告白
NKJ本部。
ポリアンナが振り返る。
「ふぉろんたいごさん。お願いがあります」
ふぉろんたいごが顔を上げた。
「はい」
「日御子さんを探してください」
その言葉に、ふぉろんたいごは表情を引き締めた。
「分かりました」
懐から愛用の振り子を取り出す。
《埋蔵金探索》。
指定した対象の現在位置を特定する、ふぉろんたいごの異能だ。普段は金目の物を探すために使っているが、対象を明確にイメージさえできれば、人であっても高確率で居場所を突き止められる。
「地図をください」
もりやんが机へ地図を広げる。
ふぉろんたいごは、その上へ振り子をかざした。
ゆらり。
振り子は地図の上でしばらく揺れ続け、やがて一つの場所を指し示した。
「見つけました」
全員が身を乗り出す。
「どこですか?」
ふぉろんたいごが指差したのは、街外れの森にある屋敷だった。
ポリアンナの表情が険しくなる。
「間違いありませんか」
「日御子さんはそこです」
ふぉろんたいごは迷わず答えた。
ポリアンナは地図から顔を上げた。
のぶおが剣を手に取り、鬼龍神が大剣を掴む。アイザックは椅子を蹴るように立ち上がり、もりやんも無言で頷いた。
「必ず助けます」
ポリアンナはそう告げ、屋敷へ向けて駆け出した。
仲間たちが次々と後に続くなか、最後に飛び出したソリムドの肩へ、どこからか現れた黒猫が飛び乗った。
◇
森の中の屋敷。
日御子は椅子へ座らされ、その周囲を帝国兵に囲まれていた。
頭痛は時間とともに酷くなっている。それでも、何が起きているのか理解できない。
「……どうしてですの?」
感情の抜け落ちた声が漏れる。
「何故こんな事をしたんですの」
ユリウスは答えなかった。
しばらくの沈黙の後、静かに頭を下げる。
「申し訳ありません。ですが、必要でした」
「意味が分かりませんの」
「そうでしょうね」
ユリウスは小さく頷いた。
「歪んでしまったのですから」
日御子の眉が僅かに動く。
「貴女は忘れてしまった」
「何がですの」
「全てです」
あまりにも曖昧な答えだった。
「だから、何を言っているか分かりませんの。私は日御子ですの」
「そうですね」
ユリウスは、どこか懐かしむような、それでいて寂しげな微笑みを浮かべた。
「ですが、それだけではありません」
日御子の頭に、さらに鋭い痛みが走る。
最近ますます酷くなっていた頭痛だが、今回は何かが違った。頭の奥に、何かが引っ掛かっている。
思い出せそうで、思い出せない。
ユリウスが一歩前へ出た。
「そろそろ本題に入りましょう」
日御子の身体が硬直する。
どこかで聞いたことのある声だった。ユールと出会う前、どこかで。それなのに、どうしても思い出せない。
ユリウスは静かに微笑む。
「お忘れですか?」
その瞬間、頭の奥を抉るような激痛が走った。
「っ……!」
再び鮮血が滴り落ちる。
日御子は頭を押さえた。
城。
王座。
誰かの背中。
優しい声。
断片的な光景だけが次々と浮かび、形になる前に消えていく。
「あなたは……」
日御子が顔を上げる。
その時だった。
屋敷の外から、怒号が上がった。
剣戟の音。炎の爆ぜる音。窓の外を、帝国兵たちが慌ただしく駆けていく。
部屋の兵士たちがざわめき、扉へ向けて剣を構えた。
ドォン!!
凄まじい轟音とともに屋敷全体が揺れ、扉が吹き飛んだ。
砂煙の向こうから声が響いた。
「日御子さん!」
ポリアンナだった。
その後ろには、武器を構えた仲間たちが並んでいた。
頭を割られるような激痛の中、それでも日御子はそちらへ視線を向けた。
「みなさん……」
黒猫はソリムドの肩から飛び降りると、兵士たちの足元をすり抜け、日御子のもとへ駆け寄った。
ユリウスだけが、ゆっくりと扉へ目を向けた。
「思ったより早かったですね」
穏やかな声だった。まるで、こうなることまで予想していたかのように。
ポリアンナが一歩前へ出る。
「一体あなたは……」
拳を握り締めた。
「いつから計画していたんですか!」
◇
数日前。
統天帝国エテルナ、旧ヒノモト領。
日御子が国を離れて間もなく、ヒノモトは帝国の支配下へ落ちていた。
革命直後の混乱につけ込まれた――少なくとも、外から見ればそういうことになっていた。
ポリアンナと咲夜姫は、人目を避けるように資料館の一室へ籠もり、革命当時の記録や行政文書、新聞、証言記録へ片っ端から目を通していた。
始まりは、ただの違和感だった。
革命について調べれば調べるほど、暴君だったはずの王を裏付ける記録が出てこない。残っているのは、民を守り、荒れた国を立て直そうとしていた王の記録ばかりだった。
「おかしい……」
少なくとも、日御子は父王を暴君だったと信じている。
だが、その暴政を示す証拠はどこにも存在しない。
「では、なぜ革命を……」
ポリアンナが呟いた時、一冊の資料が目に入った。
統天帝国、ヒノモト統治機構関係者名簿。
何気なくページをめくっていた手が止まる。
「……え?」
そこに描かれていた似顔絵には、見覚えがあった。
ユールだった。
正確には、ユールに酷似した男。見間違いとは思えないほど似ている。
その下に記された名前を確認する。
ユリウス・アルカード。
統天帝国諜報局長第一側近。
ポリアンナの背筋を、冷たいものが走った。
「そんな馬鹿な……」
もしユールが偽名なら、これまで語っていた経歴も全て偽物ということになる。
ポリアンナと咲夜姫は資料館を出ると、以前、誘拐事件の依頼を受けたミズホの役所へ向かった。
「案内人だったユールという人物について調べたいのですが」
当時の担当官は首を傾げた。
「ユール?」
帳簿を確認していくが、何度探しても登録記録は見つからなかった。
「おかしいですね……」
担当官が困惑したように眉をひそめる。
「確かに居た気がするんですが、なぜか記憶がぼやけています」
ポリアンナは黙り込んだ。
登録記録の存在しない案内人。
その人物についてだけ、曖昧になっている周囲の記憶。
そして、ユールと瓜二つの帝国諜報局の幹部――ユリウス。
「戻りましょう」
ポリアンナが立ち上がる。
咲夜姫もすぐに頷き、二人は急いでNKJ本部へ戻った。
◇
現在。
ポリアンナは目の前の男を睨みつけていた。
「あなたは一体、何者なんですか」
帝国兵たちも身動き一つせず、静寂だけがその場を支配する。
日御子も痛みに耐えながら、ユリウスを見つめていた。
「そこまで辿り着きましたか」
ユリウスは静かに微笑んだ。
そして、ゆっくりと日御子へ視線を向ける。
「姫様」
日御子の表情が固まった。
「お久しぶりです」
【第三十五話 天照の鏡】へ続く




