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伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


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17話 今更ですが…歓迎会


ヒカルさんが一通りテーブルに料理を並べていく。

生ハムサラダ、サーモンとタコのカルパッチョ、ローストビーフ、ピザ…

どれも彩りが美しくて、まるでレストランのコース料理みたい。


「すごい、おいしそう!!」


「ありがとう。さあ、座って。」


ヒカルさんが柔らかく微笑む。


「ありがとうございます!」


「わたあめさんもどうぞ。君の歓迎会でもあるから。」


そう言って、わたあめの席まで別に用意してくれる。

ふわりん、と体を揺らして喜ぶわたあめ。かわいい。


その時――ピーンポーン。


「誰か来ましたね。」


「ココロさん、扉あけてくれる?」


「はい!」


そう言って玄関へ向かい、扉を開ける。


「ずこーずこー。」


ガチャ。


……反射的に閉めた。


いまの何!?

ガスマスクにフル装備した、どう見ても怪しい人が立ってたんだけど。


すると――


どんどんどんどんどんどん!!


猛烈な連打。


こ、こわい……。

おそるおそる、もう一度開けると――


がしっ。


扉をつかまれた。


「ずこーずこー。」


ひっ……こ、こわい!!!


思わず扉を閉めようとする。


「や、やめてください!!こわいです!」


「ずこここここ!」


扉越しにガタガタやっていると――


「あ、いらっしゃい。それ、ソウジだよ。」


ヒカルさんがサラッと言い放つ。


「え?」


思わず手を離すと、


ガコンッ!


扉にもたれかかっていたスイマクリさんが、そのまま倒れ込んだ。


「あっ。」


ヒカルさんと二人で「よいしょ」と引きずる。

……なんか、死体処理してる気分になるんだけど。


ってか、重い。

この人、意外と身長あるんだな。


「とりあえず目が覚めるまで玄関に置いといて。」


「あ、はい。」


しばらくすると、むくっと起き上がる。


そして――

ガスマスクとスーツを脱ぎ始めた。


……脱皮した。


「ふーふー。大変だった。」


「いや、そんなもん着てればね。」


思わずツッコんでしまった。


スイマクリさんは、脱いだスーツを端っこに丁寧に畳むと、

まるで手術前の医者みたいに念入りに手を洗い、

持参したスリッパを履き、さらにマスクとゴーグルまで装着した。


完全防備。

ここ、研究所じゃなくてリビングなんだけど。


「ヒカルくん、この料理は…。」


「大丈夫、手袋して作ったよ。」


「そうですか。食材は?」


「どれも新鮮なものだから大丈夫。」


くっそ、失礼だな、この緑ロン毛……。


ジロリ。


こっちを見てくる。

……考えてること、バレた?


「――あの穢れはどこだ!?」


「あ、あそこに。」


部屋の端っこで、わたあめがゆらゆらダンスしている。

ヌメリー先輩が、子どもを見るみたいに優しく拍手していた。

なんか、ほのぼのする。


「なら、これを。」


「これは?」


スイマクリさんが取り出したのは、

透明な筒状のケースだった。


ぱっと見、高級な虫籠みたい。

透明度の高い樹脂でできていて、

空気穴が細かく並び、

側面にはスライド式の小窓がついている。

上部には“エサ投入用”と書かれた蓋まである。


完全に、虫扱い。


「改良版だ。」


「……改良版?」


「ここにエサを入れる。

そして蓋を閉じてから、こっちを開ける。

そうすれば穢れの空気に接することなく飼育できるすぐれものだ。」


飼育って言ったよね今。

やっぱり虫扱いじゃないか。


でも、スイマクリさんなりの配慮なんだろう。


「あ、ありがとうございます。」


マジックハンドで差し出される。

相変わらず距離が遠い。


「それにしても、来てくれるとは思いませんでした。意外です。」


そう言うと――


「まあ……いちおう。

ヒカルくんの料理も楽しみにしてたし、

ヒカルくんは君に期待してるようなので。」


「え、そうなんですか?」


「はい。

それに、二ヶ月続いたのは純粋にすごい。

ほとんどの人は三日以内でやめますから。」


「へ、へぇー。」


まあ、こんな個性的な人たちに囲まれてたらな……。


「重労働ですしね。俺はできませんから。」


「あ、そうなんですか?」


「外に出たら全くもちません。

ここに来るのに一時間かかりました。」


「え?!あのラボから徒歩10分圏内ですよね!?」


「私は体力皆無なので。

だから基本あそこから出ません。」


「そ、そうなんですねー。」


徒歩10分を一時間。

この人、ある意味すごい。



「わたあめ。新しいお家だって、入れる?」


「わあ、ありがとうです!」


わたあめは嬉しそうにふわりと揺れ、そのまますんなりケースの中へ入った。

透明の板越しに、ちょこんと座っている姿がなんだか可愛い。


ヒカルさんが用意してくれた“ご飯”も入れてみる。

……完全にペットの飼育だ。


「はい、みんな集まったね! グラス持って。」


ヒカルさんがワイングラスを配っていく。

手際が良くて、動きに無駄がない。


「――あ、ココロさんはジュースね。」


そう言って、オレンジ色のジュースを注いでくれた。

グラスの中で氷がカランと鳴る。


「ありがとうございます!」


「では、ココロさんの歓迎会はじめます! 挨拶どうぞ。」


そう言われて、私はビシッと立つ。


「ミガク ココロです!

掃除のお仕事、正直大変で、自分が役に立っているか分かりませんが……

一生懸命がんばります!!

よろしくお願いします!」


「はい! じゃあ、かんぱーい!」


グラスが軽く触れ合い、澄んだ音が響く。


「いや〜このワイン、うんまぁー。」


レイさんがすでにベタベタしてくる。


「あの、レイさん、ベタベタされるの嫌って……」


油汚れみたいにベタベタが嫌いって言ってた気がするんだけど。


「自分がするのはいいのー。

ココロちゃん肌すべすべー。かわいいー。」


完全に酔ってる。


すると、もう一人の酔っ払いが。


「うー、しみるわー! 酒がうまいーー!!」


シュウさん、ただの酒飲みのおっさんになってる。

可愛げゼロ。


それにしても、ヒカルさんの料理……。


「すっごい美味しいです!!」


「それは良かった。」


ヒカルさんはふっと笑い、ワイングラスを軽く揺らす。

その仕草が妙に絵になる。

ワインを嗜む姿が、こんなに美しいなんて。流石すぎる。



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