僕の手元にピストルがあったら
思ってたより更新に時間がかかりました。今回は整井が主人公なので意識的に理系用語的なものを散りばめてますが、多分義務教育の範囲内に収められたはずなのでそんなに気にならないくらいに読めると思います。
後悔している。非常に後悔している。何でこんな事しているんだろうかとバカバカしくなるし、そうせざるを得ない現状に苛立ちを覚える。認目さんは確かに言った、『無理をしなくていい、生き残るのが一番だ』と。僕もそう思う、故に今からやるべきなのは最も生き残りやすくなる行動なのだが、味方を見殺しにしていつか来る死を待つか、目の前の化け物を僕が討伐しなければならない。生き残る時間とやりやすさを確率pリターンを整数nを用いて表すとするなら、希望は大きいだけ壁も大きくなるという哲学にたどり着いてしまった。ため息と悪態をつきつつ、僕は前方から歩いていくる人物が僕に気づくのを待つ。やがて時が来て、物々しい口調で男が僕に話しかけた。
「愚生は君を知っている、今日は仲間を連れていないのか?」
布切れを纏っただけのような見窄らしい風貌の男、刃渡刃は蜃気楼のように揺らめく悍ましい殺気を迸らせながら歩んでくる。
「その愚生って一人称だったんですね、悪いけど僕は変な一人称の奴に負けるほどヤワじゃない。」
「つまりは戦う…と。ここで君を殺さなければ御手洗を殺す際に邪魔されるかもしれない…ここで君を葬らなければ他の生き残りにも銃が出回るかも知れない。なるほど…どうやら愚生は正義のようだ。」
刃渡が左右の足に触れ、腕を体の前でクロスさせる形で突進してくる。
「九十九刀の掌中。」
掌と太ももの空間を埋めるように二本の刀が何もないところから生えて出てきた。それを引き抜くように僕へ向けて斬りかかる。切っ先の描く放物線は途中で連続性を失った。
「傾くことのない天秤。」
「成る程、物体の位置を固定するのか。愚生は正しくなかったようだ。」
すかさず引き金を正中線の何処かに当たるように刃渡の中心に向けて引く。
「しかしこういう場合を警戒しないのもまた正しくない。」
刃渡は空中に固定された2本の刀を体操の選手があん馬で逆立ちをするようにX軸方向に対称移動した。上からの攻撃を警戒して銃口を斜め上に向けながらバックステップを踏むが、既にそこに刃渡の姿は無かった。
「道を切り開く一手。」
刃渡の両手が電磁誘導の磁石とコイルのように僕を挟む。能力を封じたつもりで油断していた僕に、本能的な恐怖と悪寒が横方向に倒れ込む判断へと至った。瞬間刃渡の手のすき間を2枚の刃が埋める。恐らくあのまま突っ立っていれば刃の出現に巻き込まれて心臓を抉られていた。
「これは…予想外と言わざるを得ないな。」
再度発砲するも掌から生えた2本の刃で銃弾を受け止められた。次弾を警戒し僕から距離を取り、お互いに拮抗状態になる。無論僕から攻めることはないため刃渡の行動は杞憂にすぎない。が、僕が刃渡にぶつけられたのは能力の相性がよく時間を稼げるからだ。そういう意味では有り難くもある。うまくいけば蔵見をこっち側に引き入れ3対1にも持ち込めるのだから。そんな意識が少しそれていた中、何かが飛来してくる感覚によって固定された視点が動かされた。向かった先は僕から少し離れた木に刺さったナイフだった。刃渡の能力『九十九刀の掌中』。過去二回見た限り、掌で物体に触れその物体と掌の空いたスペースに刃物を生成すると見るべきだ。太刀の様な物にナイフ、初めて会ったときは鉤爪の様な物を作り出していた。種類も数も無限に近いのかもしれないが、よく見るとナイフが深く刺さっていないらしく、僕の『傾くことのない天秤』は刃渡が作り出した物全てに作用するということだ。うれしい誤算に安堵するも僕が現状の深刻な問題に気づいたのは王手を宣告された時だった。
「ナイフは問題なく狙った場所に飛んだが、反射的に発動した能力によって距離の制限が生まれた。もし今君の心臓を短刀が貫いた時、3つの固定された刃物は何を描くと思う?」
迂闊だった。まさか自分より先に敵に能力の弱点を見破られるとは思っても見なかった。その空へと、僕の心の臓へと飛翔したナイフによって固定された刃物たちは正三角形の頂点となった。
「代行日記解除!!」
昨日認目さんからもらった『空想日記』のノートの切れ端、僕はそれに【後方にジャンプした】と書いていた。間一髪のところでナイフは僕に当たる事無く空間に固定された。これすら読んでいたのか、用心深い性格なのか刃渡は再び両の掌同士を合わせながら目前まで近づいている。ノートのストックもなく強制的に体を動かしていたためもう一度回避行動を行うことも難しい。故に全6発の銃弾の内3,4発目を続けざまに発砲し刃渡をもとの位置にまで退けた。
「君はどうやら愚生を積極的に殺すつもりはないらしいな。残弾を一発残し近づきにくくした中でリロードを行う。距離を離せば愚生を殺せると勘違いしている。牙を剥く自然。」
達磨落としの達磨の気分だった。腹部に丸々吹っ飛んだかと思うほど強い衝撃が体を貫く。見なくてもわかる、何かはわからないが内臓の一部を欠損した。意味としては全くも逆だがへその緒の行き先は地面だった。植物のように伸びた刃物が僕に向かっていたのだ。
「迂闊だったな、以前『早咲きの離弁花』を見たのも原因だろう。君は敵の言動を信じすぎる、いや自分の分析を過信したともいえるだろう。愚生の能力は触れた物体と掌の距離の累計分の長さ分の刃物を作り出す。味気ないが、やはり愚生は正義のようだったな。」
言葉にならない嗚咽と吐血を一緒くたにまき散らし、5発目を放つも掌から生えた刃物で軽々しく軌道を変更されてしまった。
「切腹はつらかろう、愚生はよく知っている。君が望むのなら介錯をしてやらんでもない。」
「そう──ですね…」
体の中の濃霧が広がりゆく中⋮、何故か僕は何も思い返さなかった。それは整井纏割という人物が本来存在しないからではない。僕にとってたとえ利害が一致しただけだとしても、流れに身を任せ続けただけだとしても、仲間と呼べる存在と過ごしたこの短期間はかけがえのないもののはずだった。だが今は不思議と漠然とだけ『満足感』があった。そしてそれを与えてくれたのは、間違いなく刃渡だったのだ。
「ありがとう刃渡、きっと僕は君みたいな人を探していたんです。今わかったんだ僕が欲しかったのは対等な関係の仲間じゃないって。」
最後の一発を絞り出す。六発目の弾丸は刃渡に弾かれるまでもなく、朦朧とした意識によって引かれた引き金では全くの別方向へ放たれた。
「そうか、ならば心満たされる内に死ぬがいい。」
持っていたピストルは一つだけだった。準備不足と思うだろうが仲間に一つずつ配っていたらいつの間にか手元には一丁の拳銃のみとなっていた。今思えば対等を望みそんな行動を取ったせいで今九死のみを与えられている。その時点で望んでいたのは対等な仲間では無かったと気づくべきだったのだろう。シリンダーをずらし六つの穴に空白を作った。それと同時に刃渡が振るう抜き身の刀身の気配を首に生える微細な産毛で実感する。
「っ──!?」
火薬の爆ぜる轟音、金属の落下する高い音、それらに続いて刃渡の微かに声になったうめき声が聞こえた。当然だろう利き腕の肘に一発、心臓付近にもう一発弾丸を撃ち込めれたのだから。
「『零式リボルバー』、理由もなしにこんな古い銃使いませんよ。」
「小癪な真似を…」
6つの銃弾を予めシリンダーにぴったり嵌るように固定する事でリロードの高速化を可能にする。ここぞって時のための切り札だった。更に切り札はもう一つある。当然だが撃った後の弾丸と新品の弾丸では、質量的にも価値的にも違う。つまりは僕の能力においてこれらは別の物体として判断される。
「あの苦し紛れの発砲は、他の空中に固定した弾丸に向けてのものだった訳だ。敵を信じるとは愚生の判断は正しくなかったようだな。」
「できれば降参してください。仲間の意向でなく僕は君に生きて欲しい。」
九死に一生を得て僕の中にあった生存本能や闘争心は、彼への敬意と感謝に変わっていた。勝ち誇ったことによる油断ともいえるだろう。
「今愚生の体内に固定された弾丸は急所をうまく避けられている。端から愚生を殺す気はないという訳か?」
刃渡の声音から確かに殺気が抜けていった。固定されていない左手をだらんと下げ、力強く握っていた拳をゆっくり開く。ハイライトの消えた瞳を首を斜め下に固定させながら僕の方へと向け、彼は乾いた笑みを浮かべた。
「愚生の居た世では、理由がなければ人を斬れなかった。斬り捨て御免と言うらしいな。逆に言えば理由さえあれば人を殺せるのだ。その名残だろう、この世界での『愚生』は人を殺すのに理由を求めるらしい。」
「この世界?まさか君も自分をどこかの世界にいる誰かの偽物だと?」
具門だと分かっていた。隔多里さんが能力を使えなくなっただけじゃない、白雪れむという実例があるのだから僕たち能力者が誰かの『瑕疵』であることは十中八九真実だろう。現に僕もさっき『自分が何者の、どんな瑕疵』だったのかを思い出していた。
「左様。愚生はとある剣客だった、他人を遠ざけるためになまくら刀を腰に据えた、惨めで甲斐性のないつまらぬ人間だった。よく覚えている愚生はあくる日辻斬りに襲われ死んだ。この手に真剣があれば、今の愚生はその怨念に過ぎない。」
「だから人を斬ることが君の存在理由だと。」
「そんな高尚なものでもない。まだ切り札は有る。君を殺す理由はそれで十分って事だ。」
火傷しそうな熱を肌が持ち、それらが涼風によって冷やされていく。服がじわじわと赤みを帯びていった事で、僕はようやく胸部を彼の指についた鉤爪の様な刃物によって穿たれていたことに気づいた。幸いなことに左手による抜き手のため心臓とは反対の位置だ。僕が引き金に指を掛けなおすよりも早く、目の前にいたはずの人影は少量の血液溜まりにすげ変わっていた。姿を隠したわけではない、寧ろ彼がやっていたことは堂々とした大胆な立ち回りだ。只周囲を駆け回る、それも僕の動体視力では見失ってからでは到底追いつけそうにない速度でだ。狙いはわかっていた『牙を剥く自然』による一撃必殺。クモの巣のように刃を張り巡らせ逃げ道をなくすつもりだ。言い換えれば荒野の早打ち勝負。僕に刃が突き刺さるのが早いか、僕が刃渡に鉛球を打ち込むのが早いか。今の極限まで集中した僕なら、能力発動のために一度停止する彼を撃つくらいはできるだろう。クレー射撃をするかのように僕は立ち止まり更に集中を高める。わけではない。僕もまたある場所へ全力疾走した。
「これすらも…計算の内…だったわけだ。」
脳内麻薬が切れ、今何が起きたのかを、僕が何をしたのかを再認識した。シリンダーが60°傾き、自身が生み出した刃と一発の弾丸によって汗のように血を流す刃渡の姿。僕の思惑はうまく機能したらしい。
「自滅覚悟で飛び込んだのだ…君の能力は自分を天秤にかけれないと聞いていたからな。また愚生は敵を信じてしまったようだ。」
恐らく僕が何をするのか刃渡も感づいていただろう。僕が一目散に目指した場所、それは初めに固定した二本の刀の真下だった。無我夢中で走るのだから万が一を考えて刃物に向かっては行かない。そう考えての行動だった。それだけなら今僕は無傷でここにいないだろう。
「君の敗因は、僕と対等に戦った事です。君が君じゃなければ相打ちで終わっていた。」
「そうか…」
一定間隔で刃渡から血が流れる。涼しいくらいの夕方の空気が今の僕たちには冷たすぎて、何も言えず息が整うまで待つ。そんな僕と違い、刃渡は残った酸素の使い道を模索しているようだった。
「拙者がなまくらを携えていた理由は、人を斬りたくなかったからだった。しかしあの時、あの辻斬りと遭遇した時真剣さえあれば死なずに済んだと思った。しかし同時に脅しの道具のように刀を持たなければ襲われることもなかったのではと思った。」
何かが吹っ切れたように死ぬ間際と思えないほどはっきりと言葉を声に起こす。死を悟った諦めか、それが精いっぱいの感謝の印なのか、刃渡は乾いた笑みをこぼす。
「凶器なんて簡単に持ってはいけないものだ。故に愚生は正義ではなかったということだ。」
返す言葉を探すうちに理不尽に吹く風によって命の灯火はかき消された。死んでも能力によってつくられたものは消えないらしく、彼は処刑人のように空中に磔にされていた。手が切れることすら念頭になく、僕は無意識に彼の遺体を開放し地面にゆっくりと寝かせる。彼を貫いていた刃物はなまくらになり替わっていて、さっきの懸念事項を思い出したとて杞憂に過ぎなかったようだ。
「次は人として会いましょう。」
きっとそうなる。僕はそう確信すら得ていた。初めて友達ができたことに柄にもなく浮かれてしまったのかもしれない。
何故投稿が遅れたのか、てりたまと炎姫が悪いと思います。どうも早く出すと言って出した試しの無い男です。これを書いているうちに17歳になりました。お祝いのメッセージが一件も来てました。
以下ちこここ
本当は整井をここで殺すつもりでした。作品の設定のせいでもあるんですが、正直私の書くキャラクターを好きになる人なんていないでしょうし、実際一部のキャラ以外私もどうでもいいです。天秤を水平に保つという能力も『引き分け』の結末ありきの能力だったんですが、元々独立した作品のつもりで構想を練っていたところ、『鈴音』のシリーズに組み込んだせいで変更を余儀なくされた結末によってなんやかんや生き残ることになりました。そんな行き当たりばったりで始めた本作ですが、末っ子が先に結婚した的な感じで3作品目にしてようやく完結を迎えられそうです。残すところ2,3話ですね。
次回予告
次回「道草に咲いた花」
なんとなく察しているでしょう、とある反抗期少女の話です。間違いなく短いエピソードになるので次こそは…一応縁起悪いので明言は避けます。???「これって…」私「あぁ惰性の勝ちだ。」




