13話 掃除機は隅までかける
隅にいたホコリが、ふわりと形を変えて姿を表した。
「これって、わたあめと同族ですかね?」
私がそう言うと、ポケットから、わたあめがひょこっと顔を出す。
「同じホコリですけど……彼らには平和主義はなさそうですよ。」
ほらっ、と胸を張るわたあめ。
平和主義なんて言葉、知ってたの……?
「そうみたいだね。話も通じなそうだ。」
ヒカルさんも答える。
灰色のホコリたちが、もくもくと増えていく。
ヒカルさんとシュウさんがハタキで叩き落とし、
集まったところをレイさんが掃除機で吸い込む。
逃げようとしたホコリは、私とヌメリー先輩が小さい掃除機で吸う。
よし……!
「これで全部かな?」
全てのホコリが吸い取られた、その瞬間。
「もうダスト・イーターの容量がいっぱいよ!」
レイさんが叫んだ直後——
掃除機がガタガタと暴れ出した。
「え!? これ爆発しませんか!?」
私が叫ぶと、
「する。」
ヒカルさんが冷静に言う。
「どうするの!? もう一つのほうも穢れでパンパンよ!」
「ど、ど、どうしましょう……」
ヌメリー先輩もオロオロ。
「やばっ…無理。…もうニコチンが……」
一人は完全にヤニ切れで戦力外。
掃除機は今にも爆発しそう。
考えろ、考えろ……
ホコリをまとめるもの……
まとめる……?
「ねぇ! わたあめ!」
「はい〜。」
「この穢れ、同じホコリだよね!?
なら吸収とかできたりするの!?」
「できますよ〜。たぶん!」
「ほんと!?」
「もう無理よ! 爆発する!!」
レイさんの言葉で、
どかーーん!!
掃除機が限界を迎え、
集めたホコリが一気に舞い散った。
「わたあめ! 舞い散ったホコリは私が集め直すから、吸収して!!」
「はーい!」
私は置いてあったハタキを構え、舞うホコリを次々と叩き落としていく。
「みんな! ココロさんと一緒にハタキでまとめて!」
「はいはい!」
「わ、わかりました!」
「うぃー……」
レイさん、ヌメリー先輩、シュウさんも動き出し、
四方からホコリを追い込んでいく。
みんなでハタキを振り、ホコリを一箇所に追い込んでいく。
そのとき——
「……あ”ぁ〜〜〜……もう無理……ニコチンが……足りねぇ……」
シュウさんが、ついに床にへたり込んだ。
目は据わり、
声は低く、
語尾は荒い。
完全に“やさぐれヤンキー”化している。
「シュ、シュウさん!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃねぇ……世界が灰色に見える……ヤニがねぇと……やってらんねぇ……」
ダジャレか?
というか、灰色のホコリを見ながら言うの、やめてほしい。
「シュウ、立てる? まだ動ける?」
ヒカルさんが声をかける。
「……うるせぇ……今話しかけんな……」
返事が完全に不良。
レイさんがため息をつく。
「もうダメねこれ。完全にヤニ切れ。本当タチ悪い。」
「ど、ど、どうしましょう……」
ヌメリー先輩もオロオロ。
その間にも、ホコリの穢れはもくもくと形を変え、
わたあめが必死に吸収している。
「はぁっ……はぁっ……まだいけますよ〜!」
わたあめ、がんばれ。
「シュウさん! もう少しだけ! ハタキ振るだけでいいから!」
私が叫ぶと、
「……ハタキ……? そんなもん……ニコチンの代わりになんねぇ……」
「代わりにしないでください!!」
「……ちっ……しゃーねぇ……」
シュウさんはふらふらと立ち上がり、
ハタキを肩に担いで、ゆっくり歩き出す。
その姿は——
完全に“ガラの悪い人”。
「おいコラ……ホコリ……逃げんなよ……」
ホコリに威圧してどうするの。
でも、なぜかホコリはビビって固まった。
「す、すごい……!」
「ニコチン切れの時のシュウは、ある意味最強だからね。」
ヒカルさんが淡々と言う。
「最強の方向性が違いませんか!?」
私は叫びながら、ハタキでホコリを追い込む。
レイさんも掃除機の残骸を避けながら動き、
ヌメリー先輩も必死に小さい掃除機を構える。
「わたあめ! 今!!」
「はーい!!」
わたあめが大きく息を吸い込むと、
残ったホコリの穢れが一気に吸い込まれていった。
しゅぽんっ。
空気が静かになる。
「……終わった?」
「終わったね。」
ヒカルさんが微笑む。
その横で——
「……ニコチン…」
シュウさんが壁にもたれ、
今にも消え入りそうな声でつぶやいた。
「わたあめよく頑張ったね!」
そう褒めて見上げる。
「はいですぅ。」
わたあめが、ふわふわと揺れながら——
三メートル級の怪物サイズになっていた。
「とりあえず……穢れは処理できたけど。」
ヒカルさんが巨大わたあめを見上げる。
「これ、どうするの?」
レイさんも腕を組んでため息。
「うーん……」
ヒカルさんはヌメリー先輩から小さい掃除機を受け取り、中身をゴミ袋をまとめて捨てる。
そして、空になった本体を手に取る。
「よし、ちょっとこれで。」
そして——
すーーーーーっ。
「な、何してるんですか!?
わたあめが! わたあめがーーー!!」
私の絶叫に対し、
「大丈夫、全部は吸わないから。」
「そ、そういう問題なんですかーー!?」
「まあ、大丈夫じゃない?」
レイさんが適当に返す。
「で、でも……小さくなってきましたね。」
ヌメリー先輩も巨大わたあめを見つめる。
「もういい? 俺ニコチン摂取してきて? いいよね。」
シュウさんは勝手に外へ出て行った。
おい、仕事しろ!
「こんなもんかな。」
ヒカルさんがスイッチを切ると、
わたあめはみるみる縮んでいき——
「だ、大丈夫? わたあめ。」
「平気でーす!」
ふわふわと踊る。
よかった……本当に。
掃除道具を片付け、ようやく終了。
つ、つかれた……。
「お疲れ様、ココロさん。
ココロさんのおかげで無事に終わったよ。」
ヒカルさんが微笑む。
「いえ、わたあめのおかげです。」
肩に乗ったわたあめは、すっかり元の大きさ。
「あの一ついいですか?」
私は手を恐る恐るあげる。
「なにかな?」
ヒカルさんが穏やかに微笑む。
「掃除機に吸い込まれた穢れって、もう暴れたりしないんですか?
さっき爆発しましたけど……」
まだ胸の奥に残る振動を思い出しながら、そっと疑問を口にする。
「ダストイーターもダストサッカーも“中に入った穢れを無力化する”仕組みになってるからね。」
彼は壊れたダストイーターの残骸をつま先で軽く押しながら、肩をすくめた。
「ただ、さっきのは容量が多すぎて、無力化が間に合う前にパンクしちゃったみたいだ。
……まあ、あれは想定外だったけどね。」
軽く笑ってみせるその表情に、ようやく場の緊張がほどけていく。
「ダスト・イーター壊れちゃいましたね〜。」
ニコチン摂取を終えたシュウさんが、
完全に可愛いあざとい青年に戻っていた。
「そ、そうですね……」
ヌメリー先輩も掃除機を見つめる。
ぽっかり穴が空いている。
「スイマクリに見てもらわないとダメね。
ついでに改良してもらいましょうよ。」
レイさんが腕を組む。
「そうだね。」
ヒカルさんが顎に手を当てる。
「あの……スイマクリさんって?」
「まだ会ってなかったっけ?
僕たちが使ってる道具は全部、彼が作ってるんだ。
戻ったら紹介するよ。」
スイマクリさん……
どんな人なんだろう。




