46話 ヒカリハカゲル
「よし、みなさんそこに跪いてください!」
「は?」
「え?」
「ええ?」
三人が同時に目を丸くする。
「助走つけて一気に駆け上がりますので!
お願いしまーす!」
「ちょっとマジで!? ちゃんと支えなさいよ!」
「お、おれが一番下ですか?」
ヌメリー先輩がオロオロしてる。
「当たり前でしょ! この中だと一番でかいでしょ!?」
「なんでー俺二番目なのー?」
シュウさんが文句を言う。
「なんで女性の私が野郎ども支えんのよ。ふざけんなよ!」
……揉めてるなぁ。
「いいですか!
みなさん!
いきますよーー!!」
私は勢いよく助走をつけ――
「ぐえっ」
「うっ」
「いたっ」
……という皆様の断末魔を背中で聞きながら、一気に駆け上がる。
そして、ハタキの柄の先をガラスに思い切り叩き込む。
ガシャーーン!!
割れた隙間に身体を滑り込ませ――
「よし、入れた!!
って!? なんじゃこりゃあーー!!」
中は、ワタぼこりの穢れがヒカルさんを包み込んでいた。
スポッと中に飛び込む。
「ココロさん!?」
ヒカルさんが、少し驚いた顔でこちらを見る。
「大丈夫ですか!?
寂しかったですか!?」
「いや……大丈夫だよ。」
「とりあえずこの穢れの中から出ましょう!!」
「そうだね。」
私はハタキを振り回し、
ホコリの穢れをバシバシ叩き落としていく。
やっと視界が晴れたところで――
「すぅーーーー!!」
わたあめがホコリを吸い込み始める。
「ありがとう!! わたあめ!」
「お安い御用ですよ〜。」
「さて、これで綺麗になりましたかね?」
「いや、まだだ。」
「え?」
ヒカルさんが指さす。
「あの写真、曇ってるでしょ?
あれに穢れが渦巻いてる。」
「おう……どうしたらいいですかね?」
「ココロさん、その腰袋、何入ってる?」
「あ、スイマクリさんが持っていけって。」
腰袋を渡すと――
「あ、いいのあるね。」
ヒカルさんが取り出したのは、小さめのてろっとした布。
「なんです? その小さい布。」
「無痕布 / No-Trace Polish Clothだよ。
繊維が非常に細かくて、表面がなめらかだから、拭いたあとに“拭き跡”や“筋”が残らないのが特徴なんだ。
写真立てのガラスや鏡、デリケートな面に向いているやつだね。」
「へえー。」
「じゃあこれであの写真立て拭けばいいんですかね?」
「うん。
無痕布にアルコールを少量だけ含ませて、
ガラス面を円を描くようにゆっくり拭く。
布の乾いた部分で仕上げ磨きをするよ。」
「なるほど!」
「写真そのものに薬剤が触れると色落ちするから、
ガラスを外したときは写真面に触れないように注意してね。」
「わかりました!!」
「じゃあ、ココロさんもこれ一枚持ってね。」
「はい!」
てろっとした布を受け取る。
ヒカルさんが写真立てを見つめ、静かに呟いた。
「迷いし穢れよ、姿を現せ。」
その瞬間――
禍々しい穢れが写真を曇らせ、
周囲に“写真立て”が何枚も、何枚も現れ始めた。
「え、これ全部拭くんですかね!?」
「とりあえず拭いてみよう。」
言われるまま、近くの写真立てを拭く。
曇りがひょいひょいと逃げるように移動するのを追いかけて、無痕布で丁寧に磨く。
おっ、綺麗になった。
だけど――
「ヒカルさんの家族写真じゃないですね。
変な顔してる写真です。」
そこには、落書きみたいに歪んだ顔の“偽物”の写真。
「こっちもだ。」
ヒカルさんも別の写真を見て眉をひそめる。
「もしかして、この中に……正解を探して拭くってことですかね?」
「そうなるね。」
だけど――
「多くないですか!? 写真立て!!」
「多いね……。」
ヒカルさんも困ったように笑う。
そのとき。
どすんどすん!
どかーーん!!
扉が破れそうな勢いで揺れた。
「みなさん! 入れたんですね!!」
「ええ。なんとかね。」
レイさんが髪を直しながら立ち上がる。
「あー。ヤニ吸いたい。はやく。」
シュウさんは完全にやさぐれヤンキー化。
「ヒカルくん、無事ですか!?」
「うん。みんな来てくれたんだね。ありがとう。」
「それより……なによこれ。
写真立て?」
「ぐるぐる回ってて、目が回りそうです……」
ヌメリー先輩が目で追ってふらふら。
「あー、やってらんねーよ。
パジャマだからガムもねーよ。」
イチゴ柄の可愛いパジャマなのに、
本人の態度は全然可愛くない。
なにか、ヒントとかないのかな……?
思い出せ……
私が見たとき……どんな写真だったっけ?
――あ、そうだ!!
脳裏に、あの“本物の写真”の違和感がよみがえる。




