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10話 ヤニの匂いは消臭

部屋に入った瞬間、ヒカルさんがふっと目を細めた。


「さて……と。いるね。」


「いますね〜。タバコの匂いだけじゃない。いや〜な匂い、混ざってます。」


シュウさんが鼻をクン、と鳴らす。


「え、なんですか? お化け?」


私がそう言うと、二人が同時にこちらを見る。

……なんでそんな呆れ顔なの。


「穢れだよ。」

ヒカルさんが淡々と言う。


「さっき奥様が“壁紙を変えても匂いが落ちない”って言ってたでしょ? あれ、怪しいと思ってね。」


「そうそう〜。」


シュウさんは笑いながら、何やら機械を床に置き始めた。


「それ……なんですか?」


「Ozone Destroyerオゾン・デストロイヤー ― 臭壊の蒼霊しゅうかいのそうれい


「なんですか、それ!?悪霊祓いでもするんですか!?」


思わず声を出す。


「強力なオゾンを発生させて、犬や猫、タバコ、カビなんかの匂いの元を分子レベルで分解する機械だよ〜。

ただし、このオゾンは人が吸うとよくないから、基本は無人の場所で使うの。」


シュウさんが丁寧に説明してくれる。


「でも、この部屋には穢れが潜んでる。

だから、出てきたところをちゃんと対処しないとね。」


ヒカルさんが、特殊なマスクとゴーグルを手渡してくる。


「これなら安全な空気のまま作業できるよ。特注品だからね。」


「わかりました!」


私はマスクとゴーグルをしっかり装着した。


「よし、大丈夫だね。あと、これも。」


ヒカルさんが差し出したのは……銃のようなもの。


「えっ……これ、拳銃?」


「Deodorant Gunデオドラント・ガン、臭滅の散弾しゅうめつのさんだんだよ。」


「デオ?ガン…つまり…銃?」


「匂いの元、つまり穢れが姿を見せたら、この銃で狙って撃つんだよ。

浄化する道具だから、危なくはないよ。」


「わ、わかりました……!」


「ちなみに、狙撃経験とかある?」


ヒカルさんが首をこてん、と傾ける。


「いや、ただのメイドがあるわけないでしょ!」


思わず突っ込む。


「まあ、そうだね。」


ヒカルさんはくすっと笑った。



「ヒカルくん、ココロちゃん、準備いいかな〜?」


シュウさんが準備が出来たようで可愛くこちらを見上げる。


「うん、大丈夫だよ。」


「は、はい!!」


私は銃をぎゅっと握りしめた。

見た目は銃だけど、先端には細いノズルがついていて、

中身を霧状に噴射する感じのようだ。


「スイッチ、オン。」


シュウさんが機械のスイッチを押すと、白い煙がふわりと広がる。


しばらくして——


「ヤニヤニヤニー!」


茶色いもやもやした物体が、壁の隙間からどんどん湧き出してきた。


「こ、こわい!!」


「はい、やるよ。」


「さあ、どんどんいこう〜!」


ヒカルさんとシュウさんは、軽やかに銃を構え、

シュッ、シュッと細かい霧を噴射していく。


霧が当たったヤニヤニは、じゅわっと溶けるように消えていく。


す、すごい……この洗剤。


よし、私も——!


しゅっ。


……あ、外した。


というか、意外と動き早いじゃん!!


二人は身軽に動き回って、どんどんヤニヤニを浄化していく。


す、すごい……!


私も負けてられない!


とにかく、数打てば当たるはず!!


しゅっ、しゅっ、しゅっ。


ヤニヤニの数がどんどん減っていく。


……と思ったら。


「あ、一つになるね。」


ヒカルさんが言う。


「じゃあ、強力なのをお見舞いしましょう!」


ヤニヤニたちが一箇所に集まり、

もこもこと巨大な塊になっていく。


息を吐いた瞬間——


く、くさーーー!!


マスク越しでも感じるって、どれだけ強烈なの!?


「 Odor Purge Bazookaオーダー・パージ・バズーカ

臭滅の巨砲しゅうめつのきょほう起動しますね!!

、 ちょっと時間かかりまーす!」


シュウさんが、どこからか大きな“バズーカー”を取り出す。

タンク付きの超強力そう。

ってか、毎回名前長っ!!


「よし、ココロさん。右から追い詰めて。」


「は、はい!」


「一箇所にまとめよう。」


私は必死にしゅっしゅっと霧を放ち、

巨大ヤニーを追い詰めていく。


……が。


しゅっ……しゅっ……

あ、うそ、洗剤切れ!?


「ヤニー!!」


巨大ヤニーがこちらに向かって息を吹きかけようとしてくる。


ひっ……!


その瞬間。


「臭い匂いはあっちいけ! ぺーっ!!」


わたあめが、いつの間にか洗剤を口に含んでいて、

それをぺっと吐きつけた。


巨大ヤニーが一瞬ひるむ。


助かった……!


「ココロさん、大丈夫。下がって。」


スッとヒカルさんが前に出て、銃を構える。


「お待たせしました〜。いきますよー!」


その声と同時に、ヒカルさんが私の手を引き、身をかがませた。


次の瞬間——


「どぉーーん!!」


シュウさんのバズーカから、大量の洗剤が霧となって噴射され、

巨大ヤニーは一気に溶けるように消えていった。


「お、おわった……」


「ふー! 終わったね〜。」


シュウさんが満足そうに笑う。


「さて、と。止めるよ。」


「いや、待って。」


ヒカルさんが急に身構えた。


「え?」


「まだいる。」


「……あ、ほんとだ。

このマスクしてると匂いがわかんないからな〜。ちょっと集中。」


シュウさんは目を閉じ、鼻をクンと鳴らす。


そして——


「みーつけた。」


そう言うと、私の方へ銃を向けた。


「え、えーー!?」


言う間もなく、しゅっと霧が吹きかけられる。


……わたあめに。


ヤニーの穢れが、わたあめの体からふわっと抜けていった。


「わあー! ありがとうです!!」


「いえいえ、ホコリんちゃん。」


シュウさんの発言に思わず、


「わたあめです。その子。」


と告げる。


「あ、そうなの? わたあめちゃんね。」


そして私は気になっていたことを聞いてみる。


「というか……わたあめにその銃かけても平気なんですか?」


ヤニが消えるほど強い洗剤なのに、大丈夫なのかな……?


「大丈夫だよ。

わたあめさんはホコリだから、スプレー類は平気。」


ヒカルさんが優しく説明する。


「ダスト・イーターで吸ったらアウトだけどね〜。」


シュウさんが軽く笑う。

掃除機のことか…。


……いや、それ笑えないから。

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