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第十三夜:幸せ恐怖症/兎
【幸せ恐怖症】
もっと自分を大切にしなよ、と言った彼の目と声がひどく真剣だったものだから、私はうつむいて自分の指先を見た。
問題の解き方が分からないことを責められているような気がした。
と同時に、このひとは問題の解き方が分かる人なのだなと思った。
彼は私を抱き寄せて言う。「幸せになっていいんだよ」と。
私はそれをぞっとする思いで聞いた。幸せ。なんて恐ろしい言葉を使うのだろう。自分の目が泳ぐのが分かった。
それを必死に押し殺して、「ありがとう」とだけ伝えた。
笑った私の顔はきっとぎこちない。
幸せ。そうだ、彼からも早く離れなくては。
優しく微笑む彼の顔を、私は悲しい気持ちでそっと撫でた。
ーーー
【兎】
兎って寂しいと死んじゃうらしいよ、と君は言う。
それ、俗説だよ、と僕は返す。
窓際に小さな雪兎を作りながら、君は肩を揺らして笑った。
暖かい病室。白いベッド。雪の降る窓辺。泣いて目を腫らした細い君の肩。
大丈夫。俗説だよ。兎はそんなに簡単に死なない。
だから、君もきっと死なない。




