47話 ヒカリハカゲル
グルグル回る写真立ての中――
一瞬、視界の隙間から“それ”が見えた。
「ヒカルさん!!
右側から三番目のやつです!!」
「え!?」
「えっと! あれあれ!!」
「ん?」
ヒカルさんはわからないようだ。
「自分でやります!!」
私は床を蹴る。
「わたあめ! ちょっと踏むよ! 膨らめる??」
「はい!!」
わたあめがぽふっと膨らむ。
「よいしょっと!!」
私はわたあめを踏み台にして跳び上がり、
回転する写真立てに手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、
写真立てが“すぽっ”と手の中に収まった。
そのまま抱えて着地。
すぐに無痕布でガラスを磨く。
曇りがすうっと消え――
家族写真がピカピカに輝いた。
同時に、周囲の偽物の写真立てが
すうっと霧のように消えていく。
「終わったの??」
レイさんが目を丸くする。
「お、お、俺たち出番なかったです……ね。」
ヌメリー先輩が肩を落とす。
「終わったなら……もういいよね?
ヤニ吸いたい。まじで。」
シュウさんは完全に限界。自由だな、この人たち。
私は写真を見つめる。
「この写真……ヒカルさんのご家族ですよね?」
家族五人で笑っている。
「うん、そうだね。」
ヒカルさんは、懐かしそうで、
どこか切なそうに微笑んだ。
「幸せそうですね。」
「……ほんとにね。」
肩をすくめるその横顔は、
どこか幼い頃の面影を残していた。
「ねぇ、ココロさん。
ありがとうね。」
「いえ。」
「それよりも……誰がドSで腹黒だって?」
「え!? 聞こえてたんですか!?」
「あんなに大きい声で言ってればね。」
私は慌てて手を振る。
「でも、あれは励ましの言葉です!!」
「……まあ、そういうことにしておくよ。
来てくれて助かったよ。」
ふっと笑ったその顔は、
写真の中の小さなヒカルさんと重なって見えた。
◇
伯爵家の掃除が無事に終わり、荷物をまとめていたときのこと。
「ねぇ、なんであの写真立てがたくさんある中で正解がわかったのよ?」
レイさんが不思議そうに聞いてくる。
「私、一瞬だけ開かずの間に入ったときに見たんで、覚えてたんですけど。」
「ココロさんが入ったのがきっかけだったんだね。」
ヒカルさんが頷く。
「開かずの間って言ったけど、簡単に開きましたけどね。
なんだったんでしょう?」
「それは……きっと呼ばれたんだね。」
「え? それって穢れにですか?
それとも霊的な何かに?」
「まあ、そこはわからないけどさ。
で、なんで本物の写真だってわかったの?」
ヒカルさんが小首を傾げる。
「あー、それはですね!
ヒカルさんの笑顔が、今とは別人なほど子供らしくて可愛かったのが印象的で!すぐわかりました!
私、目いいんですよ!」
へへん、と胸を張る。
その瞬間――
ヒカルさんが固まった。
「く、ははははははは!!
ちょっと、ココロそれはまた失礼よ!」
レイさんが腹を抱えて笑い出す。
「もう、面白すぎるんだけど。あはははは!」
シュウさんも転げ回る。
「姉さん……。」
ユウキが残念そうにため息をつく。
スイマクリさんはもう車に乗り込んで、
“帰る気満々”だし。
「まったく……期待を裏切らないほど素直で面白いね。
ほんと失礼すぎるけど。」
ヒカルさんの目がちょっと怖い。
「でも、そんなに目がいいのになんで銃の扱いは下手なんだろう。」
シュウさんが首を傾げる。
おい、今その話はいいでしょ!!
「目がよくても手先は不器用なんですぅー!」
「はいはい。
もう疲れたわー。帰りましょう。」
レイさんが車に乗り込む。
ふと、ヒカルさんが屋敷を振り返る。
「その写真立て、持ち帰るんですね。」
「うん。
なんせ、僕が“今とは別人なほど可愛い笑顔”だからね。」
わざとらしく微笑む。
「すみませんって……。」
「ココロちゃん。」
「え?」
「ありがとう。」
優しい笑顔でヒカルさんが微笑む。
「はい!」
素直に返事をする。
車に乗り込む直前、ふと屋敷を振り返った。
二階の窓に飾られた家族写真の――
あの“きれいな人の笑顔”が、風に揺れたカーテン越しに
ほんの一瞬、微笑み返したように見えた。
「……気のせい、かな。」
私は首をかしげる。
「ほら帰るわよー!ココロ。」
「あ、はい!!」
私は車に乗り込んだ。
キラキラの湖畔と屋敷が遠ざかって行く。
ミゴク・ココロ
キレイクリーンラボの清掃員です。
油汚れ、カビ、水垢、お風呂にトイレ掃除もお任せください。
そして、特殊な……穢れ掃除も承っております。
私はまだ新人だけど、
個性豊かな楽しい先輩たちと、毎日頑張っています!
掃除とは――
心も磨く行為だと、私は思います。
『伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます』 完結。




