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心に吹く風  作者: イレ
9/14

オフ

「困りましたね。そろそろデータが一杯になってきました。」


彼はどうやら頭部にあるデータチップのメモリを気にしているらしい。


また何らかの記憶を消しゴムのごとく消すのだろう。


「ほぅ。また草むらへ遊びに行ったのですか。」


データを再生し、それまで俺が見てきた日々を覗きながら彼は言った。


彼には何も隠すことは出来ない。いつも見透かされてしまう。


「おや。この子がお前に心を教えてくれたのですか。これはこれは可愛い兎さん。

お友達ですか?」


ほらまた見透かされてしまった。


「頼む。このデータは殺さないでくれ。」


俺のほんの些細なお願いで最初のわがままだった。


ただ彼女との日々を空白にするのが心の底から怖く悲しい。


感情というのはどうも予測不可能なものだ。涙を流す。


そういった感情を持ち合わせているようだ。目から二回目になるだろう涙が溢れている。


この量の水はどこから出ているんだ。と自分でツッコミを入れたくなる程だった。


「随分と人間らしくなりましたね。」


彼は作りかけの玩具がついに完成したのか嬉しそうにしている。


「なんだよ。何が可笑しい。」


この部屋から空を見上げることが出来ないからだろうか。止まらない涙。


「分かりました。お前がそんなに言うなら…。」


彼は無表情のつもだったらしいが、悲しさが隠しきれていない。


しばらくして「ただし、多少データを消去いたしました。」と言葉を軽く添え、


脳にチップを内蔵した。


「ごめんなさい」


空耳かもしれない。彼の口から心の声を聞いた気がした。


彼の頬は俺と同じように濡れている。


感情というのはどうも予測不可能なものだ。


目を閉じる。



「おやすみなさい。」


そして、電源を切られた。



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