7/16
第七夜:勿忘草の花束を/幸福な王子
【勿忘草の花束を】
さよならは言わないでください。
そんなさみしいひとことで、今までのあなたとわたしを消さないで。
勿忘草の花束と、「ご機嫌よう」で別れましょう。
いつか会えると思いながら、わたしとあなた、思い出にしたほうがきっと明るく生きていけるわ。
それではあなた、ご機嫌よう。
可愛いあのひととお幸せにね。
ーーー
【幸福な王子】
幸福な王子が幸せだったのは、ひとに分け与えられる「価値」を彼自身が持っていたことと、ツバメという理解者がいたことだ。
私にはルビーもサファイアもないから、別の価値を差し出すしかない。
例えば、寂しいと嘆く誰かのための、一夜限りの相手になるとか。
それなのにどうしてだろう。それでよかったと思うのは一時のことで、いつもその後に酷い後悔に苛まれる。
季節が戻ったような嵐を避けて古いデパートに入った。
待ち合わせまで三十分、時間を潰すにはちょうど良かった。
ゆっくりと降りてくるエレベーターの数字を目で追いながら、私は幸福な王子を羨ましく思った。
私が死んでも、きっとあの王子のように鉛の心臓が残ることはないだろう。
本当に相手のためになる幸福は、鎮痛薬にもならない一瞬の快楽とは違う。
本当は分かっている。
分かっているのだ。




