44話 ヒカリハカゲル
「ここ、ヒカルのおじさん家の別荘だから。」
「え、えーーー!!!
なんで教えてくれないんですか!?」
思わず叫ぶと、レイさんが肩をすくめる。
「いや〜、ヒカルって伯爵家の次男でしょ?
本来なら掃除屋にしてる場合じゃないっていうか……」
「ヒカルくん、かなり優秀だからね〜。」
シュウさんも頷く。
「え、でも今……カガヤ伯爵家は誰が??」
私は小首をかしげる。
「お父さんはご存命よ。
それに長男がいたはずよね?」
「そうそう。」
「あと三男もいたわね。」
レイさんとシュウさんが淡々と話す。
……え、ヒカルさんってそんな家系だったの?
「まって、話がそれましたけど……
なんでその部屋の写真が原因なんですか??」
私が聞くと、シュウさんが少し表情を曇らせた。
「ヒカルくんのお母さんって、もう随分前に亡くなってるんだよ。別荘の持ち主の叔父さんの妹さんでもあるんだ。」
「へえー……。」
思わず相槌を打つ。
スイマクリさんが腕を組んで説明を続ける。
「その“開かずの間”にお母様の遺品があって、
掃除も一度もしていないのであれば……
そこの部屋が穢れを生み出しているってことになる。」
「じゃあ、その開かずの間を掃除できなければ……
この変な現象が続くんですか!?」
「それは……なんとも言えないが。」
スイマクリさんが唸る。
「でも……そしたら扉はどう探せばいいんでしょう?
動いているんですよね?」
「うーん……。」
みんなで頭を抱えていると――
ふわりん。
「みなさん、どうしたんですか〜?
まだ夜中ですよ〜。」
わたあめがふわっとあくびをしながら浮かんできた。
「お、お、おい!ち、ちかづくな!
くるな! はなれろ!」
スイマクリさんが慌ててガスマスクをつけ直す。
「実は……開かずの間っていう部屋に行きたいの。
そこに穢れがいるはずなんだけど。」
「なるほど〜。
たぶん場所わかると思いますよ〜。」
わたあめがふわふわと揺れる。
「え!? ほんとに!?」
「はい!」
「すごい! 同族だからかな!?」
「えへへ。」
わたあめが誇らしげに笑った。
「でも行ってどうするの? その部屋。」
レイさんが腕を組む。
「うーん、確かに。
ヒカルくんの判断待つ方がいい気もするけどな〜。」
シュウさんも苦笑い。
「た、た、た、たしかに……。」
ヌメリー先輩もオロオロ。
「正直……よくわからん状況で動くのはお勧めしないな。」
スイマクリさんまで慎重派。
みんなが止める空気の中――
「で、でも! ヒカルさん一人だったらどうするんですか!?
寂しくないですか!?
私、ヒカルさんと合流してきます!!」
勢いで立ち上がった。
「あ、ちょっと、ココロ!!」
「ココロちゃん!?」
制止を振り切り、扉をガチャッと開けて飛び出す。
ぐにゃり。
……おう、また変わった。
すると――
「一人で行くんじゃないわよ!」
「まったくもう、みんなで行こうよ。」
レイさんとシュウさんが追いついてくる。
「お、お、おれもいきます……!」
ヌメリー先輩も震えながらついてきた。
「俺はここにいる。とりあえずこれ持っていけ。」
スイマクリさんがマジックハンドで何かを渡してくる。
ハタキと……腰袋?
「これは?」
「色々入ってる。」
「説明雑っ!!」
シュウさんとヌメリー先輩は小型掃除機。
レイさんは消臭スプレーの銃。
「俺は……」
「ユウキはスイマクリさんのそばにいて。」
「わ、わかった。」
私たちは歩き出す。
「と、とりあえずヒカルさんを探すんですかね?
それとも穢れのもとに行きます?」
「元気よく飛び出して……全くの無計画なのね。」
レイさんが呆れた目。
「だって〜。」
「ヒカルくんとの合流が先だけど……
でもどこにいるかな?
わたあめちゃん、ヒカルくんの匂いとか辿れる?」
いや、わたあめ犬じゃないんだけど。
「たぶんいけるかもです〜。」
いや、わたあめ鼻ないやん。
そう思っていると――
「何かヒカルさんが愛用しているものってありますか?」
ふわふわ揺れるわたあめ。
「そんなもの……あります?」
「俺はないかな〜。」
「私もないわよ。」
シュウさんとレイさんが首を振る中――
「お、お、おれ、もってます……。
こ、こ、これ……。」
ヌメリー先輩が恐る恐る差し出した。
「それは?」
「ヒカルさんの汗ふいたハンカチです。」
「きもい!!!」
「だめだよ〜勝手に盗んじゃ。」
「ヌ、ヌメリー先輩。それはだめです。」
レイさん、シュウさん、私が揃って引く。
「ち、ちがいます!!
置き忘れていたので、か、か、返そうと……
ポッケに入れてました……。」
「かいだ?」
「ココロ、なんてこと聞くのよ。」
レイさんが呆れ顔。
「いや、正直ヒカルさんから“くっさい汗の匂い”って想像つかなくて……。」
爽やかキラキラヒカルさんだからな。
「確かに……。」
「ちょっと嗅いでみる〜?」
シュウさんが笑う。
「あ、あ、あの……良い匂いでした。」
「嗅いだんかい!!」
思わずツッコむ。
クンクン。
わたあめが嗅ぐ。
ちなみに私も嗅いでみた。
「なんか、ほんのりシトラスの香り。」
「わかる〜。これ体臭? 洗剤?」
シュウさんが首を傾げる。
「あんたらね……揃いも揃って匂いを嗅ぐな。」
「いや、レイさん嗅いでみてくださいよ。臭くないです。」
「……ほんとだ。なんかオレンジ系の匂いもする。
今度使ってる洗剤聞いてみようかしら。」
レイさんが真面目に言う。
そして――
「ヒカルさんこっちにいます〜!
穢れのほうです〜!」
わたあめがふわっと先を指す。
私たちはその後を追って歩き出した。




