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53.

 振り返ると、そこにはオディロンと一緒にいた男性が一人で立っている。オディロンが言うには、目の前の彼は他国からの客人である。月の光を紡いだような金色の髪、夏の森を思わせる深い緑色の瞳は、ひと目見ただけで息を呑むほど美しい。


「あなたは……?」

「こうしてお会いするのは初めましてですね。ジオグ国から参りました、レジスと申します」


 胸元に手を当てるレジスは気品に溢れており、彼の背後には緑色のオーラが見えた。だが、それはものすごく薄いものだ。


「私と一曲、踊っていただけますか?」


 エメリーネがこうしてレジスと顔を合わせるのは初めてである。誕生日パーティーに来たのは、彼の両親、すなわちジオグ国の国王夫妻であって、レジスはいなかったのだ。


「喜んで」


 エメリーネがレジスの手を取ったところで、ざわりと周囲が騒がしくなった。


「ジオグ国の……」「王太子……」とささやき声が聞こえてくる。


「お顔を存じ上げず、申し訳ありません」


 エメリーネが苦笑しつつ謝罪の言葉を口にすれば、彼もまた穏やかな笑みを浮かべる。


「先日のパーティーにも出席したかったのですが、その日は都合が合わなかったもので。今日、このような催しものが開かれると聞いて、ベルジュ公爵に誘ってもらったのです」

「ベルジュ公爵とは仲がよろしいのですか?」


 オディロンが彼と懇意にしているとは聞いているが、エメリーネがあえて尋ねたのは、レジスとの会話を盛り上げるためでもある。


「ええ、そうですね。年も近いせいか気が合って……そういえば、オディロンのやつ、エメリーネ王女のことをよく言ってますよ」


 レジスの口調が崩れた。その言葉からもレジスとオディロンの関係が想像できる。


「まぁ、ベルジュ公爵ったら、いったい何をおっしゃっているのかしら……」

「彼は、あなたを心配していましたよ」


 まるですべてを見透かすような笑みに、エメリーネはドキリとする。いったいオディロンは何をどこまで彼に伝えているのだろうか。


 レジスと踊り終えると、侯爵家の嫡男がエメリーネに声をかけてきた。一人と踊り始めると、また一人、また一人と声をかけてくる。


 さすがに何人も続けて踊ったエメリーネは疲れを覚え、やんわりと断りを淹れて、休憩をとる。飲み物を手にしてほっと息をつくと、オディロンがレジスをつれて近づいてきたせいか、他の者は遠目で様子をうかがっていた。


 アルマスは夫人たちに囲まれているようで、エメリーネが一人になったことに気づいていない。


「エメリーネ王女」


 オディロンに声をかけられ、エメリーネは笑顔を向ける。


「紹介した人がいるのですが……とはいえ、先ほど、彼とも踊っていたようですね」


 レジスの前か、オディロンの口調も丁寧なものだ。この彼の役作りに、エメリーネは心の中で噴き出しそうになるのを堪えた。


「はい。ジオグ国のレジス王太子ですよね」

「覚えていただき光栄です」

「大げさですわ」


 エメリーネが口元に手を当てくすりと微笑めば、周囲のざわめきがいっそう強くなる。


 どうやら彼らは、エメリーネがどちらを選ぶのかということに興味津々らしい。

 自国の若き公爵オディロン・ベルジュか、友好国ジオグ国の王太子レジスか。


「ジオグ国は母の母国ですので、以前からお話をうかがいたいとは思っていたのです。ただ、今まではそういった機会がなくて……」

「深窓の王女様だからな」


 ぼそりと呟くオディロンに、エメリーネはキリッと鋭い視線を向ける。


「なるほど。君たちはそういう仲なのか。これは友人として応援するしかないな」


 大口を開けて笑うレジスは、親しげにオディロンの背をバンバンと叩く。


「レジス、エメリーネ王女を任せていいか?」

「なんだ、猫をかぶるのをやめたのか?」

「おまえたちの前でかぶる必要はないだろ? 俺はあっちに用事がある。王女様はジオグ国の話を聞きたいらしいからな。きっちり教えてやれよ」


 レジスの耳元でささやくように伝えたオディロンは、ベルトルトたちが集まる場所へと足を向ける。


「エメリーネ王女。この場は少々騒がしいようなので、少し涼みにいきませんか?」


 オディロンがその場を離れ、エメリーネがジオスの手を取ったことで、また人々の注目を浴びる。だが、人の視線なんて慣れたもの。


 レジスと共にバルコニーへ向かおうとすれば、視界の片隅にぶわっと大きく膨らむ黒いオーラが見えた。


(アルマスね……)


 やはり彼はエメリーネが他の男性と親しくする様子が気に食わないらしい。そのわりには交流パーティーを提案したわけで、つまりアルマスはこのパーティーでエメリーネとの仲を見せつけようとするつもりなのだろう。


 バルコニーへ向かう途中で給仕から飲み物を二つ受け取ったレジスは、外に出たところでそのうちの一つをエメリーネに手渡した。


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