39.
エリナと一緒にお茶会の準備を進めていたエメリーネだが、それを知ったラモン伯爵夫人や他の侍女たちも手伝ってくれた。
さらにお茶会の前日には、灰色のオーラを背後にまとわせるアルマスが、執務室へとやってきたのは、様子を探るためだろう。
「明日の招待客を確認してもよろしいですかな?」
彼はこの城のできごとをすべて把握していなければ気がすまないにちがいない。
「えぇ、どうぞ」
エメリーネがにこやかに答えて名簿を手渡せば、アルマスのオーラは黒っぽい緑色に変化する。彼の場合、純な緑や黄色にならず、オーラはいつも黒ずんでいた。
「エメリーネ様。こちらの招待客はいったいどういう基準でお選びになられたのですか?」
「わたくしの誕生日に、素敵な贈り物をしてくださった方たちよ? 何かおかしなところがあったかしら?」
アルマスは一人一人の名を確認しているのかじっくり名簿に視線を這わす。
「よろしいかと思います。特にこちらのクロック公爵家には、エメリーネ様と年の近いご令嬢がおります。話し相手として登城させてはいかがでしょうか?」
「では明日、公爵夫人に確認してみます」
「それがよろしいでしょう」
アルマスのオーラは濃い緑色のままだった。最近では、エメリーネと話をしていると、その色を変えることが多い。そしてたいてい、部屋を出ていくときには、そのオーラは黒っぽい黄色や、緑色になっていた。
アルマスがいなくなったところで、エメリーネは緊張の糸をゆるめ、深く息を吐く。すぐにシーラがお茶を用意してくれたが、エリナは「相変わらず、気味の悪い男ですね」と誰に言うわけでもなく、ぼそりと呟いた。
茶会の日は、朝からすっきりした青空が広がっていた。雨であればサロンで行うことも考えていたが、これだけさわやかに晴れているなら、庭園で行っても問題はないだろう。
時間が近づくにつれ、招待客が次から次へと姿を現す。
「本日は、お招きいただきありがとうございます」
親と同年代の夫人たちが、次から次へとエメリーネに挨拶を交わす。シーラとエリナは、夫人たちを席へと案内する係だ。この席順も、昨日、エリナやラモン夫人と相談しつつ決めたもの。
今回の招待客の中で、一番の大物はクロック公爵夫人だろう。彼女の席をエメリーネの近くにし、その周囲をアルマス派の家門、そして反アルマス派の者はエメリーネから遠い席になるが、それは他で補えばいい。
「みなさま、本日はお集まりいただきありがとうございます。至らない点も多々ありますが、どうぞ今日は楽しんでいってください」
エメリーネが軽く挨拶をし終えると、給仕係の侍女たちが、お茶をついでまわる。
「こちらは、最近のわたくしのお気に入りのお茶なんですの。ハーブティーの一つで、シナモンティーと呼ばれています。少しクセのあるお茶ですが、蜂蜜を入れても美味しく飲めます」
エメリーネの説明に驚いているのは、遠い場所に座っているカウフ子爵夫人だ。
「こちらのシナモンは、お菓子に使っても美味しいんですよ。さらに健康にもよくて、わたくしもこちらのお茶を飲み始めてから、冷たかった手足の先があたたまるようになってきたのです」
そこでエメリーネがカップを手にしてゆっくり飲み始めると、他の者もおずおずと手を伸ばす。
「変わった香りですけども、ぴりっとした刺激に甘さが交ざって、美味しいですわね」
そう言ったのはクロック公爵夫人で、アルマス派の者たちはそれに同調するかのようにうんうんと頷く。
「蜂蜜をいただいてもよろしいですか?」
クロック公爵夫人が蜂蜜の瓶を手にして、匙一つ分をカップの中にたらした。すると、やはりアルマス派の夫人たちはそれを真似する。
エメリーネはその間、招待客の一人一人にさっと視線を巡らせた。
オーラが見える者と見えない者。その条件は、アルマス派の家門か、反アルマス派の違いとみていいだろう。
(この力、本当に便利だわ)
オーラのおかげで誰がアルマスと繋がっているかはわかったが、その者を露骨に無視するわけにもいかない。ただ、反アルマス派の家門とは親しくしておきたいので、タイミングを見計らって声をかけよう。
そこから話題は慈善活動へと移った。エメリーネも政務の一つとして社会奉仕に携わりたいのだが、何をどこから始めたらいいのかわからないと正直に口にすれば「エメリーネ王女は、とても謙虚なのですね」と前置きをしたクロック公爵夫人がべらべらとしゃべり始める。
てっきり孤児院への慰問を勧められるのかと思いきや、公爵夫人は教育施設の支援を行ってはどうかと提案した。他にも劇場や、芸術家への支援など。
それは慈善活動ではなくパトロンではないかと思ったが、エメリーネは笑顔を崩さず、夫人たちの話に耳を傾けていた。
クロック公爵夫人の話が途切れたところで、エメリーネは「他の方ともお話をしてきますわね。公爵夫人もわたくしに気を使わず、お過ごしください」と、王女の自分がいては気も休まらないだろうからと、そんな含みを持たせて立ち上がった。




