第18話 特級冒険者
飛行を覚えた私は、翌日もさらなる依頼を求めて、アルスと共に受付センターにやってきた。
「今日はどうしましょうか。また、第3級の依頼を受けますか?」
「うーんそうだな……まあそうしようか。」
「手分けして探そう!」
「分かりました!!」
今日も第3級の依頼を探していた。
すると、何やら入り口のほうがざわついていた。
私達も何事かと思い、ふりかえってそちらを見る。
「…ねえあの人、特級冒険者の……。」
「絶対そうだよ!雰囲気が違うもん!!」
「すげぇ本物だよ……。」
視線の集まる先から、明らかに強者感漂う男が入ってきた。
似合わないローブは、ボロボロになった生地によって、歴戦の猛者であることを証明しているようだった。
その男は、赤髪の若そうな人だ。
その人は、私達のいる方へ向かってくる。
「……そこの者たち。少し質問しても良いか。」
「…はい、なんでしょう?」
「私につり合う女って、どんな人だと思う??」
「………はい?」
その男は私達に恋愛相談(?)を持ちかけてきた。
絶対私達にするべきじゃないし、ここでするもんじゃないだろ…。
なんなんだこの男は。
「…とりあえず、場所を変えませんか。人目が気になるでしょう。」
「…俺は構わないが、お前らが言うならそうしよう。」
「では、ついてきてください。」
「あぁ。分かった。」
その男を連れて、あの酒場に行くことにした。
今日は依頼受けれないかもしれないな……。
◆◆◆
酒場に着くと、男は腰に掛けていた大きな剣を床に置き、大きく背伸びをした。
「自己紹介が遅くなった。俺は『ウンベシュ・ティームト、特級冒険者』だ。よろしくな。」
「私はユウ・シャープ。こちらはアルス・フラット。第3級冒険者です。」
「俺はよくウベティと言われてる。そう呼んでくれて構わないぞ。」
「分かりました。ウベティ。」
ウベティは特級冒険者だった。
彼からは、これまでの強者とはまた違う、勇気に溢れたような音がした。
アルスは私に続けて口を開く。
「ウベティ…アトラ・フラットをご存知で?」
「アトラ・フラット??何処かで聞いた名だ。」
「……。あ、そうだ思い出した。あのアルディートに一矢報いたという、特級魔法使いだな?」
「その通り!で、私達は彼の弟子なんだ。」
「お祖父様亡き今、全世界に名を轟かせて、意思を繋ごうと頑張ってるんだ。」
「なるほど。それは大いに尊敬しよう。」
ウベティは大きく拍手してくれた。
アルスはこういう時でも宣伝を欠かさない。
まあ、今回はウベティの特級冒険者という肩書が大きいだろう。
「…それで本題に入るが、俺につり合う女ってどんな人だろうか。」
「そうですね…。まずはあなたの理想を教えてください。」
「理想か…。俺より小さくて、少したくましいけど、時より見せる甘えん坊な所を、抱きしめて守ってあげたくなるような……。」
「でも、強い人にはやっぱり憧れるかもな。」
私達は一瞬我にかえって、何してるんだと思った。
特級冒険者だから、アルディートとかの情報とか得られると思ったんだけど、蓋を開けると、ただの恋愛相談を聞いているだけ…。
その男はその後も理想を語り続けていた。
◆◆◆
少しお酒も回ってきた頃、アルスはウベティに質問した。
「ウベティ。その…恋愛って、何でそんなに本気になってるの?何か理由があるんじゃないの??」
私は失礼だと思い、アルスに「ちょっと……。」と言いながら身体を手で抑えた。
しかし、ウベティは真剣な顔になった。
「…実は、親父からそろそろ女を連れてこないと、お前を追放すると言われたんだ。」
「…追放??」
「そう。俺の家系は少し変わっていてね。35になるまでに結婚相手を見つけないと、今後一切、家の者とは近づけなくなるという伝統があるんだ。」
「それに加えて、特級冒険者も剥奪するとか…。」
「それは……大変ですね…。」
私は認識を間違えていたようだ。
これは単なるノロケや恋バナではない。
深刻な家庭問題だ。
そんな相手になぜ私達を選んだのかは知らないが、もう少し真剣に考えてやる必要があると思った。
「じゃあ、ウベティの何か…心に残っている方とかはいないんですか?」
「心に残るか…。いるにはいるのだが、恐らく向こうは私に興味がないと思う。」
「なんか妙に避けられたり、無視されたりするんだよ…。」
「あぁ……それは脈なしだね…。」
「そうだよなぁ……。」
私は一瞬あれ?って思ったけど、一旦ウベティの話を続けて聞く。
「お前たちは顔も整ってるし、優しそうだったから、もしかしたら女を紹介してくれるかもと思って話しかけたんだよ。」
「誰か知らないか??」
私はその時、ふとミライの顔が浮かんだ。
でもミライは、私と結婚するために努力すると決意したばっかりだ。
そんな中でこの人に協力してほしいなんて言ったら、一生絶交になるだろう。
それは絶対に、男としてやってはいけないことだと思う。
かといって、アルスもそんな相手はいないだろうし……。
どうしたものか……。
その時、酒場に一人のきれいな女性が入ってきた。
その人はこちらに近づいてくる。
「……あれ、ウベティ?こんなところに居たの?」
「……あぁ、フィーネ。お前こそ何でここに来たんだ??」
「だって…、ウベティと一緒にご飯食べたいなと思って……。」
「普段一人で食べるとか言って帰るくせに…。」
「しょうがないじゃん!だって…っ……。」
心の中で(めっちゃええ感じやん…)と突っ込んだ。
これ、絶対ウベティ気づいてないだけで女性の方はウベティのこと気になってるぞこれ。
アルスはポカンとしている。
「…あの、どちら様でしょうか?」
「え?あぁ。申し遅れました。私、『フィーネ・ポコ』と申します。あなた達は…ウベティの友達という解釈でよろしいのでしょうか?」
「まあ、そんなところです。私はユウ・シャープ。こちらはアルス・フラット。よろしくお願いします。」
「こちらこそです。」
そう言ってお互いに軽く会釈を交わした。
恐らくさっきウベティが言っていた女性はこの人の事だろう。
何かおかしいとは思ってたんだ。
避けたり、無視したりは、照れ隠しや好き避けの意図がありそうだと。
薄々感づいていたが、今それが確信に変わった。
私はアルスをつれて席を立って、雰囲気を壊さぬように宿に戻ろうと思った。
「じゃあ、私達はこれで。楽しんでくださいね。」
「あぁ、分かりました。ウベティと今後も仲良くしてくださいね。」
「はい。もちろんです。」
(……ウベティ。多分この人脈ありだよ。頑張ってくださいね!)
「……っ!!」
小声でウベティにそう呟いて、私達は酒場を去った。
ウベティ、上手く行くといいな
◆◆◆
翌日、私は軽い日差しに目が覚めた。
時刻は、ちょうどお日様が昇りかけている頃だ。
かなり早くに目覚めてしまった。
顔を洗い、軽く髪を整えて私は、酒場の方へ行った。
この時間になると、朝早くの依頼を受けるために朝食をとる冒険者や、昨日の酒で泥酔したまま寝ているヒトがちらほらいた。
そんな中、昨日座っていた角の席をふと覗いてみた。
そこには、大きく勇敢だけど、恋愛には鈍感な男性と、きれいでかつ、その男に片思いし続けていた女性が、肩を寄せ合いながら幸せそうに眠っていた。
(なんだ、ウベティ。やればできるじゃん!)
私はガッツポーズをして、静かに外へ出て、ランニングを始めた。
ランニング中はいつも、小鳥のさえずりや、風になびかれる木々を見て、一日の始まりを感じている。
今日は穏やかな男女を見て少し満足げに、いつもより遠くまでランニングした。
私は恋のキューピット、ユウ。
今日もまた一組の幸せな男女を見て、心から祝福するのであった。
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