第13話 少女の夢(ミライ) 後編
「ミライ、なぜ邪魔をする!こいつらは悪い奴なんだ!俺がやるから下がってろ!!」
マエストーソの剣を振りかぶった腕は、奴の頭の上で止まっていた。
少女を退かした後に、私たちを斬るつもりなのだろう。
しかし、少女は父の言葉を聞いても動かない。
そんな様子を見た父は、血相を変えて怒鳴りつける。
「俺の言うことが聞けないのかぁっ!!」
その声量は、私やアルスの耳がキーンとなるほどうるさかった。
兵士に至っては気絶する者もいた。
しかし、少女は動かない。
「私の話を聞いて!この人たちは、私を助けてくれたんだよ!!悪い人じゃないって何度言ったらわかるの!?」
少女は泣きながら訴える。
それはまるで、親子喧嘩のようだった。
マエストーソは、信じない気持ちと娘の純粋な意思表示に葛藤させられているようだった。
彼の額から冷や汗が止まらない。
彼は少しの間動かなかった。
少女はさらに続ける。
「今のお父様、すごく怖いよ。皆をいじめたり、すぐに人を斬ろうとしたりして。昔の優しいお父様は何処にいっちゃったの!!」
「昔のお父様を返してよ……うっ…。」
少女の言葉には、純粋な願いと自分の行動を悔やむような…そんな音が含まれていた。
それを見たマエストーソは、少し昔を思い出すかのように静かに目を閉じた……。
マエストーソから迷いの音が消えたと同時に、彼の顔がすこし綻んだ。
娘からの言葉に、何か大事なことを思い出したようだ。
「皆の者……すまなかった。私は自分を見失っていたようだ。」
彼は剣を鞘に収めた。
「ミライ、ありがとう。そしてただいま。」
ここにいる父は、少女の求めた昔の父そのものだった。
ミライは再度父に飛び込む。
「お父さん!おかえりなさい!!待ってたよ!!」
家族感動の再会Ⅱ。
いやー、ぐっときますね〜。
見とれている私とアルスの方を向いて、改まったマエストーソはすこし照れていた。
「いや…その…、冒険者たちよ。さっきはすまなかったな。さあ、椅子に座って。お茶を出そう。」
彼は少女を支えるように、隣の部屋へ向かった。
とりあえず、話は聞いてもらえるようだ。
・
・
ハーブティーのようないい香りのお茶が出てきた。
私とアルスは2人と向き合うように腰掛ける。
「改めて紹介する。娘の『ミライ・フルー・ドルチェ』だ。」
そう言われると、ミライは私達の前に立ち、お嬢様のような立ち振る舞いをした。
「ミライ・フルー・ドルチェで…です!よろしくね!!」
慣れてない敬語に愛おしさを感じながら、私たちも返さないといけないなと思い、座りながらも執事のように丁寧に挨拶した。
「ユウ・シャープです。よろしくミライ。」
「アルス・フラット。よろしくミライちゃん。」
ミライは少し恥ずかしかったのか、足早に椅子に戻った。
「改めてユウ、アルス。お前たちは何をしにやってきたのだ?」
彼の顔には、さっきの殺気は込められていない。
純粋な質問だ。
「冒険者となるための登録。そして、途中で会った兵士との約束として、兵士全員の解放を求めたいのです。」
「ふむ…。なら冒険者の登録は私がやろう。アトラの意思を継ぎたいんだろう?なら、私のお墨付きで、少し念押しくらいは出来るだろう。」
「それが私のできるお前たちへのお詫びだ。」
「なんと、そこまでしていただけるとは恐縮です。ありがとうございます。」
アルスが頭を下げたので、私も続けて頭を下げた。
それより、彼の私達にできるお詫びはこれだけと言ったよな……。
あれ?
兵士の解放が叶ってない。
アルスはもう嬉しさで溢れていたが、私は冷静に言葉を返す。
「あの…兵士達の解放は……。」
私は恐る恐る口に出した。
「それはお前たちへのお詫びではない……ミライへのお詫びだ。」
私達もミライも一瞬ポカンとなった。
どこか回りくどい言い方だ。
「だ、だから兵士はミライのために解放するって事だ。」
彼は頭をかきながら素早く言った。
私達へのお詫びと、娘に対してのお詫びを兼ねて2つの要求を飲んでくれるということだ。
彼なりの罪の償いのつもりなのだろう。
「あ、ありがとうございます!」
アルスと私は深々と頭を下げた。ミライも父の言葉を理解し、安心したようだ。
その後はハーブティーを飲みながら、アトラについて聞かせてくれと言うので、これまでの思い出をじっくりと話した。
その空間はまるで、本当の家族のように温かさが確かにあった。
話を終えると、辺りはすっかり暗くなっていて、星が賑やかに輝いていた。
マエストーソとアルスは、兵士達に解放を伝えるといい、部屋を後にした。
ミライと2人きりになった部屋は、先ほどの盛り上がりとはうってかわり、少しさみしくなった。
でも、ミライはこの瞬間を待っていたかのように話し始める。
「ねぇユウさん…。ゆっちゃんって呼んでもいい?」
私はその言葉を聞いた時、ハーブティーで少しむせた。
「ゲホッ……。ゆ、ゆっちゃん?いや…ちょっと恥ずかしいな……。」
その時、彼女と目が合った。
その顔には、嘘や迷いのない純白な目があった。
そういうの弱いんだよ……。
「分かった。ゆっちゃんって呼んでもいいよ!」
彼女は今日一番の笑顔になった。
椅子に腰掛けている私の膝の上に飛びついてきた。
「うん!ゆっちゃん…ゆっちゃん…ゆっちゃん!」
膝の上にいる小さな彼女は飛び跳ねながら名前を繰り返し呼んだ。
その後満足したのか、膝の上に座り直した。
「私ね、夢があるの。大きくなったらね、結婚してね、その人と世界中を旅する冒険者になりたいの!」
その言葉にはやはり純粋な気持ちと、未来への大きな希望が込められていた。
私も心から応援しよう。
「そうかそうか。ミライは可愛いから、すぐにいい相手が見つかるよ。」
そう言うと、ミライはすっと顔を降ろした。彼女の耳が真っ赤になっていた。
「ゆっちゃん………私と結婚してくれない?」
その言葉に私は驚いて、椅子から転げ落ちそうになった。
私は慌てて、言葉を乱しながら話す。
「そっ、そんな事……。第一、ミライはまだ子供だろ?じっくり時間をかけて……。」
「ゆっちゃんがいいの!!」
彼女はふりかえって、私の腕の中に強く入ってきた。
「私ね、あの時助けてもらえて本当に嬉しかったの。こんなにかっこいい人がいるんだって思って……。」
ミライは話しながら涙を流す。
「うっ…ゆっちゃんは……私じゃダメなの?」
ぐさりと槍を刺されたようだった。
もちろんミライは可愛いし、一生かけて守ってやりたいと思う。
だけどこの子はまだ子供だ。
世界を知らずに私と結ばれることが、この子のためになるのだろうか…。
しかしふと思った。
私は「音」で彼女の危険を察知して、間接的だが初めて、音でヒトを救ったのだ。
私が、アトラが思い描いた理想を叶えた一人目がこの子だ。
2つの想いが葛藤する……。
私は少し考えた……。
そうだ!
私は元教師だ!!
こういう子供に教えを授けるのが私の役目だったはずだ。
私は彼女の涙を指で拭いながら優しく話す。
「…ミライ。15歳になったらおいで。その時までに世界を知って、強くなりなさい。そのときに、今と想いが変わらなかったら……結婚しよう。」
私は一瞬何言ってるんだって思った。
他から見たらただの告白に過ぎなかった。
私は真っ赤になった顔を手で仰ぐ。
「分かった。ゆっちゃんの隣にいれるくらい立派な大人になるね!」
ミライの顔には、嬉しさと決意がこもっていた。
そうして、ミライとの未来の約束を交わした後、アルスらの元へ行く。
「あ、ユウ。マエストーソ様が私達の冒険者登録をしてくださって、ライセンスをくれたよ。」
アルスはすでに、他の兵士たちに感謝されながら、マエストーソお墨付きの冒険者ライセンスを2人分持っていた。
アルスから、自分のライセンスを渡されじっくり見てみた。
するとそのライセンスには、「アトラの意思を継ぐ者ユウ・シャープ」と書かれていて、裏にはマエストーソの文様が刻まれていた。
冒険者ランクには第3級と書かれている。
「これでお前たちの登録は終わったぞ。まあ辺りも暗いし、1日泊まっていくとよい。」
奥から出てきたマエストーソは腕を組みながら、私達に笑顔で話した。
私達は、彼の経営する宿屋に泊めさせてもらうことになった。
その日の夕食は、先ほどの謁見の間で大々的に行われた。
解放の嬉しさに飲みまくる者、神に祈るように食事する者。
そして、私の方を見てにっこりと笑うミライ。
アルスと案外気が合ったマエストーソ。
皆それぞれが思いにふけるように食事を楽しんだ。
その日の夜。
少し酔った身体で、各部屋に入って行く。
部屋には一つの机とベッドがあり、小窓がついていた。
窓からは集落全体が見渡せた。
酔った身体を冷やすように、用意されていたコップの水を飲みつつ、机に座った。
「アトラのため……ミライのために頑張ろう。」
右手でライセンスを握りしめながら、小窓から見える星空を眺めた。
その星空に明日への希望を抱いて、ゆっくりと夢の中へ落ちてゆく……。
ーーマエストーソ過去編ーー
彼の妻…ミラル・フルーが遺した約束
(これから先、色々な困難があっても、人をむやみに恨んだり、扱ってはなりません。そして、娘を頼みます。)
ここ数年間精神を病んでいたマエストーソはすっかりこの約束を忘れていた。
娘からの真っ直ぐな気持ちで思い出したマエストーソは、ユウとアルスに協力する道を選んだ。
(ちなみに、今回の件は娘と意見の食い違いで喧嘩し、ミライが家出した直後、魔物に襲われた際に、ユウたちがミライと遭遇した。)
次回第14話 想いを込めて 7/18 21:00
※報告・・第1章を見直し、設定はそのままで文章を随時リメイクします。できればたまに第1章も観ていただけるとありがたいです。




