第20話 その先に
21:00から少し投稿遅れました申し訳ありません……
その男の子は浮遊を完璧に操って、身長の足りなさを補っている。
だから、私の首にまで剣が届いているのだ。
「僕の名前は『スピリトーソ』。アルディート様直々の配下だよ。まあ、君なら分かるよね。」
「俺を…殺しに来たのか??」
「うん…本当は今すぐにでも殺したいんだけどねっ。ちょっと君とお話したいんだよ。」
「話…?何を…。師匠の悪口か?それとも、アルディートの自慢か??」
「そんな単純なことじゃないさ。君にね、考えてほしいことがあるんだよ。」
「なら一度、剣を離してくれるか?喉元にあると、安心して口を開けないからな…。」
「…じゃあ、速くそのクラリネット離しなよ。」
私が持っていたのは、カバンに入っていたもう一つの予備。
これはアルスが改造した、いわば近距離戦闘用クラリネットだ。
それはあるキーを押さえると、マウスピースの先から30センチほどの長さの剣になるという優れものだ。
私はとっさに、洞窟にはいる前に持ち替えていたのだ。
そしてそのクラリネットが、スピリトーソの肋まであと数センチの所まで到達していた。
「…分かった。」
「よし、じゃあ僕も剣をしまってあげるよ……。」
「そのかわり、君の手足は拘束させてもらうよ。」
「ちょっとまて、それは話が違うだろ!」
『手足拘束!!』
「……くっ!!」
私の手足は頑丈な縄で拘束された。
こんな魔法もあるのか。
でも今はそんな事を考えている暇はない。
こいつを信じても大丈夫なのか??
こうやって無力化させて、安全に殺そうとしているのではないか……。
しかしスピリトーソは本当に、その場に剣の鞘ごと落としていた。
「…ほらね?拘束はさせてもらったけど、殺すつもりはないから安心しなよ。」
「…あ、もしかして殺されると思った?おもったよねぇぇぇ??」
「…そっ、そんな事ない!とにかく早く話を進めてくれ。」
「分かった分かった。じゃあ本題に入るけど……。
」
『君、アルスに騙されてるよ??』
「……は?何言ってんだお前。」
「事実だよ。アルスと言うか、君はアトラに騙されてるんだよ。」
スピリトーソから出てきた、衝撃的な発言。
アルス…師匠は嘘をついている。
いや、真に受けるな。
私を騙すための口実に決まってる。
「…信じられないのは分かるけどさ、今までのアルスの行動や言動を振り返ってみなよ。」
「何かおかしいとは思わなかったのかい??」
「そんなこと……あっ…。」
その瞬間にこれまでのアルスとの事を思い出した。
確かにそうだ。
アルスは重要なとこでドジを踏んだり、大切なことを忘れていたり……。
師匠もそうだ。
音無魔法の存在すら教えてくれなかった。
第2級魔法は結果的には使えたけど、1年半も放置されたわけだし……。
いやいや、世界的な英雄として知られている師匠とその孫だぞ?
そんなことするわけがないじゃないか。
私は険しい顔でスピリトーソに反論する。
「そんなことない!だってアルスは…師匠は!!」
「アトラは悪いやつなんだよ。アルディート様こそが、この世界を救う神なんだ。」
「ありえない。俺は初めて会った時に殺されかけたぞ!!」
「それは、アトラの弟子だったからだろ?そりゃ、悪い奴の弟子は殺すに決まってる。」
「正義と悪は紙一重。どっちが正義かなんて、君みたいなミジンコに証明できるのかなぁ??」
「…確かに、俺みたいな奴にそんなこと証明できない。」
「だが、俺はアトラ・フラットの弟子だ。たとえそれが悪であったとしても、それを全うする!」
そう言い切ると、スピリトーソは少し険しい顔になり、切り替えるように話を進める。
「…そうかい。じゃあ、一つ賭けをしないか??」
「賭けだと…??」
「そうさ。君がこれから1ヶ月間、僕の元で働け。そうしたら、僕たちは手を出さないであげるよ。」
「…何言ってんだ?そんなことするわけないだろ!!」
「……。これを見てもそう言えるかな!?」
「……っ!ウベティ!!」
スピリトーソの魔法によって、石壁に幻影か映し出さた。
そこに見えたのは、恐らくこの洞窟の最下層に落とされ、絶えない魔物の群れと必死に戦っているウベティの姿があった。
「君が賭けをしない限り、ここから出すことはできないし、彼が自分から出ることも不可能だ。」
「さぁ、どうするんだい?ユウくん。」
ここで賭けにのっても、ウベティの解放は確実ではない。
かといって、ここでスピリトーソと戦っても勝率は限りなく0に近いだろう。
「……分かった、賭けを飲もう。ウベティを解放してくれ。」
「ふふ、いい返事だよ。じゃあ、ウベティを連れ戻してあげるね!!」
◆◆◆
それから少したった。
ウベティはこの広場に戻ってきた。
泥だらけになりつつ、傷はほとんど無いように見える。
流石ウベティだ。
「ウベティ!無事で良かった!!」
「ユウこそ!……なんで手足縛られてるんだ?」
「あぁ…これね。さっきウベティを落とし穴から庇おうとしたら、別の罠にかかったようで…。」
「なるほどな、今解いてやる。」
そういえば、スピリトーソはどこへいったのか。
それは…ウベティを連れ戻す前のことである。
(そうそう。僕の存在は誰にも言わないこと。そして明日の早朝、この洞窟前に来ること。もちろん、アルスにも伝えたらダメだからね??)
スピリトーソはウベティに姿を見せていない。
私は恐らくスピリトーソの事を言ったら、即座に殺されるのだろうと音で感じた。
だから、ウベティが落とし穴にかかった事にしておこう。
「それでユウ。最下層まで落ちたが、さっきまでの膨大な魔力の原因は掴めなかった。」
「そのスピリトーソとかいう奴もいなかった。」
「私もこの付近で音空間を常時展開してましたけど、それっぽい雰囲気は無かったですね。」
「とりあえず、この依頼は異常なしということで大丈夫そうだな。ユウ、お疲れ様。」
「あ、あぁ。お疲れ様でした。」
軽くハイタッチを交わして、洞窟から出た。
洞窟入り口の結界もなくなっており、『この洞窟にスピリトーソがいる』という疑惑も完全に晴らされた。
奴は子供のようだけど、頭はかなり冴えるようだ。
多分、私の数十倍賢いだろう。
◆◆◆
私達は都市に戻った。
入り口の門には、見覚えのある奴がいた。
「ユウ!ウベティ!良かった…。無事で何よりだよ!!」
「…アルス。心配かけましたね。ただいま帰りました。」
アルスは私達の手を握りながら、目には涙を浮かべていた。
私はさっきのスピリトーソの話のせいで、素直に喜べないのがたいそう悔やまれる。
「それで、例のスピリトーソは討伐できたの?」
「それが、あの洞窟には居なかったんだ。もしいたら、こんなかすり傷で帰れるわけがないだろう。」
「いなかった…。そうか。まああいつは神速って言われるくらいだしね。仕方ないよ。」
「それよりも、今日は無事に帰ってこれたことを祝おう!さあ、酒場に席を取ってあるよ!!」
「おう、今行くよ!ユウも来いよ!!」
「…分かりました。すぐ追いかけます!」
そう言って私は、酒場とは真逆の受付センターへと急いだ。
飛行を使って……。
◆◆◆
受付センターのいつもの女性に、私は慌てて報告しに行く。
「…あの!特級依頼を受けた者です!いま終わりました!!」
「うわっ!!あ、ユウさんですね。お疲れ様でした。依頼は全て達成されましたか?」
「それが…このスピリトーソと言う奴が洞窟にいなくて、討伐できずに帰ってきたんです。」
「だから、厳密に言うと達成できてないんです。」
「あーそうでしたか…。それなら、報酬はお渡しできない形となりますが…。」
私はここで嘘の演技に入る。
演技は得意な方だ。
「…うぅ…ぐすっ……。私だって必死にやったのに……。報酬もらえないなんて……。」
「あぁちょっとユウさん…。」
「どうにかして依頼を達成してきますから、どうかその時は報酬を貰えないでしょうか?」
「…分かりました。そこまで言うなら…。ただし、本来の報酬とは異なる物になりますが、よろしいですか??」
「はい!よろしくお願いします!!」
「はい。ではこちらの依頼は、『無期限依頼』とさせていただきます。メンバーはユウ、ウベティの登録のままでよろしいですか?」
「いいえ、私のみにしてください。」
「かしこまりました。ご健闘お祈りしております!!」
「ありがとうございました。頑張ってきます!!」
この依頼は、スピリトーソと行動するためのアルス達への口実だ。
普通に1ヶ月もいなかったら怪しまれるに違いない。
依頼と言うことなら、納得してくれるだろう。
◆◆◆
その後酒場に行き、旅立つ前最後の時間を楽しんだ。
これから何があるか全く分からない。
スピリトーソに洗脳されたり、殺されるかもしれない。
はたまた、意思が変わる可能性も……ないとは言い切れない。
私はそれでも前に進む。
師匠の意思のため、この世界のため、そして、音でさらにその先に行くために……。
2章完 次回第3章 スピリトーソ編〜疑念のユウ〜
次回第3章第21話 ひとり旅+α 未定 21:00
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