45話 ヒカリハカゲル
扉を何枚も越えた先――
「この中です。」
わたあめがふわりと止まった。
「ここ……開かずの間ね。」
レイさんが赤い扉を見つめる。
闇の中でぼんやり浮かんで不気味だ。
「本当にこの中にいるの? わたあめちゃん。」
シュウさんが小首をかしげる。
「はい、確かに。
ヒカルさんと……あと穢れもいますね。」
くんくん、と鼻もないのに匂いを嗅ぐ仕草。
「でも、扉開かないです。」
ガチャガチャしても、びくともしない。
「そりゃあ簡単に開いたら“開かずの間”って言われてないでしょ?」
「でもココロちゃん、この扉一回開けたんでしょ?」
シュウさんが怪訝そうに私を見る。
「そうなんですよね。
その時はすんなり……でも今は全然。
なんでですか?」
「それ言われてもわかるわけないわよ。」
「なんだろね〜。」
レイさんとシュウさんが首を傾げる。
「も、も、もしかして……招かれたんですかね?」
ヌメリー先輩がもじもじ。
「招かれる? 穢れに??
なんで?」
「わ、わかりませんけど……。」
三人で悩む。
とりあえず――。
「ヒカルさーーーーん!! いますかーーーー!!」
どんどんどんどん!!
「うるさ。」
「急に大きい声やめてー。」
「びびびっくりしました……。」
「あ、すみません!!
ヒ、カ、ルさーーーーん!!」
すると――
「いるよ……。
閉じ込められたみたいだけど。
こっちは大丈夫だから。」
扉の向こうから、ヒカルさんの声。
いつも通りの落ち着いた声……
でも、どこか元気がない。
「入れそうなところもないから、みんなは戻っていいよ。」
「確かに……入るところないわよね。」
「ここにいても仕方ないか〜。
ヒカルくんならどうにかするか。」
「そ、そ、そ、そうですね……。」
レイさん、シュウさん、ヌメリー先輩が口を開く。
「ココロ、戻るわよ。
ここにいても何もできないわ。」
「そうだね〜。俺もヤニ切れしそう。」
「も、もどりますか……。」
レイさんたちが歩き出そうとした――その瞬間。
「いやです。」
私の声が、廊下に響いた。
「ココロ?」
レイさんが振り返る。
「私はヒカルさんを置いていきたくないです。」
「そう言っても……入れないし、あのヒカルくんだよ?
俺たち、することないよ〜。」
シュウさんがしゃがみ込む。
「それでも!」
胸の奥から、言葉が勝手に飛び出した。
「大人だって、一人で心細いときがあります!
迎えに来てほしいときだって、誰かにそばにいてほしいときもあります!
完璧超人でドSな腹黒のヒカルさんだからって……
大丈夫だとは限らないです!!」
思い切り叫んだ。
「ココロ……
それはヒカルに失礼だわ。」
レイさんが眉をひそめる。
「ドS……腹黒って……ぐふふふ……」
シュウさんが腹を抱えて笑い出す。
「こ、こ、こ、ココロさん……
そ、それは……いいすぎです……」
ヌメリー先輩まで慌てる。
「え!?
励ましてるんですけどね!?」
私が言うと――
「まあ、ココロの気持ちはわかったわよ。
確かに大人だって寂しいときあるわよね。
私だって…筋肉質のイケメン彼が運命の人だと思ったのに、既婚者かいって虚しくなったわよーー!なんでこうろくな男しかいないんだよ!もう!!」
「あ、聞いてないです。」
「そうだよね〜。
仕事終わりにタバコ吸ってたらみんな帰っちゃったときは、
迎えに来てほしいって思ったよね。
一人で帰るの寂しかったわ〜。駅までかなりあったし。」
「あ、聞いてないです。」
「お、おれも……そばにいてほしいって思って……
クッションにヒカルくんの顔を映したモニーターつけてます……」
「聞いてないし、聞きたくなかったです!!
あと、なんか進化してません!?前写真でしたよね!?」
ヌメリー先輩が引きこもっていた時に貼ってあったのは写真だった気がするけど!
それより!
「みなさん、まじめに! 考えて!!」
私が叫ぶと、ようやく全員が真面目な顔に戻る。
「うーん……だけどどこから……」
シュウさんが悩む。
「あ、あそこ。ココロなら入れるんじゃない!?」
指さした先は――
扉の上にある、小さな窓。
「いけますかね!?」
「いけるんじゃない?」
「ほら、迎えに行くんでしょ〜?
腹黒ドS……ぐふ……のヒカルさん。」
シュウさんがまた笑い出す。
おい、笑うな。
「が、が、がんばって……」
ヌメリー先輩も応援してくれる。




