39話 パーティーですわ
そして――パーティー当日。
「よし、完璧!」
レイさんが満足げに手を叩く。
「ありがとうございます。」
鏡に映る私は、まるで別人だった。
赤いドレスは身体にぴったりで、肩までの髪はゆるく巻かれたハーフアップ。
化粧もばっちり、爪もドレスに合わせて赤いマニキュア。
足元の赤いヒールも、普段の私からは想像できないくらい大人っぽい。
(……すごい。これ、ほんとに私?)
「――あ、そうだ。これも忘れてる。」
シャッポッ!
「いった!! なにすんですか!!」
鎖骨のあたりに、吸盤で“きゅっ”と跡をつけられた。
「これで色気出るでしょ。」
「色気の出し方が野生!!」
「はいはい、ストールかけてね。」
「ありがとうございます……」
そしてレイさんが耳元で囁く。
「前言ったこと、忘れないでね。困ったら実践して。」
「わ、わかりました!」
「よし、いい子。」
(褒められた……けど……なんか犬扱い……?)
「ほらー野郎ども。できたわよー!」
レイさんに背中を押され、みんなのいる部屋へ。
「あ、可愛い〜ココロちゃん!」
シュウさんが拍手。
「す、す、す、すごいです……!」
ヌメリー先輩は挙動不審になりながら褒めてくれた。
そして――
「うん、上出来だね。ありがとう、アブラーキさん」
ヒカルさんが満足げに頷く。
「いいのよ。これでロリコン扱いされないでしょ。」
「そうだね。」
「いや、ロリコンって!! 私、立派なレディです!!」
「はい、ココロさん。黙って。」
「えっ」
「極力しゃべらないで。
挨拶して、ニコニコしてればいいからね。
あと、僕が渡したものだけ、小さな口で食べてね。頼んだよ?」
ニコニコしながら言うヒカルさん。
その笑顔の裏に“絶対守れよ”という圧がある。
(こ、こわい……!
優しい顔してるのに圧がすごい……!)
「は、はい。」
「よし、行こうか。」
「は、はい。」
(無事に終えることはできるのだろうか……
いや、ほんとに……?不安しかない……)
パーティー会場は、まぶしいほど煌びやかだった。
天井には巨大なシャンデリアがいくつも吊るされ、光が宝石みたいに反射している。
そして隣を歩くヒカルさんも、シャンデリアに負けていない。
金髪はライトを受けてきらきら輝き、水色の瞳は氷みたいに澄んでいる。
普段の作業着とはまるで別人で、ぴしっとしたスーツが恐ろしいほど似合っていた。
さすが貴族さま…なんか歩いてるだけで絵になるんだけど…。
腕を組んで歩くと、周囲の視線がちらちらとこちらに向く。
(ひえぇ……見ないで……!)
そんな中、ひとりの偉そうな男性が近づいてきた。
「おや、カガヤくん。久しぶりですね。」
(絶対偉い人だ……!)
「ええ、お久しぶりです。デップリさん。」
デップリ!?
いや、確かにちょっと太めだけど……名前……?
笑っちゃダメ、絶対ダメ。
やばい、口角が……!笑うな私……!
ヒカルさんが横目で「笑うなよ」と言っている。
こわいこわい。
「それで、そちらの方は?
前回は確か赤い髪の美人さんを連れていたのに……だいぶタイプが違うね。」
じろりと舐め回すように見られる。
(ひっ……き、きも……!
でも仕事……これは仕事……!)
「初めまして。ミガク ココロと申します。
ヒカルさんとは仲良くさせていただいてますわ。」
丁寧にお辞儀して、微笑む。
「ほ、ほう。可愛らしいお嬢様ですな。」
(へへん、どうだ。特訓の成果だぞ……!)
ヒカルさんを見ると、
“油断すんなよ”と顔に書いてあった。
へいへい。
ひと通り挨拶回りを終えると、ヒカルさんが言った。
「じゃあ、ここにいて、動かないで。
僕は少し挨拶まわりしてくるから。待っててね。」
「はーい。」
「笑顔のままね。姿勢もよくしてね。頼んだからね。」
ニコニコしながら圧をかけてくる。
(こ、こわ……!
笑顔で脅してくるタイプ……!)
「わかりました。」
ふっと笑うと、満足したように歩いていった。
(はぁ〜〜〜つっかれた……
やってられない……)
あんなに美味しそうな料理が並んでいるのに、
“小さな口でパクパク”って……小鳥かよ!!
(大口でガブッといきたい……
あの肉……絶対おいしいそう……)
とりあえず、どうするか。
(ボーっとしよ……
シャンデリアの電球の数でも数えて……)
天井を見上げる。
(……多いな……
これ全部掃除する人、絶対大変だよね……)
そんなことを考えていた、その時――
「ご機嫌よう。」
(ご機嫌ようって何!?
人生で一度も言ったことないんだけど!?
でも笑顔、笑顔……!)
「ご、ご機嫌よう。」
とりあえず真似してみる。
すると、女性たちがぞろぞろと集まってきた。
(か、囲まれた……
これ、いじめの前兆じゃないよね……?)
「ヒカル様とはどういった関係ですの?」
「まさか、お付き合いされているのですか?」
「でも前回の方はとても美人でしたけど……
貴女はなんというか……素朴ですわよね。」
クスクスと笑われる。
(ば、ばかにされてる……!
でも気にしない、気にしない……!
これは仕事……!)
「ヒカル様も趣味が変わってますのね。」
「ねぇ、本当にどういう関係ですの?」
「ただの知り合いですの?」
「貴女といるときのヒカル様はどんな感じですの?」
「本当に恋人ですの?」
(しつこい!!
“ですの”連打うるさい!!
これは……あれを使う時……!)
私はそっとストールをずらした。
(レイさん、シュウさん……!
今こそあなたたちの教えを……!)
「ヒカルさんは…やさしそうですが(見た目は)、
意外と情熱的で(中身は腹黒スパルタ男)、
でも可愛がってくれるんです。(たまにおやつくれます)
恥ずかしいながら私不器用なので、(手先が…特に銃の扱い)、
手取り足取りご教授いただいてるんです。(仕事に関して)」
上目遣いで微笑む。
すると――
「きゃーー!! 私のヒカル様が!!」
「いやぁぁぁ!!」
「なんて……ハレンチな!!」
悲鳴が上がった。
(ハレンチ!?
どこが!?
いや、確かに誤解を生む言い方したけど!!)
その時。
「何事かな?」
ヒカルさんが戻ってきた。
そして私の鎖骨を見て、微妙に笑みを歪め――
そっとストールをかけ直す。
「ココロさん、身体冷えてしまいますよ?」
「ありがとうございます。」
ふふっと笑うと、ヒカルさんは小さくため息をついた。
「さて、帰りましょう。」
「そうですね。」
え、帰るの!?まだあの肉食べてないんだけど!?
私は目で訴える。
あの美味しそうなお肉…!せめて一口…
ヒカルさんは目だけで返してきた。
“あとで食べさせてやるから黙って歩け”
(へいへい……)
「では、ご機嫌よう。」
私は深々とお辞儀した。
(もう二度と来るまい……!!)




