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伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


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16話 今更ですが…歓迎会

働き始めて二ヶ月。


「ココロさん!そっち行ったよ!」


「はい!!」


舞い上がった黒い“穢れ”が、ふわりと空中を逃げる。

私はハタキを握り直し、タイミングを合わせて――


パシッ。


ハタキの先が穢れをとらえ、霧のように散らしていく。

細かい粒が光に溶けるように消えていった。


「よし、これで終わりだ!」


ふーっ。


「すごいね〜ココロちゃん、スタティック・フェザーの使い方が上手!!」


シュウさんがパチパチと拍手してくれる。

まだヤニは足りてそうだ。


「ありがとうございます!」


「す、すごいです。」


ヌメリー先輩まで褒めてくれる。


……照れる。


「あ、でも、デオドラント・ガンの扱いは相変わらず下手だけどね。」


グサッ。

シュウさんの何気ない一言が刺さる。


「難しくて…練習してるんですけどね。」


何気に特訓してるんだけど。

ほんと難しい。


「まあ、穢れは動くからね。これは慣れとセンスだよ。」


ヒカルさんが優しく微笑む。

……しれっとセンス“ない”って言われてる気がする。


「そうだ、遅くなっちゃったけど、ココロさんの歓迎会やろうと思うんだけど、どうかな?」


ヒカルさんが笑う。


「え、ほんとですか!」


嬉しい!歓迎会!!


数日後の仕事終わり。


「じゃあ、いきましょうか!」


シュウさんに声をかけられ、レイさんとヌメリー先輩と私の四人で歩き出す。


「どこかのお店でやるんですか?」


「ううん、ヒカルくん家。」


「え!ヒカルさんのところでやるんですか?」


「てっきりお店かと思ってました…。」


「うーん、お店は難易度高いかなー。」


ヌメリー先輩がそわそわし始める。

肩がすくんで、歩幅まで小さくなっている。


「俺、し、知らない人がいっぱいいるところ、に、にがてで…。

す、すみません。おれ、おれいないほうがよ、良かったですよね…。

す、すみません、排水溝と一緒に流れますので、ど、どどどうか…。」


「いや、そんなこと言ってないですよ!

それに、私の歓迎会してくれるんですよね?

ならヌメリー先輩にもいてもらったほうが、私嬉しいです!」


その瞬間、ヌメリー先輩の肩がピクッと動いた。

さっきまで縮こまっていた背中が、ほんの少しだけ伸びる。

視線はまだ泳いでいるけど、耳の先がうっすら赤い。


「こ、こ、ころころさん…。」


「ココロです。

人をボールみたいに呼ばないでください。」


「す、すみません…。

で、でも…う、嬉しい…です。」


最後の一言は蚊の鳴くような声だったけど、ちゃんと聞こえた。


なかなか呼び慣れてくれないな。


「ついたよ。」


顔を上げると、そこには立派な屋敷があった。

白い外壁は夜の灯りを受けて柔らかく光り、

門扉には繊細な装飾が施されている。

庭には季節の花が整然と植えられ、

手入れの行き届いた芝生が広がっていた。


おおー……。

“良いところ”どころじゃない。

これはもう、貴族の家そのものだ。


「あの…もしかしてですけど、ヒカルさんって良いところの出の方ですか?」


「そうよ。伯爵家の次男。」


レイさんがサラッと言う。


「え!?そんな人がお掃除屋さんなんですか?」


「まあ、色々事情があるからね〜。」


シュウさんが笑う。


ヒカルさんから滲み出る品の良さ、

そしてキレイクリーンラボの設備の豪華さ…。

全部つながった気がした。


「すごいですね…。」


「ほら、行きましょう。」


「はい。」


そう言って、みんなの後に続いた。


ピンポーン。


「はい、いらっしゃい。中にどうぞ。」


ヒカルさんが柔らかな微笑みで迎えてくれる。


「お邪魔しまーす。」


玄関に足を踏み入れようとしたところで、


「ここで靴脱いでね。」


「あ、はい。」


「そこの履き物つかって。」


差し出されたスリッパは、ふかふかで上質そうな布地。

足を入れた瞬間、吸い付くように馴染んだ。


中は広く、天井が高い。

大きなソファとガラスのローテーブル。

壁には落ち着いた色の絵画が飾られ、

棚にはアンティーク雑貨や古い図書が整然と並んでいる。

照明は柔らかく、どこかホテルのラウンジみたい。


すごい……。


「手を洗って、そこでくつろいで。」


みんなで順番に手を洗い、ソファに腰をかける。


「あ、ヒカルくーん、これ冷やしてー。」


シュウさんが持ってきたのは、どう見ても高そうなお酒。


「りょうかい。」


「ねぇー、ワインもある? つまみのチーズ持ってきたんだけど。」


レイさんが紙袋をヒカルさんに手渡す。


「良いワインあるから一緒に出すよ。チーズありがとう。」


ヒカルさんは慣れた手つきでキッチンに立ち、

ワインクーラーを取り出して準備を始める。

動きが無駄なくて、見ていて気持ちいい。


「あ、あの、私手伝うことありますか?」


「大丈夫だよ。ココロさんの歓迎会なんだから座ってて。

暇だったら適当に本読んでてもいいよ。」


「あ、ありがとうございます。」


それぞれがソファでくつろぎ始める。


ヌメリー先輩はソファの端っこで、

膝の上に手を置いてもじもじしている。

でもさっきより表情が柔らかい。

ときどき、こっちをちらっと見ては、

すぐに視線をそらして耳を赤くしている。

……さっきの言葉、やっぱり嬉しかったんだろう。


レイさんは脚を組み、雑誌をぱらぱらとめくっている。

姿勢が綺麗で、モデルみたい。


そしてシュウさんは――


「外で吸っていいー?」


「いいよ、ベランダに灰皿あるから。」


「ありがとう〜。」


そう言って、さっそくベランダへ。

ほんと、タバコ吸うの早い。


うーん、せっかくだし本を読ませてもらおうかな。


棚には歴史書、数学書、経営学、哲学らしきものまで、

ジャンルがとにかく幅広い。

背表紙を見るだけで頭が良くなりそう。


一冊手に取って開いてみる。


……うーん、何書いてあるかわからん。


文字は読めるのに、内容が理解できない。

脳が拒否してる感じ。


そっと閉じて、元の場所に戻した。


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