんな所で何をやっているんだ。」
「私達は今回の会議に参加する者でして…。」
「ここは子供がくる場所ではない。さっさと帰れ。」
「いや…ですからね……。」
「逆らうのなら、罰を受けてもらうぞ!」
「……。」
話を聞かない人だなぁ。
ここが公の場所じゃなかったらとっくにぶっ飛ばしてる。
あぁ、ほら。
隣の奴なんてもう、殺す気満々だ。
スピリトーソを少し落ち着かせて、仕方なく背を向けて去ろうとしたその時、後ろから女性の声が聞こえた。
「…およしなさいコルネ。この方々が話していた例の冒険者さん達ですわ。」
「なんと…!それは大変なご無礼を…、申し訳ございません!!」
「…わかればいいのです。さぁ、護衛隊をまとめて準備なさい。」
「はっ!承知いたしました!!」
そうして護衛の人が去り、奥からいかにも高貴そうな女性が出てきた。
黒髪の髪がきれいにまとめられていて、美しいドレスに身をまとっている。
その女性は私達に近づいてきた。
「先ほどは私の護衛が失礼いたしました。」
「私は『カンタビレー・コラール』。こっち側の町の長ですわ。以後お見知りおきを。」
「…あ、ご丁寧にありがとうございます。」
「私はユウ・シャープ。こちらは……。」
「……?」
ちょっと待てよ。
こいつがスピリトーソって言ったら、混乱を起こすかもしれない。
どうしようか。
(おい、お前本名言ったらまずいよな?)
(…まぁ、そうだよね。とりあえず……アルスで通しておこうか。)
(…なっ!?……まあ、もうそれでいい。)
カンタビレー様が不思議そうにしているので、慌ててスピリトーソ(偽名…アルス)を紹介する。
「ゴホン…失礼。こちらはアルス。私の友達でございます。」
「あらあら、ご一緒に来ていただけるとは嬉しいですわ。どうぞよろしくお願いしますね、アルス。」
「うん、よろしく。」
とりあえず危険?な挨拶を済ませることが出来た。
ていうか、彼女は私達の存在を知っていた。
しかも、何か凄く期待されてるような…。
裏で何か手回しをしているのだろうか。
その後、私達は部屋に呼ばれてお茶することになった。
どうしてここまで待遇が良いのか分からないけど、謝意は受け取っておくべきだろう。
「あの、カンタビレー様…でいいんでしたっけ?」
「そんな堅苦しくなくても大丈夫ですわよ。きやすく、カンラと呼んでください。」
「…いやいや、そんな。…そのカンラと言うのはあだ名みたいなものですか?」
「そうです。この町の者は皆、私をカンラ様と呼んでくださるわ。だからユウ達もカンラと呼んでいいのよ?なんだったら、様もいらないわ。」
「はぁ…。分かりました、カンラ。」
「ふふっ。」
「……ねえ、僕もいいの?」
「ええ。もちろんです、アルス。あなたもカンラと呼びなさい。」
「うん、分かった!」
そうしてお茶会は会議の少し前まで行われた。
友達?になったカンラと冒険の事を話したり、カンラから高貴な人の生活を聞いたりした。
高貴な人の生活は考えられないくらい豪華だった。
専属のシェフによる料理、なんでもしてくれる執事、世界屈指の護衛隊……。
まあ自分がそうなったら絶対だらしなくなるから、羨ましくはないかもしれない…。
◆◆◆
私達はカンラと別れ、きちんと会議室に正面から入ることにした。
会議の時間が近づいてくるにつれ、続々と豪華な衣装の人が集まってきた。
多分、両側のお偉いさんだ。
逆らったり失礼な事をしたら、側近にやられそうだ。
私達の座る傍聴席には、意外と人は少なかった。
そして正面には、向かい合うようにカンラとあっち側のお偉いさんらしき人が座っている。
それを囲うようにして、両国の代表が座った。
そうして、定刻に会議が始まった。
カンラが司会を務める。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより第50回、カエスーラ領土分割会議を始めます。」
「まず、あっち側『カエスーラ東村』の長、フリオーゾ様、お願いいたします。」
「…ご紹介に預かった『フリオーゾ・ドゥラメンテ』。今回も我々は、領土の占領を求める。」
「…ありがとうございます。では私、こっち側『カエスーラ西村』の長、カンタビレー・コラール。私共も変わらず、領土の分割を求めます。」
「…また意見分かれたな。」
「今回もどこまで続くのかな…。」
「でももう50回目だしそろそろ決めてほしいよ。」
会議に出席している他の人がゴワゴワと喋り始めた。
これじゃあ話が進まないじゃないか。
「…皆様ご静粛に願います。」
「……。」
カンラ。
彼女は冷静だ。
一言で場の空気を整えた。
「とりあえず、両国の意見も聞きましょう。まず、ソプラノ共和国から。」
「はい、私はソプラノ共和国の外交官の者です。」「我が国は領土を分割したいとの考えで、カエスーラ西村と意見を合致させています。」
「どうもありがとう。では次、連合共和国。」
「はい!連合共和国の外交官です。こちらとしては、カエスーラ東村との合致で進めております!」
「ありがとうございました。というわけで、私達カエスーラ西村はソプラノ共和国と、カエスーラ東村は連合共和国との協力関係ということで話を進めていきます。」
なんか、話が長くなる気がする…。
村同士の話し合いの規模には収まらず、両国を巻き込む話し合いとなっている。
スピリトーソなんてうとうとしてるし……大丈夫か…。
◆◆◆
嫌な予感は的中した。
会議開始から3時間が経過した。
本来の予定よりも2時間オーバーしている。
スピリトーソは爆睡したまま、数人の首がコクンコクンなっている。
ただでさえ少なかった傍聴席には、もう私達しか残っていなかった。
会議の内容は、それぞれのメリットデメリットなどを言い合うディベートのようになっていた。
しかし、これがなかなか両者譲らないようで。
これで決まるか!って思った瞬間が何度もあったのに、引き下がって様子を見始めたり、絶対譲らない理由を正論でたたけつけたり…。
もう帰ってもいいか?
全員頭悪いのか?
素直にどっちか折れろよ…。
そう心で怒っていると、カンラはふと私の方を向いてきた。
背筋が凍る。
「そういえば今日は私の友人が来ているのですが……あ!いたいた。ユウ、意見をお願いします。」
「え…ちょっと…待ってくださいよ……。」
「……。」
全員の視線が痛いほど突きささってくる。
カンラ…硬直状態を脱出するために私を利用するとは…。
あとで怒ってやろう。
とりあえず何か言わなければ…。
「あ、えっと…。そうですね…。私も分割に賛成しています。その、理由は…特にないですが…。」
「…あいつ話聞いてたのか?」
「カンタビレー様の友人って聞いたけど、こんなにみっともない奴なのか…。」
「うぅ……。」
上手く喋れなかった。
第一、当事者が決めるべきじゃないのか。
隣のバカまだ寝てるし…。
でも、カンラの株を下げてしまったか…。
これは失態だ。
あとで怒られるのは私の方だ。
会議の雰囲気をさらに重くしたその時、私の身体が震えた。
原因は分からない。
しかし、さっきまで隣で寝ていたスピリトーソの姿がない。
その席の前に立っている誰かがいる。
身長が恐らく私より高く、ガタイがかなり良い。
めちゃくちゃ顔が怖い。
その男がゆっくり口を開く。
「……おい、長引かせんなようっとうしい…。」
「っ…!!!」
その瞬間、会議室中が静まり返った。
こいつの殺気のこもった威圧感に、誰一人としてその場から動くことは出来なかった。
冷や汗ダラダラの奴…失禁している奴もいる。
私も圧倒された。
でも面影を覚えている。
不思議と嫌な感じはしなかった。
そう。
こいつは間違いなく、変貌したスピリトーソ本人だった。
・国について
この世界は40年前、全ヒト総力戦争終結後、海や川を挟んで3つの国に分けられた。左からソプラノ共和国、アルト・テノール連合共和国、そして、バス王国。
それぞれがある程度同じ程の領土をもっている。
バス王国は現在内乱中。
改めて、今ユウ達がいるのは、ソプラノ共和国とアルト・テノール連合共和国の国境、カエスーラだ。
・カンタビレー・コラール……カエスーラ西村の第3代目長。高貴なお嬢様で、誰にでも優しく接する。
人を利用することが得意。
・フリオーゾ・ドゥラメンテ……カエスーラ東村の1代目長。カンラと違い、80歳のおじいさんで気が強い。元第一級剣士。
次回第26話 世界最強の一言 8/19 20:00




