43話 ヒカリハカゲル
「つ、つかれたー。」
「ほんとよね。」
レイさんと同じ部屋で、ふたりして布団に倒れ込む。
別荘の一室を貸してもらっていて、食事もついている。
至れり尽くせり――のはずなのに。
だけど……穢れが多い。多すぎる。なぜ?
「どうして……あんなに穢れ多いんでしょうか?」
「さあね?
お貴族様もストレス溜まってるんでしょ?
掃除なんてものしないでしょうし。」
「そうなんですかね……。」
「ふわぁ……。」
レイさんが大きくあくびをする。私も眠気が押し寄せてくる。
「明日もあるし、さっさと寝るわよ。」
「はーい。」
布団に潜り込み、目を閉じた。
夜中……ん。なんか目が覚めちゃった。
喉乾いた……。お水飲んでこよう。そっと部屋を出る。
カサ……カサ……。
なんだろう。廊下の奥から、何かの気配がする。
この別荘…やっぱり“何かいる”のか?
うーん…とりあえずキッチンで水飲んで、さっさと戻ろう。コップを置いて、廊下に戻る。
「あれ……? 私どっちから来た?」
廊下の景色が、さっきと違う。こんなところに扉……あったっけ?
赤い扉。吸い寄せられるように、手が伸びる。
ガチャ。赤い絨毯が敷かれた部屋は家具が一つ小さなテーブルだけ。そこには写真が置いてあった。
「これって……ヒカルさん?」
父、母、男の子三人。真ん中でヒカルさんが笑っている。
家族で仲良さそうだ。
そういえば――
伯爵家の次男なのに、なんで掃除屋してるんだろう。穢れが見えるから困っている人を助けたいというような事は言っていたけれど…他にも何かありそうだった。まあ、色々事情はあるんだろうけど…。
私、何も知らないんだなぁ。まあ、しゃーなし!
戻ろう。そう思った瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
「……え?」
部屋が変わっている。……夢?
きょろきょろと辺りを見回した、そのとき――
ガチャッ。突然、床の扉が開いた。
「な、な、なんでーーーっ!!」
叫ぶ間もなく足元が消える。ひゅっと体が宙に浮き、
どしん。
「いった!!」
「姉さん、こんなところで何してるの?」
気づけば私は、ユウキの部屋の中に落ちていた。
「いや、なんか部屋が勝手に変わって……。」
「寝ぼけてるの?
だめだよ、夜に男の人の部屋に来ちゃ。
いくら色気がなくてもそれでもいいっていう平気なロリコンもいるんだよ?気をつけなきゃだめ!」
おい、弟。真面目な顔で心配してるふうで、クッソ失礼なこと言ってないか!?
「それより……スイマクリさんと同室なの?」
ガスマスクをつけたまま、スイマクリさんがスヤスヤ寝ている。
「うん、よく寝てるよ。疲れたみたい。」
……あの人、何もしてないよね?
端っこに座ってただけだよね?
「ダスト・イーターの改良版の設計図見せてもらったんだけど、すごいんだよね!
吸ったホコリを中で瞬時に圧縮して……効率よくてさ。
あとダスト・サッカーもさ!」
ユウキが目をキラキラさせて語り始める。
「あ、そうなんだー。
ってか掃除道具の名前覚えてるの?」
「当たり前だよ!
かっこいいよね!!
Dust Eater、無塵の暴食、
Static Feather ― 静羽の祓箒とかさ!」
まじかよ。
厨二病みたいな名前じゃん……と思ってたら、
ユウキには刺さってたのか。あ、そういうお年頃だ。
「誰が名前考えてるの?」
「ソウジさんとヒカルさんだって!
センスいいよね!!」
キラキラした目で言う。おう、まじかよ。
「それより……姉さん、部屋送るよ。」
「あ、ありがとう。」
そう言って扉を開けた瞬間――
また部屋が変わる。
「うっそ!!」
「ユウキは、部屋から出ないで!!」
「え! 姉さーん!!」
ユウキが手を伸ばしたけど届かず、私はまた別の部屋に飛ばされた。
どさっ。
「……あいたたた。」
私が飛ばされた先には――
のそっと立つ、黒髪の男の影。
「いやぁああああ!! おばけ!!」
「ひひひひひひひぃ!!!」
思わず叫ぶと、その影がビクッ奇声をあげ震えた。
「ふわぁ……もう、何事?」
可愛らしい帽子をかぶったシュウさんが、目をこすりながらこちらを見ていた。
「あれ? ココロちゃんとシズクって、そういう関係?」
「ち、ち、ち、ちがいます!!
そういうってどういうですか!?
なんでそんな恐ろしい感じに立ってるんですか、ヌメリー先輩!!」
「いや……なんか、も、も、物音して……びびびっくりして……」
ヌメリー先輩がオロオロし始める。
「それよりも……ココロちゃん、どうやって入ってきたの?
鍵かかってたと思うんだけど?」
シュウさんが首をかしげる。イチゴ柄の可愛いパジャマ姿だ。
「それそれ! 聞いてくださいよ!!
なんか――」
と言いかけた瞬間。
ガチャッ。
ドタドタドタドタ!!
「いった〜……」
「あ、よかった! 姉さん!!」
「何事だ。夜中に。」
レイさん、ユウキ、スイマクリさんが
扉から雪崩のように入ってきた。
「わあ。」
シュウさんがゆるく驚く。
「みなさん、どうしたんですか!?」
「いや、ココロがいないから心配して探しにきたらさ。
部屋飛ばされて!」
「レイさん、やさしい!!」
ぎゅっと抱きつこうとしたら――
「やめてー、ベタベタしないで。」
「いいじゃないですか〜。」
すりすり。なんか良い匂いする。
「あ! ユウキ……出ないでって言ったのに!」
「だって、心配だし!!」
「ありがとう……
スイマクリさんも。一応?」
「なんだ“一応”って……。」
「そ、そ、そ、それよりも……
な、なにがどうなったんで、すか?」
ヌメリー先輩がどもる。
「確かに〜。」
「これって穢れの仕業よね?」
レイさんがベッドに腰掛ける。
「そうだね〜。でも、なんの穢れだろう。」
シュウさんが顎に手を当てる。
「前にもこういうことあったんですか?」
「毎年掃除しに来てはいるけど……
ここまで変なことはなかったわよ?
穢れは多かったけど。」
レイさんがうなる。
「じゃあ……どうして?」
「君だ。きみ。」
スイマクリさんが私を指さす。
「わたし?」
「何か変わったことは?
どっかの部屋入ったとか。触ったとか。」
「あー、そういえば水飲んでから部屋戻ろうとしたら……
赤い扉があって、そこに入りました!」
「それだわ。」
「それだね〜。」
「そ、そ、そ、それですね。」
「え!? まずかったですか!?」
「入っちゃいけない部屋あるって言われたでしょ?」
「いって……ましたね。」
わ、忘れてた。
「それで何を見て、何をした?」
スイマクリさんが腕を組む。
「いや、ほんと何もしてないです!
ただ、写真がありました!
ヒカルさんの家族の。」
手をブンブンふる。
すると、
「あー、それ見たのか。」
「じゃあ、その写真が原因だね〜。」
スイマクリさんとシュウさんが口を開く。
「え!? どういうことですか!?」
私は目を丸くする。




