第20.5話 運命の赤い糸は存在する〜フィーネの初恋〜
私はフィーネ・ポコ 25歳。
ソプラノ第2都市で生まれたごく普通の女の子。
そんな私は、ある男性に恋をするんだ。
ウンベシュ・ティームト 32歳。
彼は当時、S級冒険者として頑張ってた最中だったんだ。
そんな2人の出会いを遡ってみよう。
◆◆◆
今から18年前。
私は夜、お父さんと一緒にご飯を食べに商店街に来ていた。
その頃の私は、何でもイヤって言ってしまう…いわゆる、イヤイヤ期だった。
そんな調子だから、ご飯屋さんでお父さんに叱られてしまう。
「…いい加減にしなさい!フィーネ!!」
「何回言ったら分かるんだ!俺はきちんとお礼を言いなさいと毎日言ってるはずだ!!」
「…だって、イヤなんだもん……。」
「っ…!!またイヤって言って……他人に良くしてもらったならまずありがとうだろ!?」
「……イヤ。」
「…分かった、もう勝手にしろ。」
「あぁ…お父さん……。」
私は店内でお茶をこぼした。
その時にいた店員のお姉さんに拭くのを手伝ってもらった。
でも私はお礼を言うことが出来なかった。
『ありがとう』っていうたった5文字の言葉だけど、当時の私にはとても言いづらく、重い言葉だった。
そうしてお父さんは先に家に帰ってしまう。
お姉さんは一緒に行こうって言ってくれたけど、そこでもイヤイヤは発動してしまう。
だから私は暗闇の中、1人で帰ることになった。
商店街の中は人が多く、街灯もあるから安心できた。
でも一度商店街から出ると、ほとんど街灯のない道だ。
しかもここから30分も歩かなければならない。
私はお父さんを探しながら少しずつ歩いた。
「…お父さん?どこにいるの??フィーネが悪かったから、出てきてよ……。」
「……こっちだよ。フィーネ。」
「あ!お父さ……っ!!!」
そんな中不幸が訪れる。
その声は確実にお父さんの声だった。
しかしその声のした裏路地に行くと、お父さんはいなかった。
そのかわりに3匹の、知能の高い『ナトゥラーレ』という2足歩行の魔物がいたんだ。
そう、この魔物は唯一の夜行型。
私のような子供をさらって食べるんだ。
そして彼らの得意魔法は『変声』。
その名の通り、一度聞いた音や声を真似する第2級魔法だ。
どうやってお父さんの声を聞いたのか…。
私はふと壁を見る。
血だらけの男が壁につるされていた。
見るも無残な姿に……。
殺されていた。
殺す前に変声で声をコピーしたんだろう。
本当に性格のお悪いこと。
絶望する間もなく、奴らは私に近寄ってくる。
「さあフィーネ、こっちにおいで。お父さんが良いことしてあげるからさ……。」
「イヤ…イヤっ……誰か助けて!!」
私はその魔物達になす術なく手足を縛られて口を塞がれた。
こうやって無力化して食べるんだ。
(イヤ…死にたくない…まだ死にたくない!!)
泣きながら必死にもがいたその時…。
ある青年が後ろから大声でやってきた。
「おいナトゥラーレども!女の子に手を出すんじゃないぞ!!」
「なんだお前。俺らとやる気なんかおい?」
「とにかくその子を離すんだ。さもなくば私の愛剣で細切れにするぞ!!」
「ふん、やれるものならやってみやがれ!この人質がどうなっても良いならな!!」
私は首を絞められながらナイフを突き立てられていた。
その少年も威勢は良いものの、こうやって人質に取られていたら手出しできないよな…と思っていた瞬間…。
私の身体はナトゥラーレではなく、青年の身体の中にすっぽりと埋まっていた。
私の手の縄と口枷を取ってくれた。
「…大丈夫かい?もう安心だよ。」
「うん…あ、あぁ、ありがとう。」
「どういたしまして!!さあ、君は危ないから下がってて。ここからはこいつらを細切れにするからね。」
「うん、分かった!頑張ってね!!」
私は人生で始めて素直な気持ちを伝えられた瞬間だった。
私の心を解放してくれたのは親ではなく、助けてくれた青年だった。
人に気持ちを伝えるのって、こんなに気持ちいいんだ……!!
◆◆◆
5分ほどたった後、裏路地から青年が戻ってきた。
彼は返り血で血まみれになったローブを着て、愛剣にもびっしりと血がついていた。
怪我も少ないようで安心した。
「奴らはもういなくなったよ。君、怪我はないかい?」
「うん大丈夫。それよりお兄ちゃんは大丈夫なの?」
「あぁ…血まみれだけど、俺の血じゃないからね。言ったでしょ、細切れにするって。」
「まあ、そうだけど。」
私はこの青年に連れられて家までの道を行く。
ナトゥラーレは群れで動くから、周りにも何体かいたみたいだけど、ウベティの事をみて怖がって襲ってこなかった。
それにしても、ナトゥラーレはかなり強い魔物って聞いたことある。
それをものの5分ほどで片付けてくるなんて…。
一体この青年は何者なんだろう。
そう疑問に思った私は、帰る途中に聞いてみる。
「ねぇ、お兄ちゃんは何者なの??」
「俺はS級冒険者、第1級剣士のウンベシュ・ティムートだ。君の名前も教えてほしいな。」
「うんべし…てぃむと?長くて難しいや。」
「ウベティでもいい??」
「…。まあ何でもいいよ。」
「あ、私はフィーネ。フィーネ・ポコって言うの。」
「フィーネか。いい名前だね。」
ウベティは第1級剣士だった。
それなら瞬殺できるのも納得できる。
そんな中、ウベティは申し訳なさそうに話す。
「その…君のお父さんを助けられなくてごめん。」
「もっと早く来てれば……。」
「…私ね、お父さんと喧嘩しちゃってたの。ごめんなさいって…言おうとしてて……でも……お父さっ……死んじゃって……うぅ……。」
「あぁぁ…、ごめんよフィーネ…。俺のせいだ。」
「ぐすっ…私のせいだよ。お父さんと喧嘩せずに、私がちゃんとしてたら……。」
「……。フィーネ。こっちを見て。」
「……??」
ウベティは私の両肩を掴んで、私の目線に合わせた。
「いい?フィーネのせいでなんて言わないで。これはナトゥラーレ達が悪いし、早くこなかった俺の問題でもあるんだ。」
「……だからさ、これからは俺が君を守ってみせるよ。命に変えても。」
「………。」
「正直、俺なんかに君の父親みたいに出来るとは思ってないよ。」
「でも、1人になる君に、寂しい思いはしてほしくないんだ。」
「…だから、もう安心していいんだよ。君の帰る場所はここにあるから…。」
「…うぅ、ウベティ!!」
私は涙が止まらなくなって、ウベティの胸に飛び込み大声で泣いた。
その後、いつまで泣いてたか分からないけど、ウベティにおんぶしてもらって家までたどり着いた。
◆◆◆
その後、私は泣きつかれて寝てしまってたから、起きたときには家のお布団で、辺りは暗闇から光に満ちた世界が広がっていた。
リビングに行くと、ウベティが朝ごはんを作ってくれていた。
なんだか本当の家族みたいだ。
「あ、フィーネおはよう。よく眠れた?朝ごはんもう少しだから待っててね。」
「ウベティおはよう。机で待ってるから。」
ウベティの作る朝ごはん。
野菜を煮たスープと焼きたてのパン、それに薬草のスムージー。
昨日の疲れと怪我を癒すために、最適でおいしい料理だ。
「ねぇウベティ。なんで昨日からずっとここに居てくれたの?」
「昨日言ったでしょ。命に変えても守るって。だから今日から俺達は家族みたいなもんだよ。」
「フィーネが嫌じゃなかったらだけど……。」
「…イヤ……嫌じゃないよ全然!嬉しい!本当に……うぅ……ありがとう!!」
「あらら…フィーネは泣き虫さんだね。よしよし。つらかったね。」
また泣きじゃくる私を、ウベティは優しく頭を撫でてくれた。
最愛の父を失った悲しみは大きく、私の心を削っていた。
しかし、ウベティという私の心を救ってくれた青年への感謝、そしてだんだん過ごしていくうちに芽生えてくる『恋愛感情』が、次第にその悲しみを打ち消していったんだとか……。
◆◆◆
「と、そんな事があって、私達は結ばれたんだ。」
「へぇ…。そんな過去があったんですね。驚きました。」
「昔ウベティも、私と同じくらいの年で両親を亡くしたらしいんだ。」
「その教訓を生かしたウベティが、私の事を救ってくれたっていうね。なにか運命を感じる話でしょ?」
「はい!とっても素敵です。改めておめでとうございます!!」
「ふふ、ありがとうね、ユウ。」
そう、これはあの日。
ウベティかフィーネと結ばれた次の日の早朝、私がランニングから帰った後にフィーネと話した時のことである。
幸せそうにフィーネの横で眠るウベティを見ながら、私達は少しだけ話を交わした。
「でもウベティは『フィーネは私に興味はない』って相談してきてましたけどね。」
「そうなの?まあ彼は超がつくほど鈍感だから。照れ隠しとかで避けてたんだけど、嫌われたって思っちゃったんだろうね。」
「あはは。ウベティならやりかねないですね…。」
そんな中、幸せそうに眠る男が目を覚ました。
周りをキョロキョロして、私がいることに驚いた。
「んっ……。ってユウ?なんでここに??」
「おはようございます、ウベティ。少しフィーネと話をしていましてね。」
「無事に結ばれて何よりです。」
「…まぁ、フィーネがどうしてもっていうから、俺も仕方なく…。」
(ベシッッッッ!)
「いったぁ…。何すんだよフィーネ。」
「私、ウベティのことずっと好きだったのに、ウベティが気づかないのが悪いんだよ?」
「……それとも、また泣いちゃおうかなっ…??」
「くぅ…分かった分かった。おれが悪いよ。ごめんよフィーネ。」
「分かってくれたらいいんだよ、ウベティ。」
抱き合う2人を見て、私は邪魔しないようにこっそりと席を立った。
境遇の似た2人のパートナーは、お互いに助け合いながら進んできた。
あの出会いから18年。
本物の家族になることが出来たんだってさ。
フィーネ・ポコ……ウベティの妻。母は早くに病死、父は魔物により殺害。ウベティに助けられてから、恋心を抱くようになった。回復のみ使える。
ウンベシュ・ティームト(ウベティ)……フィーネの夫。彼の両親は25年前、魔物襲撃事件により殺害される。彼に宿るのは、他人に同じ思いをさせない正義感。フィーネに言われて努力して特級冒険者となった強者である。彼もまた、心のうちには彼女に抱く思いがあったんだとか。




