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34.

「お茶会?」


 エメリーネが小さく首を傾けると、エリナは「はい」と元気よく答える。


「エメリーネ様は社交デビューをしましたので、これからは社交界にも積極的に顔を出していく必要があります。その中で、エメリーネ様の味方となるような女性を増やしていきましょう」


 まるでオディロンが言いそうなことだ。


「王妃様もお亡くなりになってしまったので、それ以来、こちらの王城でお茶会などは開かれておりません。だけどご夫人たちは、美味しいお茶と噂話が大好きです。王妃様が亡くなってからは一年以上も経っておりますから、エメリーネ様の名前で茶会を開いても何も問題はありません」


 エリナの話を聞きながら、エメリーネは顎を指で軽くつまんだ。


「だけど、わたくしが突然、お茶会を開いたら、不思議に思う者もいるのでは?」


 もちろんその筆頭がアルマスだ。


「まぁ、そう思う人もいるかもしれませんが……お茶会を開く理由なんて、なんでもいいんですよ。面倒くさい人たちを納得させるなら、誕生日の贈り物の礼を兼ねてとか言えばいいんじゃないですか?」


 なるほど、と思いつつも、やはりエメリーネの頭の中では、アルマスをどう言いくるめようかと考えている。


「贈り物のお礼状は書き終わっていますよね?」

「えぇ……」


 ベルトルトから母のお礼状の話を聞き、それを模してなんとか書き上げ、アルマスに確認してもらったのだ。もちろん、そのときのアルマスからは不満が溢れ出しそうになっていたが。


「でしたら、贈り物のお礼にお茶会に招待しますと、そんな感じでいいのでは?」

「わかりました。目録から、招待する家門を選びます」

「そうですね、それがいいですね。ところでエメリーネ様」


 エリナがきらりと瞳を光らせる。


「貴族名鑑はどこまで覚えましたか?」


 貴族名鑑とは貴族の名前や地位、さらに歴史や特権まで記載されたものであり、本来であればエメリーネもこれを読み、覚える必要があった。


 しかし、一度目の人生では、貴族名鑑そのものを目にしたことがないし、それを見て覚えるという発想もなかった。


 女王に即位してからは、謁見の際には必ずアルマスが側にいて「あの者は……」「あちらは……」と耳打ちしてくれたからだ。つまり、貴族の顔を知らなくても、アルマスが教えてくれるから何も問題はなかったのである。

 だが、今になってそれが問題だらけだったというのがよくわかる。アルマスが教えてくれた情報は、アルマスにとって都合のいいものばかりだったからだ。


 そのためエメリーネは、最終的にラモン伯爵まで処刑してしまった。

 けれども今回は、そのような失態をするつもりはない。


「恥ずかしながら、貴族名鑑に目を通したことはありません」 


 一瞬、動きを止めたエリナだが、エメリーネの言葉をかみ砕くように目をパチパチと瞬いてから口を開く。


「それは、エメリーネ様が勉強嫌いだから……というわけではありませんね。勉強嫌いなら、今だって恥ずかしながら、という言葉は出てきませんから」

「今までのわたくしがどれだけ無知で世間知らずだったか。その自覚はあります。だけど、このままではいけないと思って……」

「補佐官を選ばれたのでしょう? ベルジュ公爵からうかがっております。私はエメリーネ様を助けるようにと、ベルジュ公爵から言われておりますから」


 エメリーネをバカにするわけでなく、己の役目をわかっているエリナは間違いなく信頼できる。


「それにエメリーネ様。私も嫌いなんです」


 いきなり嫌いと言われても、その嫌いなものにエメリーネは心当たりがない。もしかして、彼女は貴族名鑑を覚えるのが嫌いなのだろうか。


「何を?」

「アルマス・タルボット宰相閣下です」


 右手をぎっと握りしめたエレナはそれを振り回しながら声を大きくした。


「あの人のせいで、私は軍にいづらくなったんです。何かあるとすぐに『これだから女は』って。あの人は第二師団、私は第一師団。別に私はあの人の部下ではなく、ベルジュ公爵の部下なんですよ。ほんと、何度、あの人の食べ物に毒を仕込んでやろうと思ったことか……でも、証拠が見つかればベルジュ公爵に迷惑をかけると思って耐えていたんですけど」


 エリナは個性が強いとオディロンも言っていたが、ここまでアルマスに対する敵意をはっきり口にする者は珍しい。


「リナ、それを他の人には言っていないわよね? その、アルマスに毒をって……」

「言ってませんよ。あそこで宰相閣下を話題にしたら、どこでどう話が湾曲して伝わるかわかりませんから」

「でも、第一師団の師団長はベルジュ公爵でしょ?」

「ええ、でも私たちは好きでそこに配属されているわけではありませんから。配属先がたまたま第一師団だった。私はそんな感じですね。いや、もしかしたら宰相閣下が嫌がらせで、私を第一師団に配属させたのかもしれませんが。使えないお荷物の女性軍人は、第一師団にって。第一師団って、他よりも女性軍人の数が多いんですよ」


 いくら訓練を重ねても、体力的に女性のほうが男性よりも劣ってしまう。その体力の劣る女性を多めに第一師団に配属させることで、第一師団の戦力を削いでいたと考えたら――。


 アルマスならやりそうなことだ。


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