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忠告

「おらぁ!」


拳と拳が激しくぶつかる。


鈍い衝撃音が訓練場へ響き渡った。


パルパティーンが仮入隊してから、数週間が過ぎていた。


「まだまだぁ!」


アイザックが拳を振り抜く。


パルパティーンは身を捻ってかわし、そのまま蹴りを返す。


「昨日よりマシになったじゃねぇか」


「今日は勝つ!」


短い言葉を交わしながら、二人は笑っていた。


「おい、楽しそうだな」


そこへ鬼龍神が、大きな木刀を担いだまま飛び込んでくる。


「俺も混ぜろ!」


「勝手に入ってくるな!」


アイザックが叫ぶ。


「細けぇこと言うんじゃねぇ!」


鬼龍神は豪快に笑いながら木刀を振るった。


「はぁ……」


少し離れた場所で、のぶおがため息をつく。


「どうせまた私も巻き込まれるんでしょう」


蒼銀の障壁が展開される。


「だったら最初から参加します」


その瞬間。


鬼龍神の木刀が障壁へ叩きつけられた。


「おっ、硬ぇ!」


「当たり前です」


のぶおが冷静に答える。


そこへ。


「隙ありだ」


パルパティーンの蹴りが鬼龍神の脇腹へ炸裂した。


「ぐはっ!」


「今だ!」


アイザックの拳が正面から迫る。


「甘ぇ!」


パルパティーンは身を反らしてかわし、その勢いのままアイザックを投げ飛ばした。


「うがっ!」


転がったアイザックはすぐ立ち上がる。


「もう一回だ!」


「何度でも来い!」


再び四人が入り乱れる。


訓練場はあっという間に大乱戦となった。



「また始まりましたね」


咲夜姫が呆れたように呟く。


訓練場を見下ろす窓際では、ポリアンナが苦笑していた。


「毎日飽きませんね」


「まあ」


「本人達が楽しそうですから」


その時。


「いいねー!」


ひときわ元気な声が響く。


アリスだった。


「パルちゃんナイスー!」


「いいぞもっとやれー!」


両手を振って声援を送っている。


「……もう『パルちゃん』なんですね」


隣にいたソリムドが呟く。


「うん」


アリスは当然のように頷いた。


「呼びやすいし」


「つい最近まで敵だった人ですよ?」


「でも、今は仲間っしょ?」


「仮入隊です」


「似たようなもんじゃん」


ソリムドは肩を落とした。


アリスにとっては、本当に同じようなものらしかった。



「おりゃぁぁぁ!」


アイザックの拳が唸る。


「来い!」


パルパティーンが笑う。


轟音。


激突。


次の瞬間。


パルパティーンの身体が勢いよく吹き飛んだ。


「うおっ!」


そのまま本部の壁へ突っ込む。


ドゴォン!!


盛大な音を立てて壁が崩れた。


土煙が舞う。


しばらくして。


煙の中からパルパティーンが咳き込みながら出てくる。


「痛ぇな……」


「ま、しゃあねーな!」


アイザックが胸を張る。


「お前が吹っ飛ばしたんだろ」


「んなもん、余裕で避けろよ」


「無茶言うな」


「お前、ほんと適当だな」


パルパティーンが笑う。


「お前にだけは言われたくねーわ」


アイザックも笑い返す。


「……嘘でしょう」


崩れた壁の向こうに、ふぉろんたいごが立っていた。


穴の開いた壁を見上げ。


次いで、手元の帳簿へ目を落とす。


「もう、修繕費なんて残ってないのに……」


頭を抱え、その場へ膝から崩れ落ちた。


「どこから出せばいいんですか……」


アイザックとパルパティーンが、揃って目を逸らす。


その様子を見ていた咲夜姫が、小さくため息をついた。


「お二人、似ていますね」


「……ん?」


二人が同時に振り返る。


ポリアンナも苦笑する。


「ええ」


「細かいことを気にしないところも」


「考えるより先に身体が動くところも」


「喧嘩っ早いところも」


鬼龍神が大きく頷いた。


「そっくりだな!」


「「どこがだ!」」


二人の声がぴたりと重なる。


一瞬の沈黙。


周囲が顔を見合わせた。


のぶおが肩を竦める。


「ほら」


アリスは吹き出した。


「マジウケるー!」


「「似てねぇ!」」


最後まで同時だった。



「ご飯できたぞー!」


食堂の方から、ふるーるの元気な声が響いた。


「……」


全員の動きがぴたりと止まる。


鬼龍神が木刀を肩へ担ぐ。


「飯だな」


アイザックも拳を下ろす。


「続きは午後だ」


「逃げんなよ」


「誰が」


パルパティーンが笑う。


のぶおは障壁を解除し、ため息をついた。


「ようやく終わりましたか」


アリスが声を弾ませる。


「今日はカレーだよ!」


「マジか!」


鬼龍神が真っ先に駆け出した。


「俺の分なくすなよー!」


「早い者勝ちー!」


アリスも笑いながら追い掛ける。


アイザックも肩を回しながら歩き出した。


「俺は三杯食うからな!」


誰も、さっきまで殴り合っていたことなど気にもしていない。


まるで、それが当たり前の日常であるかのように。


パルパティーンはその後ろ姿を眺める。


「……ふん」


ふっと口元が緩んだ。


「気ぃ遣わなくていいってのは……」


小さく呟く。


「悪くねぇな」


そう言って、ゆっくりと仲間達の後を追った。



夕方。


「少しいいか」


訓練を終えたパルパティーンが、ポリアンナの執務室を訪れていた。


「もちろんです」


ポリアンナが椅子を勧める。


咲夜姫も資料整理の手を止め、二人へ視線を向けた。


パルパティーンは椅子へ腰掛けることなく口を開く。


「ヴァルダー・レオニス」


その名が告げられた途端。


部屋の空気が変わった。


「俺から言えることは一つだけ」


「あいつは別格だ」


ポリアンナは黙って耳を傾ける。


「《神殺し》だけじゃねぇ」


「剣も強ぇ」


「判断も速ぇ」


「経験も桁違いだ」


「他の連中と同じように考えるな」


短い言葉だった。


だが、その一つ一つに重みがある。


「真正面からやり合えば」


「死ぬ」


言い切った。


「俺も勝ったことがねぇ」


その一言で十分だった。


パルパティーンほどの男が、そこまで言う。


ポリアンナも咲夜姫も、その意味を理解していた。


「忠告は以上だ」


パルパティーンは踵を返す。


「参考になりました」


ポリアンナが頭を下げる。


「助かります」


「礼なら勝ってから言え」


それだけ言い残し、パルパティーンは部屋を後にした。


扉が閉まる。


静寂。


ポリアンナは小さく息を吐いた。


「ヴァルダーについては、情報を集め直す必要がありますね」


「はい」


咲夜姫が頷く。


ポリアンナは窓の外へ目を向けた。


「それとは別に、今から備えておきたいことがあります」


「何でしょう?」


「旧ヒノモト帝国領についてです」


「少し、思うところがありまして」


「今のうちに、現状を把握しておきたいと思っています」


咲夜姫は静かに頷いた。



その日の夜。


コンコン。


「はい、どうぞ」


扉が開く。


「呼んだ?」


ポリアンナは一枚の地図を机へ広げた。


「もりやんさん」


「あなたにお願いがあります」


「なに?」


ポリアンナは地図の一点へ指を置く。


「旧ヒノモト帝国領へ潜入してください」


その名を聞き、もりやんは僅かに目を細めた。


「いつ?」


「明日にでも」


ポリアンナは迷うことなく答えた。


「分かった」


もりやんは机に用意されていた資料を手に取ると、そのまま扉へ向かった。


「もりやんさん」


呼び止められ、足を止める。


「お気をつけて」


もりやんは振り返らず、片手だけを上げた。


「うん」


扉が閉まる。


ポリアンナは再び地図へ目を落とした。


その瞳は、地図のさらに先にある何かを見据えているようだった。



【第四十八話 新しい景色】へ続く

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