第22話 ひとりでやるんだ
翌朝、あまり眠れなかった身体のだるさを抱えながら、鳥のさえずりに目覚めさせられた。
昨日は色々な事を考えたな…。
少し悩みすぎてるのかもしれない。
今日は少し気楽にやってみよう。
外に出ると、スピリトーソはまだ起きていないようだった。
焚き火の薪は灰になり、食べ残しの肉には虫がたかり始めている。
私は朝食の準備をしようと、川で釣りを始めた。
ちなみに釣り竿は、そこら辺の木の棒にそこら辺のツルをくくりつけただけの簡素なものだ。
餌もそこら辺の虫。
針もついていないから、近づいてきたら魔法で捕るつもりだ。
(おぉ、いいサイズの魚が寄ってきたぞ…。)
「……今だ!『氷刺』!!」
「よし!一匹ゲット!!」
その魚は現世のアジのような…サバのような見た目だった。
ピカピカの胴体に、いかにも青魚だと感じさせられる。
そして……牙をこちらに向けている!!
「ガブッッッ!!」
「痛ってぇぇぇぇ!!!」
その魚は私の左腕に噛みついてきた。
しかもかなりの激痛だ。
骨がむき出しになりそうなくらい、深く噛みついている。
必死に叫ぶ中、後ろから声がした。
スピリトーソだ。
「ふぁぁ……ってユウくん?楽しそうだね。」
「…そんな事どうでもいいから、な…なんとかしてくれ!!」
「あぁ…そいつは『アクートラウト』。攻撃性が高いから、手で持ったらいけないんだよね…。」
「…っ!どうすればいいんだ?魔法だと腕を巻き込むし…剣だと引き剥がすのが難しいし…。」
「こんな時はね……こうっ!!」
「だから何をすれば………え??」
その瞬間、私の左腕の魚は下に落ちていた。
気絶していた。
全く分からなかった。
何があったんだ。
「お前、何したんだ??」
「今僕はユウくんを持って、音速でそこら辺を駆け抜けたんだ。それで引き剥がしたわけさ。」
「これが僕の奥義、『音速』だ。」
その名の通り、音速で移動できるらしい。
異名が神速と言われるだけはある。
引っ張られたり持たれたりした感覚も一切なかった。
敵に回したら一瞬でやられるだろう。
「とりあえずその腕の怪我を治療しようよ。」
「回復。」
「……なあ、その奥義って誰でも使えるようになるものなのか?」
「さあ、どうだろうね。僕は生まれつき使えるからなぁ…。まあ、努力したら使えるんじゃない?」
「…あ、もしかして教えてほしいんでしょ??」
「……まあ、興味はある。だけど、別にどっちでもいい。」
「素直じゃないなぁユウくんは。君が剣士の道を通るんだったら、教えてあげないこともないけどな〜??」
「……。」
音速。
習得できたらかなり有利になる。
どうするべきか…。
◆◆◆
私達は、さっき狩ったアクートラウトを丸焼きにして食べた。
昨日のラルゴリラよりは食べ応えがない。
けど味は普通にサケって感じでおいしかった。
食べ終えた後、身支度を軽く終えてから、次の町へと歩み始めた。
アルスとの経験から、こういう子供っぽい子に地図を持たせると、ろくなことにならない。
私が先導して行くことにした。
スピリトーソは不貞腐れながらも、私についてきてくれている。
後ろから刺されないかだけ不安だ。
そして少し行くと、開けた荒野に出た。
けど様子がおかしい。
森林の中に、ここだけ草木も何も生えていない。
「ここ、広いね。僕が来たときは森林だったはずなんだけど…。」
「そんな事あるのか?だってお前があの洞窟に来たのは数日前だって聞いたぞ?」
「それは事実なんだけど、ここは確かに僕が来たときには無かった場所だよ。」
「じゃあ、お前が洞窟にいる間に何か大きな戦闘があったってことか??」
「うーん。でも、地形を変えるのは戦闘だけじゃないよ。特級の魔法使いや剣士には朝飯前だよ。」
たしかに、私の死嵐でもその可能性はある。
制御を間違えると、町を一つ消し飛ばすくらいの威力だ。
とその瞬間、真正面の森林の中から激しい爆発音が聞こえた。
音のした方を見ると、土煙をあげてこちらに近づいてくる大きな影が見えた。
恐らく人ではない。
「っ……!なんだあれ…、デカすぎないか??」
「あれは……突然変異したアルトスパイダーだ!!」
「突然変異……。」
そこに現れたのは、木々よりも大きくなったアルトスパイダーだった。
奴の口元には、誰かが身に着ていたであろう衣服が付いている。
恐らく、この場で突然変異した奴によって、ここら辺にいた冒険者や一般人が食べられた。
そのせいでここ一帯は荒野になってしまったと考えるべきだろう。
慌ててクラリネットを構えた。
スピリトーソは余裕そうに笑っている。
「ユウくん。ここは任せたよ!」
「……え??」
スピリトーソはそう言うと、すっと何処かに逃げた。
(…あの野郎!!)
今すぐにでも探し出したいが、今はそれどころじゃない。
アルトスパイダーは、地響きを鳴らしながら一直線にこちらに向かってきている。
今ここで倒さなければ、さらに被害が大きくなる。
私がやるしかないんだ。
◆◆◆
本来、アルトスパイダーは集団戦闘を仕掛けてくる。
だが奴は一匹で突撃してくるだけ。
何とかなるかもしれない。
アルトスパイダーがお得意の糸を出してきた。
私は瞬時に焼き切ろうとする。
「プシュュュー!!」
「っ…炎波!!」
「……あれ、糸が焼き切れない……くぅ!!」
とっさに回避して何とか糸を交わした。
奴の糸は普段とは比べ物にならないほど強化されている。
並の炎じゃあ焼き切れないほどに。
(身体に直接魔法を当てるしかない…!!)
「飛行!!」
そう悟った私は、突撃してくるアルトスパイダーの頭上を超えた。
「…よし、背後をとった!これで終わりだ…空太刀!!」
「……キィィィン!!」
「っ…!!なんだと……。」
確実に背後から直撃させたはずの空太刀は、奴の背中に当たった瞬間に弾かれた。
突然変異の影響で魔法耐性がついているんだ。
まるで、アルディートの特級禁術…相殺を思い出すような感覚だ。
その時、アルトスパイダーの雄叫びと共に、私の胴体に奴の蹴りが直撃した。
「ァァァァァァ…。」
「うっ……ぐっ………!!」
森林奥深くまで吹き飛ばされた。
「くっ……。木にぶつかって……くそっ…。」
「…回復。」
だが、致命傷ではなかった。
蹴られる寸前、私は身体に空太刀の応用で空気層の結界を張った。
そのおかげで致命傷をさけることができた。
起点の聞いた技が、命を助けた。
だがまだ終わりじゃない。
魔法が効かない相手だ。
ここからどうすればいいんだ。
消耗戦になると不利だ。
私は永遠に回復できるわけじゃないから、いずれやられてしまう。
そう考え込んでいると、後ろから肩を叩かれた。
「トンっ……苦戦しているようだね。」
「おぉぉ……びっくりした…って、スピリトーソ??」
「やあユウくん。生きてて何よりだよ。」
「お前、どこ行ってたんだよ!裏切ったんじゃ無かったのか!?」
「はは、まさかまさか。そんな事するわけないじゃないか。」
「ずっと木の上からじっくり観戦させてもらってたよ。」
理由がわからない。
スピリトーソが戦ってくれたら、すぐに終わらせられるはずなのに…。
「…お前、なんで加勢してくれないんだ??」
「それはね。君のためさ。」
「俺のため…?」
「そうさ。君は確かに強い…けど何処か意識が欠けている。」
「そんな君をもっと成長させるための試練的なものさ。」
「そんな事言われても…。」
「だって君はこれまでずっと、1人だけの力で戦ったことがあったのかい??」
「……。」
「図星だね。君の弱点は邪気でも弱さでもない。
『1人で出来ないこと』なんだよ。」
「………。」
スピリトーソは私の弱点を見抜き、克服しようとしてくれていた。
しかし相手は強敵。
死ぬかもしれない相手だ。
でも、確かにこれはチャンスなのかもしれない。
私は今まで、色々な人に助けられてきた。
師匠、アルス、ミライ、マエストーソ、ウベティ。
これまで一度も1人で解決できたことなんて無かった。
私は1人だと何もできないんだ。
本当に。
でも、このままでいいんだろうか。
スピリトーソがくれたチャンス。
モノにしてこそ、真の冒険者としての一歩を踏み出せるはずだ。
「分かった。ここは俺に任せろ。」
「その調子だよ!頑張ってね!!」
「……あぁ。」
私は再び荒野へ走り出した。
奴は私を見つけた瞬間にまた襲いかかってきた。
でも、ここで怖気づくわけにはいかない。
自分で攻略法を探し出すんだ。
(魔法はすべて弾かれる。死嵐なら効くかもしれないけど、博打を打つことになる。最終手段としておこう。とすれば、弱点があるかどうか…。でも私の炎で焼き切れないほどの糸を捌きながら見つけられるのか??)
私は奴の攻撃をかわしたり、受け流しながら必死に考えた。
むやみに攻めたらやられる。
考えすぎていると、致命傷を負いかねない。
ギリギリの範囲で戦っている。
ギリギリ……。
その時私はピンときた。
音剣に魔力を込める。
しかし武器に魔力を込めると、普段より多く魔力を消費してしまう。
武器への魔力と、身体活動への魔力。
制御を数コンマ間違えれば、私はすぐに魔力切れを起こして、しばらく動けなくなるだろう。
一か八かの手段。
そのギリギリを調整する。
私ならできる…いや、やるんだ!
成功した。
魔力を使いすぎないギリギリの制御。
音剣にも、回避にも問題無さそうだ。
(これは…普段とは比べ物にならないほどの威力……。名付けて、『音剣
魔』!!)
我ながらださい名前を名付けてしまった。
奴はまた糸を出してきた。
全力で剣を握りしめて、振る。
「おりゃぁぁぁ!!」
(スパッッッ!!)
向かってきた糸は私の左右に落ちた。
私は初めて奴の糸を切ることに成功したのだ。
しかし、達成感に浸っている余裕はない。
アルトスパイダーは突撃する姿勢をやめない。
私は構え直して、アルトスパイダーへと向かった。
一瞬だけ剣を引っ込めて、飛行で背後を取った。
さっきは魔法だったが、今度はこの剣の一撃だ。
その瞬間、私は空中で不思議と足に力を込めることができた。
その勢いをつけて、突撃する。
「今度こそ終わりだ!!」
「ァァァァァァァ!!!」
凄まじいアルト歌手のような悲鳴が上がり、奴は倒れた。
私の一閃で仕留めることに成功した。
その後、スピリトーソはすぐにやってきた。
「やったねおめでとう!君の力でやっつけたんだよ!!」
「あぁ、我ながら頑張ったよ。いい戦闘だった。」
「…君さ、少し老けた??」
「……え??」
「だって……ほら、一箇所だけ白髪が…。」
「……!!」
違和感の正体。
あの突撃する一瞬。
空中で足に力を込めて、まるで空気を蹴るようにして勢いをつけることができた。
そして、私が老けている……。
そう。
これは紛れもなく、音無魔法を使った反動だ。
多分、空太刀を足に溜めて放ったんだ。
でももちろん、音無魔法を使ったこともないし使えたこともない。
しかしあの瞬間だけ、私の迷いが吹っ切れた感じがした。
その一瞬ではあったが、音無魔法を放つことが出来たんだ。
アルスが作り上げた音無魔法。
帰ったらやり方を聞いてみるのもありだな。
音無魔法は極めない!って言った手前、言いづらいが…。
◆◆◆
私は怪我を治し、疲れた身体を癒すために少し休憩していた。
スピリトーソは私の老けた原因を必死に考えているようだ。
「……。全く分からないな。まあ、考えすぎても無駄だよね。」
「ところでユウくんさ。剣士の道を通りたくなったんじゃない??」
スピリトーソの企みはそれか。
綺麗事を並べておいて、結局は剣士の道を通らせようとしていたらしい。
まんまと罠にハマってしまった。
剣士の道が気になり始めている。
「…そうだな。前向きに考えておくよ。」
「ふふ、その日を楽しみにしておくよ。」
そうして休憩を終えて、カエスーラへと進み始める。
スピリトーソの善意?に少し信頼を寄せ始めつつあった。
次回第23話 カエスーラ国境都市 8/17 20:00




