第21話 ひとり旅+α
酒場で酔っぱらったアルスを部屋まで運ぶ。
ウベティも酔っぱらって寝ていたが、フィーネに運ばれて帰っていった。
私はアルスを部屋に寝かせて、自分の部屋の机に向かった。
アルスとウベティに置き手紙だけしておこう。
もちろん、スピリトーソの存在は隠さなければならない。
だから、さっきの依頼を受けに行くという事にして1ヶ月誤魔化そうと思った。
ーーウベティ、アルスへーー
いきなりですが、依頼を受けるために1ヶ月、1人で旅立つことになりました。内容は口止めされているので言えませんが、もしかするともう戻れないかもしれません。もし無事に帰れたらまたお酒飲みましょう。
ーーユウよりーー
アルス用とウベティ用の2枚を書いておいた。
明日はいつものランニングの時間よりもさらに早く起きなければならない。
さて…このベッドでゆっくり眠れるのも当分できなくなる。
ゆっくりかみしめておこう……。
◆◆◆
翌朝、まだ外は薄暗く、街灯には明かりがともされている。
クラリネットを軽く手入れして、かばんの中にはあの近距離戦闘用のクラリネットも入れた。
早朝ということもあり、かなり外は寒いので、魔物の毛皮で作ったローブを身に着けて部屋を出た。
まずアルスの部屋を覗いた。
なんてこった。
すぐ目の前にアルスの顔があった。
一瞬驚いて変な声が出たが、アルスはまだ夢の中だ。
アルスはかなり寝相が悪い。
誰もいないベッドの上に手紙を置いておこう。
そして宿を出て、ウベティの家に着いた。
ウベティの家は、宿から少し歩いた住宅街のはずれにある。
見ただけで金持ちだなぁとすぐ分かるほどの大きさだ。
一応起きていたら手渡ししたいから、こっそり玄関を開けようとした。………やめた。
ウベティ、朝からお盛んなことで…。
まあ別にいいんだよ?羨ましくなんてないよ??
とりあえず玄関前にポスト的なものがあるので、入れておこう。
取り込み中に入るわけにはいかないからな。
そして、私はあの洞窟へと歩き出した。
薄暗いので、懐中電灯を使う。
道中では活動前の魔物がそこら辺で寝ていた。
起こさないように、慎重に歩いた。
◆◆◆
洞窟の目の前に着くと、まだスピリトーソの姿は無かった。
もしかして騙されたんじゃと不安になりつつ、一旦呼んでみることにする。
「おーいスピリトーソ!来たぞ!ユウだ!!」
「……グォォォォォォ!!」
「っ……!!」
(やばい。声のせいで魔物達を起こしてしまった。アルス並のドジを踏んでしまうとは…。)
でもその瞬間、魔物達の唸り声は悲鳴に変わった。
よく見てみると、きれいに胴体の真ん中に風穴を開けて倒れていた。
こんな神業ができるのは奴しかいない。
スピリトーソだ。
「おはようユウくん。朝からえらく歓迎してくれるんだね!!」
「別にそんなつもりはない。全く、手間かけさせるなよ。無駄に魔力を使う所だったぞ…。」
「まあ結果的に僕を少しは信じてくれるきっかけになったかな?」
「…さあ。まだ完全には信頼してないからな。」
「あはは!!そんな事しないよ…今はね。」
「っ…このやろっ!!」
「まあ、とりあえず落ち着きなよ。ゆっくり話をしようよ。」
「……分かった。」
私は殴りかけた拳をとめて、丸太に腰を降ろした。
スピリトーソも向かい合うように、浮遊で目線を合わせて浮いている。
奴の身長的に浮かなくてもいいと思うんだが…。
まあ突っ込むのはやめておこう。
スピリトーソは改まって話を進める。
「僕の元で働けって言ったけど、具体的には一緒に旅をして欲しいだけなんだ。」
「別に労働させるわけでもなく、単純に誰かと旅を楽しみたいだけなんだ。」
「じゃあ、なんで俺なんだ?アルディートの部下とか、いっぱいいるんじゃないのか??」
「他の5凶配下とか、部下とは仲があまり良くないんだよ。そもそも会ったこともあんまり無いしね。」
「そこでたまたま、君が洞窟に来てくれたから頼んだってだけさ。まあ、まさか君が来たことには驚いたけどね。」
「アルディートは俺の存在を広めているのか?」
「もちろん、君の噂は毎日のように聞くよ。憎きアトラの弟子の生き残りのクソ野郎ってね。」
「じゃあなんでなおさら、お前は俺を殺そうとしないんだよ?」
「だって、何回も言うんだけど君はアルスに騙されてる。だから可哀想だと思って、殺さなかったんだよ。」
「他の5凶配下と遭遇してたら、殺されてたかもね。」
スピリトーソの言い分を聞いた。
単純に旅がしたい、私を助けたいという、奴の純粋な気持ちなんだろうか。
話を聞くにつれて、少しずつではあるが、スピリトーソを信じてしまいそうになる。
もしかすると、この会話中にもそういう魔法がかけられている可能性もある。
「とりあえずは信じなくてもいいから、一緒に旅しようよ……ね??」
「……分かったよ。お前についていく。」
「やった!そうこなくっちゃ!!」
なぜか、アルディート陣営の幹部的存在と握手を交わすという前代未聞な瞬間を経て、私達は旅を始めた。
この先の未来は何も予想できない……。
◆◆◆
旅を開始して約15分。
私達は普通に会話を交わし、魔物を狩りながら進む。
ほとんど前衛のスピリトーソが倒してくれるが、不意に横から出てきた魔物は私が処理する。
近距離戦闘用クラリネットを使用して。
ふとスピリトーソは私のクラリネットを見た。
「…そのクラリネットは、アルディート様と戦った時のとは違うよね。僕と初めて会った時もそれ使ってたね。」
「あぁこれな。このクラリネットはアルスが改造してくれたんだ。」
「俺は勝手に、『音剣』って呼んでいる。」
「へぇ…アルスにねぇ…。まあ良いんじゃない?結果的に役にはたってるんだし。」
「そもそも私はアルスを敵だとは思ってないからな。勘違いするなよ。」
「はいはい。それもう何回も聞いたから分かってるよ。ごめんって。」
「……。」
その後はほとんど会話を交わさなかった。
気まずい空間の中、目の前の魔物と、進むことだけを考えていた。
さらに15分ほど歩いた。
「そうだユウくん。剣士の道を踏んでみない?」
「…剣士の道??」
「そうさ。アルスとか僕みたいに、剣を使って戦うんだ。魔法使いの君が、緊急時に身を守る術はあっても悪くないだろう?」
「いきなりどうしたんだ。何か企んでいるのか?」
「まさかまさか…。単純に君の戦闘がよりスムーズになるようにアドバイスしてるだけだよ。」
「…とりあえず次の町に着いてから考えてやる。次の町はどこだ??」
「ふふ。ユウくんのそういうとこ、嫌いじゃないよ。」
「次の町はね、このソプラノ共和国とアルト・テノール連合共和国の境目、『カエスーラ国境都市』だね。ここを目指そうか。」
「分かった。行こう。」
「よし来た!さっそくレッツゴー!!」
次の目的地はカエスーラ国境都市に決定した。
毎度のごとく、スピリトーソの子供じみた振る舞いには、不安と恐怖を感じさせられる。
まあ、アルスも似たようなもんだ。
◆◆◆
その夜は、近くの河原付近で夜を明かすことにした。
食事はラルゴリラの肉。
食べ応え抜群で、不味くはない。
たんぱく質過多になりそうだ。
私は一応、スピリトーソとは別の場所に家作成を使って寝ることにした。
『この感覚、マフィー(アルディート)と休んだ時と似てるな……。』
そう思いつつ、布団にくるまって寝る。
しかし、すぐには寝られなかった。
これからの旅、アルスの真偽、
スピリトーソの信頼、ウベティとの友情、
ミライとの約束、そして剣士としての道。
様々な考え事を抱えながら、無理やりに目を閉じた。
夢への誘いは徐々に大きくなっていく。
ラルゴリラ・・その名の通りとても遅いゴリラ。身体が大きい割に、近接戦は苦手。氷を得意とする。
※ラルゴ・・ゆったりと、幅広く
音剣……アルスに改良された近距離戦闘用クラリネット。刀身を自由に出し入れできて、普通に魔法も放てる。
次回第22話 ひとりでやるんだ 8/16 20:00




