表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵家をクビになった元メイドは、穢れを掃除する異常清掃会社で働きます  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/47

11話 ヤニの匂いは消臭


「と、とりあえず……お掃除終了ですか?」


「匂い取りはおしまい!」


シュウさんが機械のスイッチを止める。


「まずは換気しましょう。」


ヒカルさんが窓を開けると、涼しい空気がふわっと流れ込んできた。


「さて、あとは家具と扉をきれいに。Tar-Purge Ethanolタール・パージ・エタノール滅ヤニ液で拭いていきましょう。」


「タージ?めつやに?」


「タール・パージ・エタノールね、ヤニ汚れの油分を溶かす性質があるんだよ。」


ヒカルさんが丁寧に説明してくれる。


「しかもさ〜、タバコの煙って家具も黄色くなるからね。ちゃんと拭かないと臭いよ。汚いし。俺もよくお世話になってるからね〜。」


シュウさんも拭きながら、軽い調子で言う。


雑巾を見ると——


「ほんとだ! すごい茶色くなりました!」


みんなで手分けして、家具と扉を丁寧に拭き上げていく。


「クンクン……大丈夫だよ〜。落ちてる。」


シュウさんが鼻を鳴らして笑う。


「よし、これで終わりだね。片付けしよう。」


三人で道具を片付けていると——


「ありがとうございました。本当に匂いが取れてます! さすがですね。また何かあればよろしくお願いします。」


伯爵夫人が深々と頭を下げた。


「いえ、また何かお困りごとがあれば遠慮なさらず。」


ヒカルさんが穏やかに微笑む。



伯爵家を出たところで——


シュウさんが、がくんと膝をついた。

何事!?


「だ、大丈夫ですか!?」


「二コ…チンが…。」


「ニコチン?」


臭かったのかな?

私は自分の服の匂いをくんくんしてみる。


すると——


「たりねぇーー。」


「え?」


「あー、もう無理。やってらんねー。早く摂取しねーと。」


……え、だれ?


あの可愛いシュウさんが、突然やさぐれたヤンキーみたいになってる。


「あー、ごめんね。

彼、一定時間タバコ吸わないとこうなるの。」


ヒカルさんが苦笑する。


「えーー……」


「まじ無理。しんど。やってらんねーわ……くっそ……」


こ、こわい。

語彙が完全に別人。


「吸ってきていいよ。

僕たち外のカフェでランチしてるから。吸い終わったらおいで。」


ヒカルさんが指さす。


「さすが〜。

ちょっくら摂取してくるわ。」


……まじで誰。



「とりあえず何か食べようか。」


「はい。」


私たちは念のため服に消臭をかけてから、外のランチ席に座った。


運ばれてきたサンドイッチは、とても美味しそう。


「いただきまーす!!」


もぐもぐ。


「お、おいしい!!」


「それはよかった。

いっぱい食べてね。ここは僕の奢りだから。」


「いいんですか!?」


「遠慮せずにどうぞ。

あ、これも食べてね。」


ヒカルさんは、もう一つのサンドイッチを差し出してくれる。


「ありがとうございます!」


「掃除は体力使うからね。

しっかり食べないと。」


「はい!」


美味しいサンドイッチが、疲れた身体にしみわたる。

わたあめも、ちょこんとテーブルの端でパンくずをつついている。

なんだか楽しそう。



「あの、気になったことがあるんですけど……いいですか?」


「いいよ。」


ヒカルさんはカップをソーサーに戻し、また足を組み替える。


「今回の穢れの原因って、何かあるんですか?」


「うーん……ココロさん、タバコ吸う人って、なんで吸うかわかる?」


「え、なんでしょう? 美味しいのかな……?」


「タバコを吸うとね、ストレス解消、リラックス効果、眠気覚まし、習慣化……まあいろんな理由があるんだよ。

それに、吸ってから約7秒で脳に届くニコチンが“うまい”って錯覚させて、離脱症状と喫煙のサイクルを作る。」


「へぇ〜……」


「つまりね、ストレスを抱えてる時に手を出すと、それが習慣になりやすい。

身体にはよくないけど、その人にとっては“必要なもの”になってしまうこともある。だから一概にやめろとは言えないんだ。」


「はあ……」


ヒカルさんは紅茶をひと口。

湯気がふわりと揺れる。


「たぶん、あそこの主人もストレスを抱えてたんだろうね。

それが積もって、穢れを生み出してしまったのかもしれない。」


「じゃあ……また穢れが発生するかも、ですよね?」


「まあ、そのときにはまた僕たちの出番になるね。」


ニコリとヒカルさんが微笑む。


「そうですね。」


風が吹き、紅茶の香りがふわっと広がる。

私はもう一つのサンドイッチに手を伸ばす。


「それよりも……どう? 仕事。やっていけそうかな?」


ヒカルさんは紅茶のカップを指先で軽く揺らし、

足を組み替えながらこちらを見る。


ほんと、この人……綺麗すぎる。

仕草ひとつで絵になるってずるい。


「はひ!」


「飲み込んでからでいいよ。汚いから。」


……汚いって言われた。

ちょっとショック。


私は慌ててお水をごくんと飲む。


「はい! 楽しいです!

正直、穢れはびっくりしましたけど……頑張ります!」


「そっか。それはよかった。

とりあえず……今度は銃の訓練しようか。」


「あ、そうですね。」


「命中精度低くてびっくりしたから。」


ひ、ひどい。

やっぱりこの人、見た目に反して腹黒い……というか、意外とドSなのでは。


「ど、努力しまーす……」


すると——


「お待たせ〜! わあ! 美味しそうだねー!」


さっきまでの“やさぐれヤンキー”が嘘みたいに、

ふわふわ可愛いシュウさんが戻ってきた。

まじで、人間不信になりそう。


「どうぞ。」


ヒカルさんがサンドイッチを差し出す。


「いただきまーす。」


両手でサンドイッチを持って食べる姿が、

女の私から見ても可愛い。

ギャップ……すごすぎる。

ほんとに同一人物なの?


「あ、そうだ! ココロちゃん。」


「は、はい!」


「銃の使い方、ビックリするほど下手だったから、今度練習しようね。」


う……

シュウさんにも言われた。


「は、はい。ご指導よろしくお願いします。」


私は深々と頭を下げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ