オフ
「困りましたね。そろそろデータが一杯になってきました。」
彼はどうやら頭部にあるデータチップのメモリを気にしているらしい。
また何らかの記憶を消しゴムのごとく消すのだろう。
「ほぅ。また草むらへ遊びに行ったのですか。」
データを再生し、それまで俺が見てきた日々を覗きながら彼は言った。
彼には何も隠すことは出来ない。いつも見透かされてしまう。
「おや。この子がお前に心を教えてくれたのですか。これはこれは可愛い兎さん。
お友達ですか?」
ほらまた見透かされてしまった。
「頼む。このデータは殺さないでくれ。」
俺のほんの些細なお願いで最初のわがままだった。
ただ彼女との日々を空白にするのが心の底から怖く悲しい。
感情というのはどうも予測不可能なものだ。涙を流す。
そういった感情を持ち合わせているようだ。目から二回目になるだろう涙が溢れている。
この量の水はどこから出ているんだ。と自分でツッコミを入れたくなる程だった。
「随分と人間らしくなりましたね。」
彼は作りかけの玩具がついに完成したのか嬉しそうにしている。
「なんだよ。何が可笑しい。」
この部屋から空を見上げることが出来ないからだろうか。止まらない涙。
「分かりました。お前がそんなに言うなら…。」
彼は無表情のつもだったらしいが、悲しさが隠しきれていない。
しばらくして「ただし、多少データを消去いたしました。」と言葉を軽く添え、
脳にチップを内蔵した。
「ごめんなさい」
空耳かもしれない。彼の口から心の声を聞いた気がした。
彼の頬は俺と同じように濡れている。
感情というのはどうも予測不可能なものだ。
目を閉じる。
「おやすみなさい。」
そして、電源を切られた。




