54.
黒く染まった空にはいくつもの星が瞬き、ひんやりとする夜風は火照った頬に心地いい。
「実は、今日。オディロンから頼まれましてね。友人の頼みとあれば断れないと、こちらに参加させていただきました」
「本日は、遠いところ足を運んでいただき感謝いたします」
「いいえ……それよりもオディロンから、面白い話を聞いたのです」
オディロンの面白い話とは嫌な予感しかない。もしかしてエメリーネの失敗談を、レジスにまで言いふらしているのだろうか。
「一人の夫人が珍しい首飾りをつけていましたね。どうやらそれがガレッティ国の王妃様が所有していたものと似ているという話です」
「クロック公爵夫人ですね。わたくしもあの宝石を見たとき、母が似たようなものを持っていたのを思い出したのです。それで、母の宝飾類を確認したのですが……」
「なくなっていたのでしょう? オディロンから聞きましたよ」
星明かりの下、レジスがニヤリと楽しそうに笑った。
「エメリーネ王女、なかなか面白い……いや、失礼。大変なことになっていますね。僕もその話を聞いたときは、耳を疑ったものです。あの宝石は光りの加減によって色が異なって見える珍しいものでしてね。ジオグ国で採れる石を使っているのです」
「では、クロック公爵夫人はわざわざジオグ国で買い付けたと?」
「違うと思いますよ」
口調は丁寧なのに、どこかオディロンを彷彿とさせる言い方だ。
「ただ、夫人がつけている宝石は、僕の母が君の母親へ贈ったものとよく似ています。この世に二つとないものだと聞いていたのですがね」
「そのような珍しいものを、わざわざ宝物庫から盗んでクロック公爵夫人が身につけるでしょうか……?」
珍しいものだからこそ、国内で売買したら目立つだろう。まして盗んですぐに身につけるなど、自分が盗みましたといっているようなものだ。
「ということは、夫人は知らずにその宝石を手にした……とか? どこか遠くに売り払ったのに、巡り巡って夫人が手にしたというのも考えられるのでは?」
国外に宝飾類を売りさばくような人物は一人しか思い浮かばない。
「おっと、エメリーネ王女。その顔は、犯人に心当たりがあると言っているようなものですね」
星光に照らされるレジスは、恍惚とした笑みを浮かべていた。
交流パーティーが終わったエメリーネは、着替えと湯浴みを終えると、その身体を寝台に沈めた。今日はたくさんの男性と踊ったせいか、身体が重くて足も痛い。
そのまま横になって、パーティーでの出来事を思い返す。
レジスが言うには、クロック公爵夫人が持っている首飾りは母妃のもので間違いない。そしてそれを盗んだのはアルマスだろう。理由はもちろん、金にするため。
だがアルマスはどこに売ったのだろうか。クロック公爵夫人はどこでそれを手に入れたのか。考えたところですぐに答えが出てくるわけではなく、やはりここはオディロンに相談したいところである。
(それよりも、今日のアルマスは少し様子がおかしかったわね……)
エメリーネとのダンスの途中によろめいたのだ。何ごとにも万全を期すような彼が、あんな失態を見せるなんて珍しい。
(もしかして、お茶のせい……?)
エリナが言うにはどうやらアルマスは、毎日、シナモンティーを飲んでいるらしい。しかも一日に何杯も。
エメリーネが茶を定期的に届けさせ「アルマスの健康を思って……」という言葉を添えているのが理由かもしれない。
アルマスはいかにしてエメリーネを手に入れようか、考えているのだ。つまり、今はまだ、エメリーネを力尽くで手に入れるよりも、エメリーネからアルマスに寄り添うのを待っている状態。ここで彼が業を煮やせば、前の人生と同じ道を辿るかもしれないが、今のところその様子は見えない。エメリーネがアルマスを褒めるたびに、デレデレと表情をゆるめるのがその証拠だろう。
それにしても、オディロンはなぜレジス王太子を連れてきたのだろうか。
そう考えると、無性にオディロンに会いたくなってしまった。




