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伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


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35話 トイレのハナゾノさん


「さて、今日はここだね〜。」


「ここって…学校?」


私たちは、由緒ただしき学園の前に立っていた。

校舎は三階建ての洋館風だ。


「そうトイレ掃除!きったないよ〜。」


「シュウさん楽しそうですね。」


「俺、トイレ掃除好きなんだよね〜。」


「え!?そうなんですか?」


「トイレにはトイレの神様がいるから。」


「そうなんですか?」


「不純な場所を清めることで家の守り神として働いてくれるって言われてるんだよ。清潔にしておくと福が訪れるってね。」


「へぇー。知らなかった。」


「でも…ここは福とは無縁そうだね。なんせ、お化けが出るって噂だし。」


お化けポーズをして舌をべろっと出すシュウさん。

その軽さが逆に怖い。


「え!?ほんとに!?」


こ、こわい。


「ほら、トイレのハナゾノさんとか有名だよね。」


「知ってます、それ! 三番目の個室を叩くやつですよね?

えっと、ハナゾノさん、遊びましょう?って言うと引きずり込まれるやつ!!」


「そうそう。確か、不運な事故か何かで亡くなった子の霊がトイレに住んでるんだよね。ずっと遊んでほしくて…。」


「こ、怖すぎる。」


「ほら、バカなこと言ってないで行くわよ。」


レイさんが歩き出す。


そう、私たち三人は今日は“お化けが出る”と噂される学園のトイレ掃除にやってきたのだ。


「あの、今日はヌメリー先輩とヒカルさんいないんですか?

絶対穢れ案件じゃないんですか?」


「あっちはあっちで別件よ。今日は私たちでどうにかするわよ。」


「えー不安です。」


「わあ〜先輩達に失礼。」


シュウさんがゆるりと笑う。

そして私たちは、3階の一番東の奥のトイレにやってきた。


「ここのトイレだけ…変なんです。」


教師が震えながら話す。

その顔色は、青白く見えた。


「変というのは?」


ニコニコするシュウさんに、教師は怯えた目を向けながら続ける。


「掃除しても…すぐに汚れるんです。

そして、壁に“赤い紙と青い紙どっち?”って……」


あ、それ聞いたことある。


「それってトイレの怪談よね?」


レイさんが腕を組む。


「確か…“赤い紙がほしいか? 青い紙がほしいか?”ってやつですか?」


私が首を傾げる。


「そうそう。それで赤い紙を選ぶと全身から血が吹き出して真っ赤に染まって、青い紙を選ぶと首を絞められて顔が青くなるとかだよね?」


シュウさんがニコニコしながら話す。

そんな顔でする怪談話じゃない。


「そ、そうです。」


教師はブルブルと震えている。


「あの、それって結局…どうすればいいんですか?」


「どっちを選んでも助からないんじゃなかった?」


レイさんがサラッと言う。


「こ、こわいですよ!!」


「確か、“何もいらない”とか“白い紙”と言うと助かることもあるよね?

ただし、逆に引きずり込まれることもあるって言われるよね?」


シュウさんが、まるで天気の話でもするみたいに続ける。


「まあ、やってみないとわからないよね〜。」


ニコニコと笑うその顔が、今は一番怖い。


「と、とにかく、どうにかして欲しいんです。

よ、よろしくお願いします。」


教師はそう言うと、こちらが返事をする前に足早に去っていった。

背中が小刻みに震えていて、振り返る余裕すらない。


中は薄暗く、昼間なのに光が届きにくい。

天井には古いランプがぶら下がり、白熱灯のような弱々しいオレンジ色が、タイルの壁にぼんやりと影を落としている。


床は黒と白、壁は白いタイル張り。

個室の扉は木製で、

洋館のクローゼットのような装飾が施されている。


「立派なトイレですね。」


私が思わず呟くと、


「とりあえず…まずは普通に掃除しようか。」


シュウさんがブラシを肩に担ぎながら言う。


「そうね…。」


レイさんも頷く。


「え?穢れを叩いてから掃除じゃないんですか?」


「それはヒカルくんがいる場合かな。」


「え?」


「ヒカルしか穢れを呼べないからね。」


「……あれ? 呼んでるんですか?

あの、人差し指でふーってするやつ。魔法か?」


「まあ、能力みたいなものよ。

私たちは掃除して、奴らを出すわよ。」


「はーい。」


そして、シュウさんが真面目な顔でゴシゴシと便器を擦り始めた。


「シュウさん、すごいですね。」


「ん? そう?」


シュウさんは手を止めず、軽く笑う。


「俺さー、昔いじめられてて。こんな可愛い見た目でしょ?」


キャピっとピースする。

この人をいじめるって、どんな強者だ。


「へ、へー。」


「そのときにさ、“トイレ舐められるぐらい掃除しろや”って、便器に顔突っ込まれそうになって!」


あはは、と楽しそうに笑う。

そこ笑うとこか?


「た、大変でしたね。」


「その時に思ったんだよ。」


「な、なにをですか?」


一応聞いてみる。


「俺、綺麗好きだったけど、

トイレって今までちゃんと考えて掃除してなかったなって。」


「は、はあ。」


「そして思ったの。

舐められるぐらいキレイにしよう、って。」


「へー!

じゃあ、トイレ舐められるんですか?」


「舐められるわけないだろ? バカか。

舐めるとこじゃねーんだわ。

クソしてショーベンするきったねぇところだから。」


「え!?」


「あ、ごめーん。ちょっとヤニ切れ〜。

ガム噛もう。」


ポッケからガムを取り出して噛み始める。

こ、こわ。

やさぐれヤンキーが一瞬見えた。

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