空白のスペース
「おや。また心拾ってきましたね。」
彼は複雑な機会の中を覗き込んで言った。口元がつり上がっている。
その異変に昨日より驚かない自分がいるのだ。本当に不思議だ。
この怪異を嬉しいなどと今、思っている自分がいるのだ。
ついこの間までの俺には考えられない感情がある。
第二の部品はどうやら嬉しいを教えてくれたらしい。
次の日も、また次の日も欠けた破片を探すようになった。
所々はまっていない虫食いパズルが完成していくのを楽しんで待っている気分だ。
心にあてはまるピースを探している。それは、一番星を見つける事よりも、
四つ葉のクローバーを見つける事よりもずっとたやすいことだった。
穴はほとんど彼女が埋めてくれた。
彼女の織り成す言動のどれもが俺の心の隙間へとストレートに投げ込まれていった。
よく森で遊ぶ事、家族の事、話を聞いているだけでたちまち心はいっぱいになっていた。
野球ボール程の心の穴はもう無くなっていた。代わりに喜怒哀楽その他もろもろ受け取った。
俺と彼女とは、似ても似つかない生き物だ。
でも少し彼女に近づけた気がする。俺は小さく微笑んでいた。
俺と彼女の関係は不思議なもので、特別な感情がある訳でもない。
恋人どうしなんて有り得ない。かと言って、友達でも親友でもない。
どれもこの関係を収める言葉じゃどこか足りない。なんだろ、パーツみないな感じだろうか。
そこにないといけないような。彼女はどうだろう。
奇妙な生き物だと面白がって側に居るだけかもしれない。それでも俺は構わない。
「ねぇ。ここで初めて会った時どうして泣いていたの?」
彼女はふと思い出に浸るように言った。
「うん?どうしてって、やけに嫌な事があって…あれっ。覚えてないや。」
まただ。時々昔の記憶を忘れることがある。正確にいうとあいつが時々不要な記憶つまり、
データを消去しているらしい。だから覚えているはずもなく、
初めから無かったものに等しくなる。彼女は無表情だったが、笑っているようにも見えた。
彼女はとてもこの草原が似合う。今日は、やけにそう思った。




