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伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


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37話 トイレのハナゾノさん


「おおー!すっかり綺麗に!!」


カビは見る影もない。

匂いもしない。

むしろ、すっきりと清涼感すらある。


「はぁ〜助かった〜。」


レイさんが項垂れる。


「タバコ吸ってくるー。トイレとかもうどうでもいいわ。」


おい、トイレには神様がいるって言ってたやつ、どこ行くんだ。


「ま、ま、ま、間に合って良かったです。」


私が胸を撫で下ろすと、


「ヌメリー先輩!

もうちょっと早く来てほしかったです。本気で。」


そう言うと、ヌメリー先輩は肩をすくめて、


「す、す、すみ、すみません。

ぼ、ぼくがみ、道、間違えちゃったから。」


オロオロしだす。

今は笑えない。


「まあ、でもこれで解決だね。

良かった良かった。」


ヒカルさんが満足げに頷く。

そこで私は、ずっと気になっていたことを聞いた。


「ところで…ヒカルさん。

初めからそのシルバー?なんとか、私たちに預けてくれればよかったのでは?」


「それもそうよ。」


レイさんも同意する。


ヒカルさんは、へへっと笑って、


「…ごめんね?

渡すの忘れてた。」


軽い。軽すぎる。


「ふざけないでくださいよー!!!

こっちは赤カビに血まみれにされるかと思ったんですからね!!」


私はヒカルさんの肩を掴んでゆらゆら揺らす。


「はは、ごめんごめん。」


ほんとに反省してるのか、この人。


「まじで、たまに抜けてんのよ。ヒカルは…」


レイさんが頭を抱える。


「ごめんね?

でも、こうして慌ててやってきたんだよ。

美味しい紅茶とスコーン食べてから。」


「優雅に来てるじゃないですかーーー!!!」


私はぐわっと詰め寄る。


「でも、みんなの分もあるからあとで食べようね。」


穏やかに微笑む。


「まあ、それなら……まあ、よしとしますよ。

仕方ないですけどね。

仕方ないです。」


「ココロさんは、ちょろ…じゃない。

良い子だね〜。」


ふふっと笑うヒカルさん。

おい、今“ちょろい”って言おうとしただろ!!


「はあー。空気が澄んだね〜。」


シュウさんが、何事もなかったかのように戻ってくる。


「ヒカルくん助かったよ〜。」


ふわふわ笑うその顔は、さっきまでヤニ切れで荒れてた人と同一人物とは思えない。


「ううん。お疲れ様。」


ヒカルさんは相変わらず優雅。


「それにしても…なんでトイレに穢れ出たんですかね?

しかも怪談風で。」


私が首を傾げると、


「ほらトイレとかってさ、集まって陰口いったりするでしょ?」


レイさんが腕を組んで言う。


「そ、そうなんですか?」


こ、こわいな。


「私も言われたな〜。“男に色目使ってんなよ〜”って。」


「え!?勇者ですか!?」


「どういう意味よ、失礼ね!」


「わかるよ〜俺もいじめられたことあるからねー。」


シュウさんが笑う。


「さっき言ってましたよね?

トイレ舐めろ?でしたっけ??

でも、シュウさんそのあとどうしたんですか?」


「え?逆に舐めさせてあげたよ?」


ニッコリ。


「そしたらさ、“ご、ごめんなさい。ごめんなさい”って。

なら人にやるなよ〜って笑っちゃうよね。」


わ、笑えない。


「お、お、おれも経験あります。

ジメジメしてて、トイレがお似合いだっていわれ、ました。」


ヌメリー先輩!!


「でも、俺はヌルッとしててジメってるところ好きなので

わりと、う、う、う、嬉しかったです。」


「え?」


「しばらく嬉しくてその人のこと見てたら、

体調崩したみたいで…

お、おれのの、の、の、呪いとかで、恐れられました。」


……なんだろう、不憫。

確かにヌメリー先輩にずっと見られてたらビビるけど。


「とにかく、トイレって汚いし、不満も溜まるから

穢れも溜まりやすいんだよね。

これで当分は平気だと思うけど。」


ヒカルさんが笑う。


は、はあ。

まあ、綺麗になったから良かったけど…。


でも、本当にいないよね? お化け。


私はチラッとトイレを振り返ろうとした――その瞬間。


「ココロさん、帰るよ。

スコーン食べるんでしょ?」


「はい!!」


スコーンの誘惑に負けて、私はトイレをあとにした。


うしろで――


「うふふふふ……また遊ぼうね。」


誰も気づかない、小さな声が響いた。

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