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6.

「エメリーネ様が私に受け取るよう命じられたのです。中身を確認し、問題がないとわかってからでなければ、エメリーネ様にお渡しすることはできません……それを拒むなら、受け取れません。それがエメリーネ様の命令です」


 シーラが一気に言葉にすると、アルマスは一瞬たじろいだ。

 このやりとりは彼にとっても予想外だったに違いあるまい。


 一度目の人生では、無知なエメリーネが喜んで受け取り、その場でリボンを解いた。アルマスからの贈り物は首飾りで、彼の瞳と同じ苔色の宝石が埋め込まれていたのだ。


 もちろん当時のエメリーネはその理由など知るわけがない。アルマスに言われるがまま、その場で首飾りをつけられ、そして肌をべたべたと執拗に触れられた。


 こうやって思い出すだけでも不快極まりない。

 彼に肌を触られるなど、この人生であってはならない。


 だからエメリーネは、自室からアルマスの執務室へと向かう間、シーラに命じていたのだ。いくらアルマスからの特別な贈り物といっても、中身のわからぬ物は決して受け取らない。だから、シーラが確認したうえで、受け取りたいと。


 もちろんシーラはそれに同意するし、むしろそれが本来の手順だとまで口にする。だがシーラとしてはアルマスには逆らえないため、エメリーネから命じてほしいと。


 そこでシーラも何かを決意したかのように表情を硬くした。


 王妃が亡くなってからというもの、エメリーネにそういったしきたりを教えてくれる者はいなくなってしまった。

 家庭教師は社交や周辺諸国との表面的な関係を教えるだけ。思い返せば、エメリーネに深い知識をつけさせないよう、表面だけの教育だった。


(だから、悪女に仕立て上げられた。お母様が亡くなってからは、アルマスの言いように操れるようにと、わたくしは学ぶ機会すら奪われていたのだわ)


 教皇たちに決意を示したあの日以降、聖堂で祈りを捧げるように見せながらも、そういった教育を施してくれたのはベルトルトと彼の父だった。短い時間ながらも、彼らは濃密な知識と助言をエメリーネに授けてくれた。それを今、生かすときが来た。


 アルマスには屈しないという思いが、あらためてエメリーネの心に宿る。


「では、こちらをエメリーネ様に」


 観念したのか、アルマスは渋々シーラに箱を手渡した。とその瞬間、彼をまとう空気は赤から黒に戻る。


「では、この場で中身を確認させていただきます」


 凜とした口調で、シーラはアルマスに許可を求めた。


 アルマスは何も言わなかったため、シーラがそのままリボンを解く。

 箱の中から出てきたのは、やはりアルマスの瞳の色と同じ、苔のような色の宝石が埋め込まれた首飾りだ。シーラはそれを持ち、毒針や毒の仕込みがないか確認する。


「エメリーネ様。こちら、特に問題はございません。このまま、受け取りますか?」

「ええ、そうね。せっかくのアルマスの好意ですもの。いただきましょう。ありがとう、アルマス」

「いえ。このたびは、十七歳の誕生日、おめでとうございます。可能であれば、その首飾りをつけてパーティーに出席していただければと思いますゆえ」

「それは、わたくしが決めること。あなたの指図は受けません。……行くわよ、シーラ」


 必要な物は受け取った。


 アルマスの執務室を去るエメリーネの背に、ヒリヒリと鋭い視線を感じたが、後ろを振り返らなくてもわかる。その視線の主はアルマスだ。


 彼はエメリーネを無知な王女だと思っていたのだろう。その悔しさが伝わってくる。


 エメリーネは勝ち誇った笑みを浮かべて、自室へと足を向けた。


 しかしそれよりも、アルマスにつきまとう黒いものはいったいなんなのか。


 帰り際、秘書官にチラリと視線を向けたときは、彼は灰色の空気に囲まれたままだった。

 なぜ、突然そんなものが見えるようになったのだろうか。


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