第十夜:ガラスの靴/言葉の檻
【ガラスの靴】
少し変わった形のガラスの靴は、少し変わった形の私の足によく合う気がした。
その靴があればどんな場所にも行ける気がした。実際、靴は私に様々な景色を見せてくれた。僅かな足の痛みには気付かないふりをし、私はその靴を履き続けた。
痛みは徐々に広がっていった。足先から始まったそれは、やがて足全体を苛むようになった。見ると、靴にうっすらと血がにじんでいる。それでもこの靴でしか歩けないのだからと自分に言い聞かせた。
ある日、私は靴を履かずに歩いてみた。そっと地面に足をつける。そうして気づいた。気づいてしまった。
靴がない方が歩きやすいことに。
私はじっと考えた。そうしてガラスの靴をお店に返すと振り向かずに歩きだした。
あの素敵だった靴はきっと、また別の誰かのお気に入りになるだろう。
ーーー
【言葉の檻】
信じているよ、と言った僕の声を彼女はどう聞いただろう。僅かに彼女の方が震え、目線が下を向く。
それから、僕の機嫌を窺うようにちらと上目遣いをしてすぐに逸らした。僕はそんな彼女をじっと見つめている。
ああ、そんなに怯えて。可愛いなあ。
喫茶店の中、僕達の目の前に置かれた珈琲が熱を失っていく。ぬるい珈琲を一口。彼女は一度も口をつけていない。
昨日、彼女が別の男と話しているところを偶然僕が見てしまった。僕はそれを咎めるつもりはない。ただ、檻の存在を思い出してもらうだけ。二人の間にある、言葉でできた檻の存在を。
信じているよ、と再び口にする。数秒の後、彼女は小さく頷いた。檻に捕らえられた彼女の姿を想像して、僕はやっと小さく微笑んだ。




