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スカウト

被害者達の移送が始まった。


帝国軍。


NKJ。


奇妙な共同作業だった。



「本当に良いんですかね」


若い兵士が小声で呟いた。


「何がだ」


隣の兵士が聞き返す。


「ポリアンナです」


声を潜める。


「あの【革命の設計者】ですよ?」


「軍務局の危険人物リストにも載ってる」


「懸賞金もかかってます」


「本来なら拘束対象でしょう」


年配兵は肩を竦めた。


「そうだな」


「じゃあ何で」


「隊長命令だからだ」


逡巡なく答えた。


若い兵士は納得できない顔をする。


「意味が分かりません」


「俺達なら捕まえられます」


すると。


別の兵士が苦笑する。


「本当か?」


沈黙。


確かにそうだった。


目の前にいるのは【革命の設計者】ポリアンナ。


帝国でも危険視される要注意人物だ。


「それでも隊長は同行を認めた」


年配兵が言う。


「だから認めたんだろ」



少し離れた場所。


ポリアンナは、その会話が聞こえない振りをしていた。


ところが。


全て聞こえていた。


「しかし隊長も大変だよな」


別の兵士が呟く。


「局長のご子息だからか?」


若い兵士が言う。


年配兵が顔をしかめた。


「その話はするな」


「え?」


「本人が嫌がる」


若い兵士が目を丸くする。


「でも有名な話じゃないですか」


「それでもだ」


年配兵は小さく息を吐いた。


「みんな知ってるが」


「実力で周りに認めさせたいから本人は名乗らない」


「そういう人だ」


ポリアンナは少しだけレオンを見る。


先頭を歩いている。


背筋は真っ直ぐだった。


しかし。


どこか不器用な人にも見えた。



ポリアンナは視線を落とす。


手には施設から持ち出した資料。


共鳴率。


その文字が頭から離れない。


4%。


11%。


8%。


数字に規則性は見当たらない。


(共鳴率、ですか……)


聞いた事のない単語だった。


異能に関する文献は一通り読んでいる。


だが。


そんな言葉は見たことがない。


そして。


存在しない施設。


人体実験。


逃亡した研究員。


全てが一本の線で繋がりそうで。


まだ繋がらない。


ポリアンナは資料を閉じた。


「情報が足りませんね」


誰にも聞こえない声だった。



一方その頃。


日御子は山道を歩いていた。


一人で。


のはずだった。


「出てきなさいですの」


沈黙。


茂みが揺れる。


「なぜ分かったんですか」


ユールが出てきた。


日御子は呆れた顔をする。


「丸見えですの」


「そんな馬鹿な」


「そんな馬鹿ですの」


断言した。


ユールはがっくり肩を落とした。



「それで」


日御子が言う。


「なぜ付いてくるんですの?」


「心配なので」


「逃げた人が言います?」


「申し訳ありません」


素直だった。


本当に申し訳なさそうだった。



二人は山道を進む。


木漏れ日が差し込む。


風は穏やかだった。


緊張感の無い時間だった。


「そういえば」


ユールが口を開く。


「日御子さんって方向音痴ですよね」


ユールは自分のことを棚に上げて言った。


「違いますの」


即答だった。


「私と同じ匂いがするんです」


「たしか道に迷ってましたよね」


「迷ってませんの」


「半日くらい」


「探索ですの」


「同じです」


しばらくそんな会話が続く。


他愛のない話だった。


だが。


不思議と気は楽だった。


(やはり話しやすいですの)


理由は分からない。


気を遣わなくて良いからかもしれない。



その時だった。


ガサリ。


茂みが揺れた。


日御子の表情が変わる。


(しまった!)


(話に夢中で完全に油断していましたの)


「ユールさん止まって!」


ユールは足を止めた。


日御子は咄嗟に《王域》を発動する。


世界が広がる。


森。


木々。


二人を取り囲む反応。


十人。


「野盗ですの!」


次の瞬間。


頭の奥を鋭い痛みが貫いた。


「っ……!」


視界が揺れる。


ほんの一瞬。


その隙だった。


「金を置いていけ!」


茂みから男が飛び出す。


振り下ろされる剣。


「危ない!」


ユールが日御子を突き飛ばした。


鈍い音。


血が舞う。


「ユールさん!」


肩だった。


深くはない。


だが、確実に斬られている。


ユールは顔をしかめながらも、日御子を庇うように前へ立った。


「大丈夫です」


「大丈夫ではありません!」


茂みから男達が飛び出してくる。


一人。


二人。


三人。


次々に。


あっという間に包囲された。


剣。


斧。


弓。


完全武装。


「格好つけた結果がそれか?」


「運が悪かったなぁ」


野盗達が笑う。


「綺麗な嬢ちゃんもいるじゃねぇか」


日御子の目が細くなる。


「気分が悪いですの」


「私もです」


ユールは本気で気分が悪そうだった。


《王域》は解除していない。


野盗の位置と距離は把握している。


他に伏兵はいない。


しかし


(数が多すぎますの)


逃走経路が見当たらなかった。



次の瞬間。


《王域》が、新たな反応を捉えた。


一つ。


速い。


(これは……何ですの?)


日御子の眉が動く。


あまりにも速い。


人間の移動速度ではない。


《王域》で辛うじて追えている。


だが視界では捉えられない。


森の奥。


木々の間を。


一直線に駆け抜けてくる。


いや。


飛んでいる。


そんな錯覚すら覚える速度だった。


(あり得ませんの)


野盗達は気付いていない。


ユールも気付いていない。


日御子だけが見ていた。


そして。


次の瞬間。


野盗の一人が吹き飛んだ。


「がっ!?」


何が起きたのか分からない。


男は数メートル先の木へ叩き付けられる。


周囲が凍り付く。


「な、何だ!?」


誰かが叫んだ。


だが。


答える者はいない。


二人目が吹き飛ぶ。


三人目。


四人目。


見えない。


誰も把握できていない。


野盗だけが次々と地面へ沈んでいく。


「ひっ……!」


恐怖の声が漏れる。


圧倒的だった。


戦いですらない。


蹂躙。


その一言だった。



数十秒後。


全てが終わった。


野盗達は地面に転がっている。


十人全員。


戦闘不能。


静寂だけが残った。


やがて。


森の奥から一人の男が現れる。


長身。


筋肉質な体。


背中には巨大な剣。


そして鋭い目付き。


まるで虎が人の姿になったような男だった。



「終わったぞ」


低い声。


それだけだった。


日御子は思わず呟く。


「速すぎますの……」


「そうか?」


男は肩を竦める。


「ま、そういう異能だからな」


それ以上説明する気は無いようだった。


日御子は男を見る。


(一人で十人を無力化しましたの)


(しかも瞬く間に)


軍師の血が騒ぐ。


日御子は即座に評価を改める。


(この男は戦力になる)


(それも極めて大きな戦力ですの)



男は興味無さそうに野盗達を見下ろす。


「生きてるな」


「縛っとけば衛兵が何とかするだろ」


それだけ言うと背を向けた。


「じゃあな」


歩き出そうとする。


日御子は即座に口を開いた。


「待ちなさいですの」


男が振り返る。


日御子は真顔だった。


「まずはお礼を言いますの」


日御子が頭を下げる。


次の瞬間。


「で、働きませんの?」


男は固まった。


「……ん?」


思わず間の抜けた声が出た。


ユールは額を押さえる。


「タイミングが急!」


だが。


日御子は気にしない。


真っ直ぐ男を見る。


「強いですの」


「だから必要ですの」


「嫌だ」


即答だった。


「働きたくない」


日御子は目を見開いた。


断られた。


しかも。


理由が酷かった。


男は再び歩き出す。


「じゃあな」


「待ちなさいですの」


「嫌だ」


「働きませんの?」


「働かん」


「働きませんの?」


「帰る」


会話が成立していなかった。


ユールは遠い目をした。


そして思った。


面倒な二人が出会ってしまった。

と。



【第十六話 誘惑】へ続く

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