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47.

「お父様、聞いてください。わたくし、先日、孤児院に行きましたの。そこで子どもたちに絵本を読んであげたのですが……子どもたちってかわいいのですね」


 父王の執務室でエメリーネが顔を輝かせて国王に話しかけると、国王もまた「そうか、それはよかったな」と笑顔で返す。


 エメリーネが国王の居室を訪れ、共にお茶を飲むようになってからというもの、次第に父は動けるようになっていた。今では執務室にも足を伸ばし、簡単な仕事から再開しているらしい。


 もちろん国王の執務室にはアルマスの姿もあったが、エメリーネが訪れると父はアルマスに下がるよう指示を出す。しかしエメリーネの侍女や補佐官に対してあれこれ口を出す素振りはなかった。


 だからシーラとエリナは部屋の隅に立っていて、エメリーネが呼べばすぐに駆けつけてくれる。といっても、ここでは父王とお茶を飲むくらいなので、二人の出番はこれといってない。ただ、この場ではエメリーネがお茶を淹れるため、二人はヒヤヒヤした様子で見守っているくらい。


「お父様。こちらは、カモミールティーです」


 これはエリナがすすめてくれたお茶だ。だが、エメリーネもよく飲んでいたお茶でもあった。母妃を失い、冷えてしまった心を、あたためてくれたお茶だ。


 またハーブティーには体内から老廃物の排出を促してくれるものもある。今までの父王の具合を見れば、何かしら身体の中に悪いものがとどまっているのは明確であった。


「エメリーネが淹れるお茶は、格別に美味しいな」


 いつもどこか陰っていたその笑顔も、今は心からのものに変わっている。まるで、母が生きていたときのような、その笑顔。


 父王は愛する者を失ったがため、心にぽっかり穴が空いてしまった。その穴を狙ったのがアルマスであり、彼はまた父王の心に穴を空けた張本人でもある。


 王妃を失えば国王は腑抜けになると、わかっていたのだろう。


 つい数日前、エメリーネは告解室で粗野なテレジア神から報告を受けた。


『まず、陛下が飲んでいた茶葉だが……』


 オディロンがそこで躊躇いを見せたのは、きっとエメリーネの気持ちを考えてのことだろう。事実を告げたところで、心に傷を負わないか。


『やはり、毒でも混ぜられていたのかしら?』


 エメリーネが言葉の先を奪えば、小さな窓の向こうで彼が息を呑んだのがわかった。


『知っていたのか?』

『そうかもしれないと思ったから、あなたに頼んだのよ?』

『なるほど。そこまで俺を信頼してもらえるとは光栄だな。だがな、俺からの報告はこれだけではない』


 そこでオディロンは、アルマスの所有する鉱山から採掘される鉱物に、人体にとって毒になる成分が含まれていると口にした。


『鉱物が毒になるのですか?』


 鉱物は、加工されてさまざまなものに利用されているというのに、それが毒になるというなら驚くしかない。


『それが溶け出て地面にしみこみ、さらに水を汚染する。その水を口にした作業員たちが、体調を崩していたようだ。水を調査したら、珍しい成分が検出され、それが鉱物によるものだとわかったんだ』


 エリナが聞いたら「私が調べたかったのに~」と言いそうな話である。


『そしてその成分が、陛下が飲んでいた茶葉からも検出された』

『つまりあなたは、アルマスが父に毒を盛っていたと、そう言いたいのね?』


 オディロンは前々からアルマスが国王と王妃に毒を盛っているのではないかと疑っていて、それが確信に変わっただけ。


 そして今から三年後に父王が亡くなったことでベルトルトも怪しんだのだ。


『これだけ証拠が見つかれば、アルマスを今の地位から引きずり下ろせるかしら?』


 エメリーネの発言に、オディロンが空気を震わせた。くくく……と笑い声が聞こえてくる。


『世間知らずの王女様は、なかなか勇敢になったな』

『だって……あなたが頼れと言ったのよ? わたくしの力だけでは無理よ。もちろん、あなたにも手伝ってもらうわ』


 小さな窓の向こうで、オディロンは小さく笑っていたようだが――。


「お父様。先日、わたくしの結婚について相談しましたでしょう?」


 カップを持つ父の手がピクリと震えた。答えを焦らすように、ゆっくりお茶を飲み、静かにカップを戻す。


「エメリーネも社交デビューをした。となれば、婚約の話が出てもおかしくはないな」


 幼いころから家同士の縁で婚約者が決まっている者も多いが、王族はその相手にはそれなりの条件を求めるため、社交の場に立つようになってから決めることが慣例であった。父も母と出会ったのは、政務に携わるようになってジオグ国を訪れたとき。


「お父様、わたくしにぴったりな結婚相手を考えましたの」


 両手をパチンと叩いて、まるで名案だと言うような素振りを見せる。


「ほう? エメリーネからそう言うとは思ってもいなかった。して、その相手は?」


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