第24話 音を凌ぐ
私は今日から奴に、音速を習うことになった。
そもそも魔法かどうかも分からないこの技。
私に使えるようになるのだろうか…。
「じゃあ早速やっていくよ。ユウくんは、第3級魔法の『疾走』は使えるよね?」
「あぁ、一応使える。ほとんど使ったことはないけどな。」
「いいね。じゃあまず、疾走を限界まで高めてみよう。」
「君の魔力で高めた魔法は、恐ろしいほど強力になる。君の放つ空太刀のようにね。」
言われた通りに疾走を高めていく。
魔法を高める方法は簡単だ。
普通に放つよりもさらに魔力を込めて放てばいい。
強すぎると暴発したりすると聞くけれど、音楽をやってきたおかげか、そのへんのさじ加減は得意なようだ。
スピリトーソも褒めるくらいには上手いようだ。
◆◆◆
ある程度時間がたった。
確かに高めた疾走は速かった。
でも、スピリトーソの速さには一向に追いつける気がしなかった。
途中でスピリトーソの音速を目で追えるか確かめたり、追いかけっこをしたりもした。
しかし、全てにおいてスピリトーソが完全に上回っていた。
スピリトーソが340m / sだとすると、私は100m / s程度だろう。
私はへとへとになって、一度木陰で休息をとる。
がぶ飲みした水が口から滴るのを荒く拭った。
「なあ…その音速って本当に魔法なのか?」
「……厳密に言うと違う。」
「魔法は魔力を高めて放つのが基本でしょ?でも音速は違う。全身の力を振り絞って放つ…技なんだよ。」
「その技が疾走から派生していると?」
「…まあ、そんな所なんじゃない?確証はないよ。」
「おいおい…大丈夫なのかよ…。」
もしアルディートから授かった技だとしたらどうだろう。
私に使えるようになるわけが無い。
まあ、速く動けるようになることは悪いことじゃないから、この技の練習は無駄ではないのかもしれない。
◆◆◆
会議当日、すなわち3日後。
ある程度はスピリトーソに追いつけたかもしれない。
音速までは行かないが、かなり速く動けるようになった。
今日は会議が始まるまで、スピリトーソと実践形式で戦うことになった。
正直勝てる気がしないが、これからのためにも、ここで一方的にやられるわけには行かない。
「…さあ行くよ!しっかりついてくるんだよ!!」
「…こい!スピリトーソ!!」
私は木刀を構えてスピリトーソを迎え撃つ。
スピリトーソも木刀を持ち、音速を使い、至る所から攻撃を仕掛けてきた。
しかし、私はスピリトーソの動きを何度も見てきたし、自分も速くなってきた。
スピリトーソからの攻撃をギリギリで防ぐことが出来ている。
だが、これはもう何回目だろうか。
これでもさっきから30回以上やられている。
このままではいけないと思い、今回はスピリトーソに力ずくで攻撃を仕掛けてみた。
すると、ちょうどスピリトーソの攻撃と重なり、均衡状態となった。
「…やるね、ユウくん。前より速く、強くなってるよ!」
「……何とか追いつくようになってきた。どうだ?疲れてきたんじゃないか??」
「…、隙ありだよ!!」
「……うっ!!」
油断した所にスピリトーソの木刀が懐に入った。
急所を突かれてその場に倒れ込んだ。
速さ関係なく、油断でやられた。
「今回もダメだったね。さあ、もう1回やるよ。」
「…はぁ……はぁ。もう無理だろ。いくらなんでも速すぎるんだよ…お前。」
「…でも何回も僕の攻撃防げてるじゃん。かなり成長してるよ。」
「それじゃダメだ。戦場だったらもう、お前に殺されてる。1回で勝負が決まるんだから、それを決められるようにならないと……。」
スピリトーソの励ましを遮るように話した。
でも本当に、戦場では一発勝負だ。
1回の油断や隙で死んでしまう。
それを何とかしないと意味が無いじゃないか。
せっかくスピリトーソが鍛えてくれているんだから、それに少しは応えなければならない。
いくら信用してないとはいえ、自分を強くしてくれているんだから。
「…あのさ。試しに魔法を使って戦ってみたら?」
「魔法を使って??」
「そう。君は剣の扱いはまだ慣れてないでしょ。だから、君の得意な魔法で勝負するんだよ。」
「…でも、お前は木刀だろ?そんなの魔法で防げるわけないじゃないか。」
「まあ、実践あるのみ。やってみよう!!」
「……分かった。」
そうしてクラリネットを準備して、魔法を放つ準備をする。
多分スピリトーソは、私の魔法を避けるかさばくはず。
本気でやっていいんだよな。
魔法が当たって死にました、とか無いだろうな…。
まあ考えてても仕方ない。
やってやる。
何回目か分からない手合わせが始まった。
相変わらず凄まじいスピードで動くスピリトーソ。
とりあえず音空間を展開して、奴の動きを読む。
「…はっ!……よっ!!」
「…ユウくん、さっきより動きが速くなってるよ!いいね!!」
「…集中してるから話しかけないでくれ!」
スピリトーソの攻撃を、さっきはギリギリで受けていたけれど、今回はかなり余裕をもって回避出来た。
音空間のおかげか、魔法を使うことへの慣れなのかは分からないけど、さっきより明らかにいい動きが出来ている。
「…避けてるだけじゃつまらないな。もっと攻撃してきなよ!」
「じゃあお望み通り……空太刀!!」
「…っ……おぉ…、いいね!楽しくなってきたよ!!」
「…まだまだ行くぞ、スピリトーソ!!」
◆◆◆
こうして1時間。
ずっと均衡状態が続いていた。
お互いに回避したり、相殺したりと、一向に勝負の一撃にたどり着くことは出来なかった。
が…この瞬間。
スピリトーソが勝負を仕掛けてきた。
「…そこだっ!終わりだよ、ユウくん!!」
「……ふっ。かかったな、スピリトーソ。」
「……なっ、動けない!これは……。」
「これはただの落とし穴さ。さっきからお前、攻撃の瞬間だけは直線的な動きになっていた。」
「それを予測して、戦闘中にこれを掘ったの?」
「…そういう事だ。終わりだ、スピリトーソ!」
コツンと弱く頭を叩いた。
その瞬間、私は達成感と高揚感で満たされた。
スピリトーソから1本とれた。
その嬉しさは、私にも計り知れないほど大きいものだった。
「…やった、1本取ったぞ!!」
「あぁ、本当に凄いよユウくん!僕から1本取るなんて…!」
「正直、君が音速を習得出来なかったのは残念だけど、君は僕の動きを見切った。それだけで十分だよ。」
「そうか…その……なんだ……素直に礼を言う…ありがとう。」
「あ、ユウくんがついに心を開いた!嬉しいなぁ。」
「そんなつもりで言ってな!…。」
「……確かにまだ信用してはいないけど、素直に感謝はしてるよ。」
「まあ、照れてるユウくんを見れただけで良しとしようか。」
「……うるさい。とにかく速く準備して、会議に行くぞ。」
「はぁぁい!!」
こうしてスピリトーソから1本とれた私は、家に戻り汗を拭った。
正装に着替えて会議会場へと向かう。
音速の本質や、習得は出来なかったが、それを凌ぎ、一撃を入れられた事は、大きな一歩となるだろう。
これからの会議でどんな結末になるかは分からないが、スピリトーソが鍛えてくれたこの時間を無駄にはしないよう、上手く立ち回っていこう。
剣士の道は、とりあえず後回しだ。
次回第25話 国境都市の危機 8/18 20:00




