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伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


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19/47

19話 弟 参上


「ここか……。」


『油汚れ、カビ、水垢、穢れもピッカピカ。

《キレイクリーンラボ》』


穢れって……なに?

汚れじゃないのか?


……それよりも。


姉さん。

いつも自分のことより、俺のことを優先してくれた。


毎月、僕の学費のために仕送りをしてくれている。

その金額が、前よりずっと多くなっていた。


なぜ?


伯爵家に問い合わせたら、数ヶ月前にクビになっていた。

それで、手紙に書かれていた住所を見たら……

ここだった。


よし、入ってみよう。

もし変な仕事なら、僕が止めなければ。


コンコン。


「失礼します。」


扉を開けると、洗剤の匂いがふわりと漂う明るい室内。

その奥から、にこにこと笑う青年が顔を出した。


「あれ、どうしたのー?」


声は柔らかい。

けれど──近くで見ると、目元にうっすら疲れが滲んでいて、年齢は三十手前くらい。

笑顔は可愛いのに、どこか掴みどころがなくて……少しだけ警戒心が走る。


「あの、実は知り合いがここで働いているようで、会いたいんですけれど。」


「お、そうなんですね。

もうすぐここの社長も帰ってくるので、お待ちください。」


にこっと笑う。

その笑顔が嘘っぽいわけじゃない。

ただ、妙に“慣れている”感じがして、余計に身構えてしまう。


促されてソファに座る。

クッションは柔らかいのに、落ち着かない。


……本当に姉さん、ここにいるのか?


胸の奥がざわつく。

この店の雰囲気も、さっきの青年─

どこか普通じゃない気がしてならない。


しばらくすると、扉の向こうから足音が近づいてきた。


「ただいま戻りました。」


「いやー、疲れたわね。」


その声を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。


「あ!姉さん!!」


思わず立ち上がる。


「え? ユウキ??」


姉さんが驚いた顔でこちらをみた。




弟のユウキが姿勢良くソファに座り直す。


「初めまして、ミガク ユウキです。」


丁寧に頭を下げると、ふわふわの茶色の髪が揺れた。

くりっとした目が印象的で、昔から可愛い弟だ。


でも──驚いた。

まさかユウキが、こんな場所まで来るなんて。


「どうして来たの?」


思わず聞くと、ユウキは眉を吊り上げて言った。


「姉さんこそ! 伯爵家クビになったのなんで黙ってたの!?

それに仕送りの金額も増えてるし!

なんか怪しい仕事かと思うじゃん!」


慌てた声に、胸がちくりと痛む。


……そっか。

心配させてたんだ。


「初めまして。僕はここの責任者のカガヤ ヒカルです。よろしくお願いしますね。

えっと、ユウキくんは今何歳なんですか?」


ヒカルさんが穏やかに微笑む。

けれどユウキは、なぜかその笑顔をじっと観察するように見つめていた。


「15歳です。いまベルベット校に通ってます。」


「ベルベット校ってかなり名門じゃない?」


レイさんが口を挟む。

脚を組み、こちらを値踏みするような視線を向けてくる。


「ユウキ、頭良いんですよー!

だから私が学費を稼いでます!

うち貧乏なので!」


「学費高いもんね〜。ココロちゃん、えらーい!」


シュウさんが笑う。

その笑顔は柔らかいのに、どこか“裏”が読めない。

ユウキが警戒するのも無理はない。


「確か奨学金みたいなのもないわよねー?

基本、金持ちのボンボンしか行けないのよね。」


レイさんが軽く言う。


「す、すごいですね……」


ヌメリー先輩が端っこでぼそっと呟く。


「今、ココロさんはここの掃除屋の一員なんですよ。」


ヒカルさんがそう言って微笑む。


その瞬間──

ユウキはヒカルさんをじーっと見つめた。


まるで、

“この人、本当に信用していいのか?”

と問いかけるように。


「掃除屋? 本当に? ただの?」


「うん、そうだよ。」


「うそだ。」


「え?」


私が思わず声を上げる。


ユウキは立ち上がり、名探偵みたいに指を突きつけた。


「だって! 貴方、所作が綺麗すぎます!

それにこのラボ、明らかに工事費が高い!

地下にも絶対なんかある!

“ただの掃除屋”が建てる建物じゃない!」


おお……

弟よ、初対面でそこまで言うか。


「……貴方、貴族の方ですよね?

そんな人がなぜ掃除屋を?」


ヒカルさんは困ったように笑う。


「ちょっと、ユウキ!

それぞれ事情があるんだよ!」


「姉さん、今は大事なことだから!」


ユウキは真剣そのもの。


「だってこの人──

絶対ヤバい人だよ!

ニコニコしてるけど目が笑ってないし!

絶対腹黒!

計算高いし、姉さんをボロ雑巾のようにこき使って使い捨てるよ!」


おい。

ほぼ当たってるけど言うな。


「それに!その人も!」


「え?俺?」


シュウさんが指をさされ、あざとく小首をかしげる。


「可愛い顔してるけど、30手前のおっさんでしょ?

こういうタイプってだいたい酒とタバコ中毒で、

DVとかしそう!!」


わりと当たってるけども!!

シュウさんが「えぇ〜?」と困った笑顔を浮かべる。


「あと!そこの綺麗な人!

この人も危険!

絶対、朝は低血圧で機嫌悪くて、姉さんのこといじめてる!」


「あらま。」


レイさんが脚を組んだまま笑う。



「そして、そこの人!」


ヌメリー先輩を指さすユウキ。


「姉さんの優しさを勘違いしてストーカーしてきそう!!」


やめろ、弟よ。

初対面で全員の急所を刺すな。



「ここには危険な人しかいない!!

だめだよ姉さん!!」



私の手をつかんで、今にも連れ帰ろうとする。


「待って!ユウキ!

私はここでお掃除の仕事をしてるの!!

大変だけどやりがいもあるし、

みんな変わってるけど良い人たちだよ!

変わってるけど……」


「なんで2回言ったのかな?」


ヒカルさんが笑う。


「それにしても……姉弟似てるねー。

発言が失礼。」


「あ、すみません。」


反射的に頭を下げる。


「別に気にしてないよ?

ただね、ユウキくん。」


ヒカルさんは穏やかに微笑んだ。


「僕たちはこの仕事に誇りを持っているんだ。

何も知らずに決めつけるのは良くないよ。」


手を組みながらユウキをみる。

その言い方は優しいのに、妙に説得力がある。


「……確かに。

それは失礼しました。

いくら怪しい人達が多かったとはいえ、

不適切な発言でした。謝ります。」


ユウキは、頭を下げる。


「わあ、素直!」


シュウさんが手を叩く。


「ふふ、君は良い子だね。」


ヒカルさんが微笑む。


「だけど……本当に危険な仕事ではないんですよね?」


その言葉に、私は思わず視線をそらした。


危険……ではあるよな?

穢れは普通に攻撃してくるし。


ヒカルさんも曖昧にニコニコしている。


(この人、絶対ごまかしてる……)


「……わかりました。

僕も見学させてください!!」


「え?」


「納得したら姉さんがここで働くことを認めます。」


「うーん……」


ヒカルさんは困ったように笑いながらも、


「分かりました。

じゃあ、またおいで。」


そう告げた。


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