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革命の設計者

「革命の設計者」


眼帯の男が静かに言った。


静寂を縫うように、夜風が通り過ぎる。


ポリアンナは少し考えるように首を傾げた。


「そう呼ばれることもあります」


まるで他人事だった。


日御子は二人を見比べる。


明らかに様子がおかしい。


この男はポリアンナを知っている。


それも単に名前を知っている程度ではない。


警戒している。


それがはっきり伝わってきた。



「増援のつもりか?」


男は落ち着きを取り戻していた。


ポリアンナは頷いた。


「そうなりますね」


穏やかな声だった。


まるで今が命のやり取りの最中とは思えない。


日御子は思わず眉をひそめる。


目の前には《王域》が通じない怪物がいる。


それなのに。


ポリアンナは少しも慌てていなかった。



ポリアンナは周囲を見渡した。


屋根の上。


正面の路地。


背後。


眼帯の男。


視線が一巡する。


それだけだった。


「ふむ」


小さく呟く。


「勝率は18パーセントってとこですか」


日御子が目を瞬く。


「勝率?」


「はい」


当然のように答える。


まるで天気の話でもするかのように。


「どうしてそんなものが分かりますの?」


「それは企業秘密です」


男が鼻で笑った。


「五対三なのに余裕だな」


「そうですね」


ポリアンナは否定しない。


それでも表情は変わらない。



その時だった。


屋根の上の男が動く。


矢が放たれた。


一直線。


ポリアンナへ。


「危ない!」


日御子が叫ぶ。


だが。


ポリアンナは動かない。


避けない。


焦らない。


代わりに轟音。


石畳が盛り上がった。


巨大な土壁が出現する。


矢は弾かれた。



屋根の上。


眠そうな女性が立っている。


「来たよ」


欠伸を噛み殺しながらこちらを見下ろしていた。


ポリアンナは小さく頷く。


「これで29パーセントです」


「増えましたの?」


思わず聞いてしまう。


ポリアンナは当然のように答えた。


「増やしました」



直後。


路地裏で爆発音が響いた。


悲鳴。


誰かが吹き飛ぶ。


燃えるような赤髪と紅い瞳の男が、瓦礫の上へ飛び乗った。


「おーおー」


面倒そうに頭を掻く。


「いきなり呼び出されたと思ったら修羅場かよ」


ポリアンナは困ったように笑う。


「すみません」


「ほんとにな」


そう言いながら男は笑っていた。


ポリアンナは少しだけ安心したように息を吐く。


「41パーセントになりました」



日御子は息を呑んだ。


誰も呼びに行っていない。


それなのに。


ポリアンナは仲間が来る前提で話していたのか。


まるで。


最初から未来が見えていたかのように。



「ポリアンナさん!」


《王域》で戦場を見ていた日御子が声を上げた。


「左奥の瓦礫ですの!」


「瓦礫?」


「物陰に一人移動しましたの!」


ポリアンナは一瞬だけ視線を向ける。


だが、何も見えない。


「放置すると挟撃されます」


「先に倒した方が有利になりますの」


日御子は焦ったように赤髪の男を見る。


「左奥の瓦礫に敵が潜んでますの!」


日御子が大声で叫ぶ。


だが、距離が遠い。


喧騒に掻き消され、声は届かない。


その瞬間。


ポリアンナの両眼が淡く光り。


理想国家ユートピア》が発動する。


『アイザックさん』


『左奥、瓦礫の陰に炎を一発お願いします』


次の瞬間。


炎弾が一直線に飛んだ。


轟音。


瓦礫が吹き飛ぶ。


その奥から帝国兵が姿を現し、そのまま倒れ込んだ。


「……マジでいたわ」


赤髪の男ーーアイザックが目を丸くする。


ポリアンナは小さく息を吐いた。


「勝率、これでほぼ互角です」


そして、ゆっくりと日御子を見る。


「驚きました」


「私より戦場が見えている方にお会いしたのは初めてです」


日御子はきょとんと首を傾げる。


「ただ見えていただけですの」 



眼帯の男が小さく息を吐く。


「お前ら、やはり厄介だな」


静かな声だった。


「帝国が懸賞金をかける理由がよく分かった」


ポリアンナは苦笑する。


「褒め言葉として受け取っておきます」


「別に褒めてない」


「それは残念ですね」


誰も動かない。


空気だけが張り詰めていく。


男は仲間達を見る。


増えた戦力を見る。


ポリアンナを見る。


「なるほど」


小さく呟いた。


「そうやって勝ってきたのか」


ポリアンナは答えない。


ただ静かに立っていた。



男は剣を下ろした。


「今日はここまでだ」


日御子が反射的に短剣を構える。


「逃がしませんの」


だが。


ポリアンナが片手を上げた。


「追わなくて結構です」


男が視線を向ける。


ポリアンナは静かに言った。


「彼の目的は失敗した」


「これ以上続けても得るものは少ないはずです」


数秒。


沈黙。


男は笑った。


愉快そうに。


「確かにな」



踵を返そうとした。


その瞬間だった。


「いやいや」


だるそうな声。


アイザックが肩を鳴らした。


「せっかく来たんだからさ」


右手を上げる。


「一発くらい喰らってけよ」


ポリアンナが額を押さえた。


「アイザックさん」


「やめてくださいね」


「ごめん無理」


即答だった。



刹那。


爆炎が走った。


夜を裂く紅い奔流。


石畳を焼き砕きながら眼帯の男へ襲い掛かる。


直撃。


そう思った。


だが。


男は動かない。


片目が鈍く光る。


そして。


爆炎が消えた。


何も残らない。


熱も。


光も。


衝撃も。


まるで最初から存在しなかったかのように。


沈黙。


ポリアンナは目を見開いた。


「これは……」


アイザックですら言葉を失う。


「……は?」


男が笑う。


「勘違いするなよ」


片目が細められる。


「俺一人でこれだ」


低く響く声だった。


だが。


その言葉はさらに重かった。


「上にはもっと厄介な連中がいる」


誰も何も言わない。


男は最後に日御子を見る。


「王域の軍師」


口元が僅かに歪んだ。


「今日は運が良かったな」


次の瞬間。


男の姿は闇へ消えていた。



静寂。


張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


日御子はようやく息を吐いた。


(なんとか……生き延びましたの)


その実感が遅れてやって来る。


ポリアンナが振り返る。


穏やかな笑み。


先ほどまで帝国の刺客と向き合っていた人間とは思えない。


「大丈夫ですか?」


日御子は少し警戒しながら頷いた。


「助かりましたの」


「それは良かった」


本当に安心したように笑う。



日御子は目を細めた。


気になることが多すぎた。


なぜ仲間が現れたのか。


なぜ眼帯の男がここまで警戒したのか。


なぜ勝率などと言い出したのか。


だが。


まず聞くべきことは一つだった。


「あなたは何者ですの?」


ポリアンナは少し考える。


そして。


困ったように笑った。


「ポリアンナです」


「……それは知っていますの」


「そうでしたね」


沈黙。


数秒後。


二人は同時に苦笑した。


「私は日御子ですの」


「はい」


「ただの旅人ですの」


ポリアンナは小さく頷く。


「そうですか」


その目は。


それを全く信じていなかった。



黒猫が日御子の肩へ飛び乗った。


金色の瞳がポリアンナを見つめる。


ポリアンナもまた。


黒猫を見ていた。


ほんの一瞬だけ。


そして。


黒猫が低く鳴いた。



【第七話 NKJへようこそ】へ続く


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