27.
「一人はアルマスが推薦してくださる方にしようと思って。もう一人は、わたくしに近い人。となれば、ラモン伯爵と懇意にされている方がいい。そう考えたときに、思い浮かんだのがあなたの婚約者だったの」
「ただオウネル侯爵家は……」
「もちろん、あなたの話を聞いて、わたくしが決めたことよ? 本来であれば、もう少しヨハン・オウネルという人を調べてから決めたいところだけれど、今のわたくしが誰か特定の人物を調べるとなれば、勘のいい人は気づくでしょう?」
エメリーネが補佐官を求めているという話は、アルマスから他の者たちにも伝わっているだろう。
「シーラから見て、ヨハン・オウネルとはどのような方?」
「そうですね……」
シーラの声が穏やかなものにかわり、エメリーネの髪を丁寧に編み込んでいく。
「よくも悪くも真面目な方です。だから父も、彼にラモン伯爵家を任せようと思ったのかと」
「えぇ。よくわかったわ。あなたは、ヨハンが好きなのね」
「え、ええ? エメリーネ様。な、なんで……あ、申し訳ありません。御髪が……」
シーラが慌てたため、髪が少し乱れてしまった。すぐにブラシを手にし、もう一度梳き始める。
「ゆっくりで大丈夫よ。だけど決めました。ラモン伯爵が信頼を寄せている人物なら、わたくしの補佐官にもふさわしいでしょう。それに、王女の補佐官っていう肩書は、けっこう使えると思うのだけれど?」
エメリーネに指名されたヨハンも鼻が高いだろう。
「そうですが……もったいないお話です」
だが、ラモン伯爵家がエメリーネと懇意にしているというのは誰でも知っている話だ。その娘の婚約者が補佐官に望まれたとなれば、心ない言葉だって届くかもしれない。
「そのような言葉に負けていたら、エメリーネ様の補佐官なんて務まりませんよ」
シーラの言葉が心強い。これで、補佐官候補一人が決まった。ヨハンはテレジア神が言うところの敵も味方でもない者。アルマスに援助を受けている家柄の者だが、シーラの婚約者。板挟みのように見えるかもしれないが、ヨハン本人はさほど気にしないだろう。むしろ、アルマス側の人間がいれば、少しは気を許すのではないだろうか。
着替えをすませたエメリーネは執務室へと足を向ける。これから数日は、贈り物に対するお礼状を用意することで時間はつぶれるだろう。
その合間に聖堂に足を運び、テレジア神に祈りを捧げ、教えを乞うつもりだ。
「エメリーネ様、こちらのお礼状は素晴らしいですね」
そう言って笑顔を向けてくるのはアルマスだ。内容を確認してほしいと、エメリーネが彼を呼びつけた。
「そうかしら? ありがとう。あなたにそう言ってもらえたら安心します」
先日、ベルトルトから聞いた内容を、そのまま文章にした。見本を手にして内容を確認するアルマスの様子を観察していたが、一瞬、彼のオーラは紫色に変化したものの、灰色のまま黒く戻ることはない。
「この内容はどちらで学ばれたのですか?」
アルマスの声には、探るような響きがあった。エメリーネは無邪気に笑った。
「あら? アルマスが母のお礼状が見つからないから代わりにって、参考となる本を置いていってくれたでしょう? それを見たのよ」
アルマスが本を置いていったのは事実。だがそれは一般的な手紙の書き方といった内容で、王族のお礼状としては稚拙なものでもあった。アルマスはエメリーネが知恵をつけるのを恐れているのだ。
「さすがアルマスね。とってもわかりやすい本をありがとう」
「いえ。本の内容からここまで書けるのは、エメリーネ様の実力ですよ」
にこやかに笑っているアルマスだが、オーラが灰色に黒が混じってまだらになっている。やはりやりすぎはよくない。ほどよく無知を装う必要がある。
「それからアルマス。補佐官の件ですが、わたくしからも一人、推薦したい方がおりまして」
「はて? それはどなたですかな?」
「ヨハン・オウネルをご存じ? シーラの婚約者なのですって。彼女の婚約者であれば、信頼できる人だと思うのだけれど……」
アルマスも何かを考えているようだ。オウネル侯爵家と自分の関係を思い返しているのだろう。
「……なるほど。それはいいかもしれませんね。では、候補の一人として考えておきます」
「ありがとう。それからもう一人は、わたくしに決めさせていただけないかしら? できれば女性がよくて……」
「そうですね。そういうことであれば、エメリーネ様がご希望される方を補佐官とするのがよろしいかと」
アルマスのオーラに変化はなかった。そこでエメリーネはほっと息を吐く。
それからお礼状の書き方の指導をしていったアルマスは、満足した様子でエメリーネの執務室を出ていった。
エメリーネはすぐにシーラを呼ぶ。
「シーラ、ベルジュ公爵にお見舞いのお礼をしたいと先ぶれを出してちょうだい」
「エメリーネ様?」
「ベルジュ公爵にはお見舞いをいただいたから。怪我が治ったことお伝えしなければと思ったのだけれど?」
エメリーネが小首を傾げて言えば、シーラも「承知しました」と恭しく頭を下げた。




